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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十章 終わる者 始まる者
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姉の代わりにVTuber 146


穂高ほだかは自分の姉、美絆みきが『チューンコネクト』のVtuberである事が、春奈はるなにバレている事が分かると、腹を括り、潔く春奈にリムの話題を振った。


穂高が意を決して、話した言葉を最後に、再び春奈と穂高の中で沈黙が流れる事になったが、その沈黙は長くは続かなかった。


「やっぱりそうなんだねッ!?

天ケあまがせ君のお姉さんがリムなんだッ!!」


一瞬黙り込んだ春奈に、穂高は嫌な予感を感じたが、その感覚は杞憂に終わり、春奈は今日一番の盛り上がりで、明るく勢いよく穂高に答えた。


てっきり今まで隠してきた事を非難されると思っていた穂高は、春奈の思わぬ反応に、少しだけ面を食らった。


「――あ、いや……、怒らないのか??」


「怒る!? なんで?

確かにもっと早く言ってよッ!っていう気持ちはあるけど……。

事情が事情だしね? しょうがないよ!

――――とゆうか、今はむしろ感動的で、

こんな身近に、憧れの存在が実現してるんだって……。

打ち明けてくれて嬉しい気持ちの方が大きいよッ!!」


戸惑う穂高に対し、春奈のテンションは頂点へと達し、両手を組み、今にも神に感謝の祈りを捧げそうな勢いだった。


「じ、自分の推し……、財前ざいぜん アリスじゃなくてもそんなに嬉しいものなのか??」


穂高は自分も『チューンコネクト』のファンであるという設定を忘れ、春奈の喜びようから思わず尋ねてしまった。


「そ、そりゃ一番に会いたい、推してるのはアリスちゃんだけどぉ……、そ、それでも『チューンコネクト』っていうだけで凄いよッ!!

――――と、友達のよしみとかでさぁ? さ、サインとかお願い出来たりしないかなぁ……?」


春奈は、穂高の質問に力強く答えた後、今度はしおらしく、穂高の様子を窺うようにして、リムのサインを強請り始めた。


「ゔッ……、ま、まぁ頼めなくはないけど…………。

とゆうか、自分もなるわけなんだから、『チューンコネクト』の一員になって、自分から頼む方が良いんじゃないか?」


「それじゃあ、いつになるかわからないよッ!!

一員になっても、すぐにリムちゃんとかと交流が持てる確証ないし……。

き、緊張とかしちゃって、自分からは中々……」


春奈の自信のなさげな返事に、穂高はそんなことで大丈夫かと心配に思ったが、面接に受かった後、『チューンコネクト』に入った後の、余計な心配事を春奈に持たせない為にも、口には出さなかった。


「まぁ、一視聴者ででしかない俺が言うのもなんだけど、『チューンコネクト』はみんな仲良さそうに見えるし。

色々、誰と誰は不仲だとかそういった噂も聞く事あるけど、姉貴の様子を見てる限りじゃ、そんな風にも見えないしなぁ~~。

気休めにはならないだろうけど、杉崎すぎさきなんてリアルであってしまえば、誰とでも仲良くなれちゃうんじゃないのか??」


「――え?」


ポツリポツリと話し始める穂高に、春奈は「何故?」といったように声を上げ、そんな春奈に構わず続けて話した。


「学校での杉崎の様子を見てれば一目瞭然だろ?

人気者で、人格者だし……。

容姿端麗で、男子にはもちろん、女子からの人気も高くてモテるわけで……」


「う、う~~ん。

前半は素直に嬉しいんだけど、後半は喜んで良いものなのかな……?」


穂高的には後半、一番最後に答えた言葉が、何より一番重要であるポイントであったが、普段から同性にモテている事は、良しとしていなかった春奈は、少しだけ困ったようにしていた。


「そ、そういえばッ!

リムちゃんの事で思い出したけど、こないだやってたリムちゃんのリアル弟が出てた配信って、あれはやっぱり、天ケ瀬君ッ!?」


「い、嫌なとこ突いてくるな急に……」


リムの話題からそれ始めた会話を、春奈は再びリムの話題へと戻し、思い出したかのように話した春奈の話題は、穂高にとってあまり触れて欲しくない話題であった。


(自分で企画しておきながら、嫌な思い出になるとは……。

俺にとっても黒歴史というか……、地獄の企画だったんだな)


リムの弟である事を、打ち明けるつもりで無かった穂高は、第三者にこの話題を振られるとは考えても無く、いざその状況になると、何とも恥ずかしいような、そんな気持ちにさせた。


「あ、あれってやっぱり専用のスタジオとかで撮影したの?

リムちゃんの事を結構赤裸々に語ってたけど、リアルのリムちゃんって話してた通りなのッ!?」


春奈の興味は完全に、リムの地獄企画と評した配信での話題に移り、配信で話していた事や、それ以外の裏話何かを、穂高に根掘り葉掘り質問した。


そして、そんな興味惹かれる話題を話していると、あっという間に試験会場へと到着をし、話に夢中になっていた為か、春奈は道中で、緊張をぶり返すことなく、余計に精神を擦り減らせる事無く、会場へ到着していた。


「こ、ここが本社ビル……」


何階建てか分からない高層ビルを地上から見上げ、春奈はポツリと呟いた。


(本社ビル……。

lucky先生にリムの入れ替わりがバレて、事情説明の為に来たり、リムの地獄企画の撮影の為にここに来たりと、あんまり良い思い出は無いよな……)


感慨深そうにビルを見つめる春奈に対し、穂高は本社にあまり良い思い出が無い事を思い出し、少し憂鬱な気分でビルを見つめた。


「――じゃあ、俺は適当に試験が終わるまで時間を潰してるから、終わったら連絡くれよ?」


「え……? 待っててくれるの……?」


当然の事の様に話した穂高に対し、春奈は目を大きく開き、驚いた様子で答えた。


「そんな驚かれる事か? 付き添いで来た以上最初からそのつもりだったし……。

――ん? もしかして、迎えは誰か来るとかだったか??

それだったら悪い、余計な事だったな」


穂高は途中から、自分のお節介かと思い始め、付き添いだけを頼んでいた春奈は、穂高の言葉に驚き、返事を返すのが少し遅れる。


「――――い、いやッ! 全然ッ!! 誰も迎えに来る予定なんて無いよ!

む、むしろありがたいっていうか……。

面接終わって、不安のまま一人で帰るのも心細かったし……」


「そうか、じゃあ、喫茶店で時間潰してるから……。

――――思い切ってなッ?」


穂高は最後になんと声を掛けるか少し迷った。


頑張れよと声を掛けても良かったが、今まで春奈が頑張ってきていたのは知っていた為、何よりその頑張りが報われるよう、悔いが残らないように、試験を終えれるよう、その言葉を掛けた。


「うん。

それじゃあ、行ってくる!」


穂高の激励を受け、春奈は力強く答えた後、穂高に背を向け本社ビルへと入っていき、穂高は春奈の背中を見届けると、予定通り時間を潰す為、一先ずその場を後にした。

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