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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十章 終わる者 始まる者
152/228

姉の代わりにVTuber 150


(アイツ……、何であそこに居たんだ??)


疑問を持ったまま、浜崎はまさき ゆいと別れた穂高ほだかは、便意を感じたため、『チューンコネクトプロダクション』のトイレを利用していた。


唯と出くわした事もあり、この場に長居するのは良くないと思いつつも、生理現象には勝てなかった。


穂高は便座に座りつつも、考える事は唯の事ばかりで、色々な憶測が巡っていた。


(そういえば、佐伯さえきさんとも一緒にいる所を見かけたし、何か繋がりでもあんのか?

88(ハチハチ)は有名実況者だから、コラボとか無くはないんだろうけど……、今まで配信では見た事も、聞いた事も無いし……。

今後予定してるのかって言っても、ハチ自体、引退をするって言ってたしな)


唯がここにいる理由は、簡単には思い浮かばず、考えるうちに、穂高は、根拠はないが違う推測が思い浮かんだ。


(88としてここに来たわけじゃ無いのか……?

出会った場所も妙だしな……。

まさか、面接……に来たんじゃないよな……?)


二次面接の会場で出会った事もあり、可能性は低くなかった。


(でも、アイツ配信を辞めたがってるような節もあったし、88を引退して、『チューンコネクト』に来るなんてことあり得るんだろうか。

今まで積み上げてきた活動を辞めてまで??)


穂高はいくら考えても、どうしても真実にはたどり着かなかった。


そもそも、唯がどうして88を引退するのか、その理由が分からない穂高には、真実など知りようも無かった。


「昔の戦友で、知り合った仲だと思ったけど……、今の俺は、ハチの事何も知らないんだな」


誰もいないトイレでポツリと呟き、考え事をしている間に、用を済ませていた穂高は、個室から出ようと、扉に手を掛けたところで、『チューンコネクトプロダクション』の社員達がトイレに入ってきた。


話声と足音を聞き、穂高はすぐさま個室から出るのを諦め、社員がトイレから出るのを待つ。


「いや~~、今日の仕事はホント進まんなぁ~~」


「しょうがないっすよ。

面接に結構駆り出されちゃってますし、企業案件の話、とっととスケジュール決めちゃいたいんすけどねぇ~~」


穂高の入っているトイレに現れたのは、男性社員二人であり、会話をしながら、二人は用を足していた。


「――っていうか、知ってるか? お前。

今日やってる面接ってちょっと特殊らしいぞ??」


「特殊?? なんすかそれ……。

デビューさせる人数はいつもより少ない、二人ですけど、オーディションは例年通りじゃないすか」


トイレで話す社員の話題は、穂高も興味を引かれるものであり、個室に入ったまま、二人の話に耳を澄ます。


「確かに、やり方は例年通りだけど、多分、もうある程度合格者は決まってるぞ??」


「え!? どゆことっすか??」


少しけだるそうに話す先輩社員の言葉に、後輩は驚いた様子で声を上げ、穂高も思わず少しだけ声を漏らした。


「第一試験でかなりの実力者がいたとか?

二次面接するまでも無い、逸材が居たとか??」


「ちげーよ、そうゆうんじゃなくて……、まぁ、なんというか……、出来レース?みたいなもん。

オーディションは、もう半分形だけみたいな感じなんだよ」


「なんすかそれ……。

じゃあ、今日やってるオーディションは意味ないって事っすか??」


事情を知る先輩に対し、後輩は少し不満げに尋ね、会話に入る資格の無い穂高の聞きたい事を、そのまま代弁してくれていた。


「お前もおかしいと思わなかったか? 今まで最低でも4人は新人デビューだったのに、今回はたったの二人……。

『チューンコネクト』も凄い人気になってる今の状況で、新人二人って結構重荷っていうか、プレッシャーもあるだろ。

新人に相当の自信が無いと、二人だけで新しい世代『七期生』を名乗らせるなんて難しいだろ?

しかも、六期生をデビューさせた時は、次からは最低でも6人で、七期生をプロデュースするって話があったらしいし」


「ま、まぁ……、変だって言うのは何となく分かりますけど……、それが何で出来レースに繋がるんですか??」


先輩は用を足し終え、水を流すと、洗面台へと移動する。


(おいッ! この話題だけは、知ってること全部話してから行ってくれよッ!!)


トイレから出て行って欲しいと思っていた穂高だったが、状況は劇的に変わり、後輩の用を足しが少しでも長くなる事を祈った。


「――これは噂で聞いた話なんだがな??

どうやら、二人デビューさせる内の一枠は、既に決まってるらしい」


「そ、そうなんすか??

そんな、オーディション前に決まるなんて……、けっ、結構実績ある人?とか? ゆ、有名人?とか??」


「余裕で有名人だな……。

特にこの業界でやってれば知らない人はいないレベルの……」


穂高はここまでの話を聞き、思い当たる人物がすぐに頭の中に思い浮かんだ。


「88(ハチハチ)。

現役の超人気ストリーマー」


「ま、マジっすか…………」


穂高は答えを聞かずとも、分かっていたが、先輩社員から遂にその名前を告げられ、落胆した。


(ハチがオーディションに出て……、ってゆうか、そもそも一枠決まっていたのだとしたら、杉崎すぎさきの合格は相当厳しんじゃ……。

二次面接には、元々個人で配信をしていた、配信に対して慣れている層も多分多い。

ハチが新人でデビューしても、配信をこなれている分、もう一人の新人も、見劣りしないよう、配信には慣れた人材を選ぶかもしれない)


唯がオーディションを受けている、噂ではあったが、既に合格者の一枠を、唯が獲得しているという話を聞き、穂高は一気に春奈はるなの合格に不安を感じた。


「多分、今回の新人デビューの目玉は、88だ。

二次面接はあくまで、88に合いそうな子を選ぶんだろう。

バランスを見て、選考される」


「なんか、やりきれないっすね……。

今まで通り選考してほしかったです」


「公正な判断を期待してたって事か? 別に不正でも何でもないだろ。

今までだったら良かったのかもしれないけど、『チューンコネクト』は大きくなり過ぎた。

新人デビューなんて大きな仕事、簡単に失敗出来ないし、超大型新人獲得なんだから、上は喜んで今回のオーディションを企画するだろうよ」


トイレで話す二人の社員には、どちらも今回のオーディションに思うところがあるのか、少しだけ言葉の節々に棘あるように、穂高は感じた。


「とうゆうか、88の獲得は別に俺はいいんだよ?

何回もオーディションしてれば、こうゆう事だってある。

――ただ、88とデビューさせられる新人が気の毒だなとは思うな。

何をしたって比べられるだろうし」


先輩社員はそう言いながら、トイレから出て行き、会話に集中していた為、穂高は気づかなかったが、いつの間にか後輩も用を済まし、手洗いを終えていた。


そして、先輩に続くようにして、後輩社員もトイレを後にする。


(いろんな事情が重なって、今回のオーディションをやってるんだな。

――――とゆうか、佐伯さえきさんはこの事を知ってたのか??

唯と一緒に居るところも見かけたし……)


「はぁ~~~、杉崎、俺の知り合いがオーディションを受けるって知ってるなら、事前に教えてくれてても良かっただろ」


佐伯がその事を伝えるはずが無いと分かっていながら、穂高は佐伯の愚痴を呟いた。


(合格者二人を謳っておいて、実際は一枠は合格者が埋まってるなんて……。

オーディション参加者に対して、失礼極まりないな)


そして、穂高の中で少しだけ、『チューンコネクトプロダクション』に対して、黒い感情を抱いた。

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