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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第九章 夏休み
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姉の代わりにVTuber 144


心地よい海風を感じる中で、穂高ほだかは、春奈はるなの言葉を聞き、驚いた表情で硬直していた。


対して春奈はある程度、心を決めて話していた節もあった為、穂高の動揺に心動かされることは無く、自分の考え通り、想像通りの結末に、冷静な様子で、穂高を一点に見つめていた。


穂高を見つめる春奈は、悲しげな表情を浮かべていたが、穂高がそれを気遣う時間を、与えてはくれなかった。


「まぁ、俊介しゅんすけ達のコソコソ話を聞かずとも、何となく妙だとは思ってたけどね……。

瑠衣も、異変には気づいてたし」


「そ、そうか…………」


動かぬ証拠を、突き付けられたような状態になっている穂高は、上手く返事が返せず、相槌を打ち誤魔化す事しか出来なかった。


「――――べ、別にそこまで怒っては無いけどねッ!?

ま、まぁ~、ちょっと嫌かなぁ~~ってくらい」


「悪かった……。

全面的に俺が悪い」


春奈の優しさからか、穂高を気遣うような言い回しに、穂高はこれ以上春奈に甘えまいと、すぐに自分の非を認め謝罪した。


(――――あの馬鹿共……、簡単にバレやがって…………)


穂高自身、協力しながらも、少しだけ後ろめたさを感じており、本人にバレていた事で余計に罪の意識を感じ、大貫おおぬき若月わかつきへの恨み言を、心の中で呟いた。


「――え、えっとぉ……さ?

一応、どうしてか理由を聞いても良いかな?」


穂高は、この話題はここで終わるかと、勝手にそう思い込んでいたが、春奈は話題を変えるつもりはなく、微妙な、ぎこちない雰囲気をそのままに、続けて穂高に尋ねた。


「り、理由って言ってもな…………。

頼まれたからとしか……、今日どんなやり取りが大貫達とあったかは、俺には分からないけど、こんなことした理由に関しては、あいつらに直接聞いてくれ」


穂高は素直に大貫達に協力した理由を答え、それ以外の事に関しては、穂高の口から答える事を控えた。


穂高が答えている途中、春奈はボソリと、「頼まれて……」と小声で、言葉を零すように呟き、穂高もその言葉に引っ掛かりはしたものの、特に気にする事は無かった。


そして、二人の会話は一度そこで途切れ、数秒の沈黙の後、春奈は大きく息を吐くと、意を決した様子で、穂高に話しかける。


「あ、天ケ瀬君……。

――――私ね? 好きな人がいるんだ」


「えぇッ!?」


突然の春奈の告白に、穂高は驚き、ギョッとした目で春奈を見つめ、慌てる穂高に対し、春奈は真剣な表情で穂高を一点に見つめていた。


堂々として見える春奈であったが、少し表情は強張り、頬は赤く染まっていた。


冷静に見れば、緊張の色も見える春奈であったが、穂高はあまりの衝撃にそんな事には気づかず、覚悟を決めた春奈はアドレナリンのせいか、変に引く様子も見せず、そのままの勢いで話し始める。


「――も、もちろん恥ずかしいから、誰か…………なんては言えないけど。

それは俊介じゃない。

――――だから……ね?

天ケ瀬君にこういう事されると……すごい困る!」


先程は、穂高を気遣ってか、曖昧に嫌だという事を伝えた春奈だったが、穂高の反応を見て、先程のような曖昧な表現では無く、きっぱりと強く、自分の意志を伝えた。


「わ、分かった…………。

ホントにごめん」


珍しく、強く主張する春奈に、穂高は春奈を怒らせてしまった、傷つけてしまったという認識の方が強く、春奈の前半の言葉は、ほぼほぼ頭から抜け、誠意を込め、春奈に謝罪した。


春奈は、心からの謝罪が欲しかったわけでは無かったが、頭を下げ謝る穂高に、自分の一番伝えたい事は伝わったと認識し、それ以上、この事に対して追及することは無かった。


以降、穂高は大貫達の恋路に、変に干渉する事を、これからは行わないと心に誓った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


春奈の告白から数分。


穂高と春奈はその後も、たわいない会話を続け、話題は春奈の『チューンコネクト』の二次試験の話題へと変わっていく。


「あッ! そういえば、天ケ瀬君に手伝ってもらってた、二次試験の件だけど、この日付が決まったよ?

私は、試験期間中の二日目、最終日」


「最終?

三日間で試験するんじゃ無いのか??」


「一次試験の合格者がそこまで多く無いから、期間を短縮して、二日間で行うみたい。

――――え、えっと……、それでなんだけどさ?

天ケ瀬君にお願いが一つあって……」


自然と話していた春奈は急に歯切れ悪くなり、穂高の様子を伺う様に頼みを切り出した。


穂高は、そんな春奈の様子に、少しだけ嫌な予感を感じたが、直近で春奈に対して、負い目を感じるような行為を取った事で、簡単に頼みを断れない状況にあった。


「な、なんだ? 頼みって…………」


内容次第ではあったが、穂高は概ね、春奈の頼みに答えるつもりで、春奈に要件を促した。


「じ、実は~~さ? 本番当日、どうしても緊張とかで、今からでも自信が持てなくってさ??

も、もし、天ケ瀬君が都合がつくのであれば、一緒に試験会場まで来て欲しいんだよね……」


「なッ!? 一緒に??」


穂高は思わぬ提案に尻込み、春奈と一緒に会場に向かう事は、大きな問題では無かったが、会場となる場所が問題だった。


(試験会場って確か……、『チューンコネクトプロダクション』の本社だよな?

俺が行くのは色々マズいだろ……、事前に連絡したとしても、リスキーだしな。

――――でも、大貫達に協力してたのがバレた手前、断りずらいし、何よりここまで面倒見てきて、本番はほったらかしじゃ、あまりにも無責任…………)


グルグルといろんな事が頭に思い浮かび、行くべきかどうかを数秒考えた後、春奈の試験に付いていく事を決めた。


「――わ、分かった。

でも、俺は部外者だし、建物も前までくらいしか行けないと思うぞ?」


「うん! それでもいい!!

ありがとうね!? 天ケ瀬君ッ!!」


渋々首を縦に振った穂高に、春奈は不安が消えたかのように、一気に表情が明るくなり、眩しい程の満面の笑みで、穂高にお礼を告げた。


(建物に入るつもりも無いし、どこまで杉崎の不安を取り除けるかは、分からないけど、少しでも気持ちを軽くできるなら、やっぱり行くべきだよな)


春奈の笑顔を見て、穂高は自分の出した答えが、間違いで無い事を再確認し、試験の当日、穂高も同伴する事が決まった。


次回 第十章『終わる者 始まる者』

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