姉の代わりにVTuber 142
◇ ◇ ◇ ◇
ナンパ騒動を終え、午後16時を過ぎ、再びひとしきり遊んだ春奈達は、3-Bのキャンプへと戻っていた。
彰と穂高が、協力して実行していた作戦は、既に役目を終え、春奈達が戻ってきた頃には、他の3-Bの生徒達が数人見受けられた。
3-Bのキャンプに戻るなり、春奈は一旦、大貫達と別れ、穂高の姿を探した。
「――――いない……。
さっきのお礼も言えて無かったし、話したいんだけど…………」
誰にも聞こえない程の声量で、ポツリと呟きながら、辺りを探す春奈だったが、穂高の姿は依然として見つからず、代わりにある人物が、春奈の目に留まった。
「彰! 彰達も休憩??」
午後は、ほとんど穂高と行動していた彰を見つけ、春奈は穂高の居場所を尋ねるつもりでいた。
「あぁ、春奈か……。
そうだね、一部だけだけど、休憩する人はここに戻って来てる」
「一部だけ…………。
――そ、そういえば、天ケ瀬君は? まだ海に居るの??」
唐突な質問だとも思ったが、春奈は気まずさを感じつつも、単刀直入に穂高のここを尋ねた。
「穂高? なんで??」
少しだけ、おどついた様子で尋ねた春奈に対して、彰は素直には質問に答えず、春奈の質問に、質問で返した。
「え? な、なんでって……、彰と天ケ瀬君、仲良いじゃん……。
今日も結構一緒に行動してたし、どうしたのかな~~って……」
「ふ~~~ん」
しどろもどろに話す春奈に、質問した彰は、何故かつまらなそうに呟いた。
そして、何故か彰はそのまま続けて話す事は無く、彰と春奈の間に沈黙が流れる。
「――――いや、ふ~~んじゃなくってッ!
天ケ瀬君は、結局どうしたの……?」
自分の質問を無視された事に、春奈は少し怒りながらも、めげずに続けて穂高の居場所を聞いた。
「はぁ…………。
――まぁ、もういいか……、時間的にももう引き上げるようなタイミングだし……」
春奈の追及に、彰は深いため息を付いた後、ぼそぼそと、春奈には聞こえないような小声で呟いた後、続けて春奈に答えた。
「穂高なら一足先に上がったよ?
今頃は海の家で、もう着替えてる頃だと思う」
「えぇッ!? なんでッ!?」
春奈には視線もくれず、海を見つめながら淡々と話す彰に、春奈は驚いたように声を上げ、訳を尋ねた。
「――遊び疲れたって言ってたかな…………。
でも多分、理由は他にありそうだけど」
「ほ、他って……?」
「流石にそこまでは分からないよ。
そもそも、疲れたって聞かされたんだから……」
「そ、そう…………」
彰からこれ以上の情報を聞けないと分かった春奈は、彰と別れ、3-Bのキャンプを改めて見渡す。
(――――彰の言う通り、やっぱり先に上がってるんだろうな……。
天ケ瀬君と今日、結構一緒にいたはずの愛葉さんは、ここに居るし、松本君や瀬川君もいるしな…………)
穂高が一緒に行動していそうな人物が、あらかたキャンプに集合している事から、春奈は彰の言葉を信じ、穂高が先に、海の家に行ってしまったという事実を再認識した。
穂高がいない現状に落胆する春奈だったが、不意に、彰の最後の言葉を思い出し、今度は武志と瀬川へ声を掛けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~~、風が気持ちいぃ~~~~」
3-Bの集団から離れ、一足先に海の家に戻っていた穂高は、着替えを済ませ、浜の近くにある、堤防へと足を運んでいた。
海から来る風を感じながら、堤防を歩き、今日一番のリラックスをしながら、海を見ていた。
「――――色々あって、今日は来れないかと思ったけど……、これて良かったぜ……。
これで、今年、あるいは来年の偵察が出来るッ」
穂高は、今日一番の高揚を感じながら堤防を歩き、自分がまたここに訪れた際に利用する、釣りスポットの偵察をしていた。
(まぁ、釣りを今日はできるとは思っていなかったけど、やっぱり海に来るとしたくなるよなぁ~~。
場所だけでも見れて良かった……)
穂高は、堤防で釣りをしている人たちを尻目に、それぞれの戦利品の具合も確認していた。
数分程、プラプラと歩いていた穂高だったが、そんな穂高に、女性の声が掛かった。
「――――天ケ瀬君ッ!? やっと、見つけたぁ…………」
自分の名前を呼ぶ声に、声の方向へと穂高は振り返ると、そこには、息を切らした春奈の姿がそこにあった。
穂高とは違い、春奈は海の家へと寄っておらず、水着姿のままであり、ビーチよりは、人は少ないと言えど、春奈の水着姿は、その場では少し浮いてしまっていた。
「おぉ? 杉崎!?
なんでここに……?」
息を切らせながら現れた春奈に、穂高は純粋に驚き、同時に疑問も湧いて出た。
「松本君と瀬川君に、ここじゃないかって聞いて……。
――お礼ッ、まだ言ってなかったし……」
春奈はまだ息が整っていない様子で、途中途中、文を区切りながら、穂高の質問に答えた。
「お礼? なんかしたか? 俺……。
ま、まぁ、とりあえず、場所移動するか? ここじゃ、アレだし……。
息も切らしてるし、飲み物でも買いにさ?」
穂高は一先ず、春奈に気を使い、春奈も、自分の姿が若干浮いていた事には、薄々気付いていた為、穂高の提案に素直に応じた。
穂高と春奈は場所を移し、飲み物を買ったうえで、再び浜へと戻っていた。
3-Bのキャンプは海に近い浜辺に作っており、海の家まで戻ってしまった穂高には少し距離があり、そこまで戻るのは面倒だった為、海の家の近くで、春奈と飲み物を飲みながら、話をした。
「さっきは助けてくれてありがとね?
ナンパから助けてくれてたでしょ??」
一息ついた春奈は、開口一番に、穂高に伝えたかった事を伝えた。
「あぁ~~、お礼ってその事か……。
別に、助けたのは俺じゃないだろ?? 大貫と若月が助けに行ったんだから…………。
俺は、大学生にビビって、遠くで見てただけで……」
春奈の言葉に、穂高は思い出したように話だし、手助けした事を否定した。
穂高のそんな返答に、いつもなら謙遜をしているのだろうと、そう思う春奈だったが、穂高の言い方は少し、春奈に違和感を感じさせた。
「天ケ瀬君がビビるなんて……、あ、あんまし想像できないけどなぁ~~。
ストーカーの時だって、ど、堂々としてたし…………」
違和感を感じた春奈だったが、その違和感に付いては深く考える事無く、昔の事を思い出し、春奈は自然と口角が上がり、ニヤ付きながら話した。
「あん時はほら……、相手一人だったし……。
今日みたいに大勢いたわけじゃ無いだろ??
――――それに、大貫と若月、イケメン二人に助けて貰った方が、女性的にも良いんじゃないか?」
過去に助けて貰っていた光景を思い浮かべ、少しだけニヤついていた春奈は、何気なしに話す穂高の言葉が引っ掛かった。
穂高の性格が段々と分かり始めた春奈は、今日の状況でも、穂高は怖気づかないだろうと思っており、春奈の中での想像でしかなかったが、その考えには自信があり、確信めいたものが春奈の中にあった。
「――――わざと……、じゃないよね…………?」
春奈の思考はまとまらないままだったが、自然と言葉は零れ、表情は少しだけ強張り、硬直していた。
「――え? 今、なんて??」
春奈の零した言葉は、穂高の耳に届いてはいたが、ほとんど意識の無いままに、自然に零れた春奈の言葉を、穂高が聞き取れるはずも無く、純粋に春奈に聞き返した。
「え? あ、いや……、なんでもないよ?」
声のボリュームもかなり小さかった為に、穂高は聞き返してきたが、春奈が自然に零した言葉を、もう一度穂高に伝えるはずも無く、取繕う様にして春奈は返事を返した。




