姉の代わりにVTuber 141
「なッ! ナンパってヤバいじゃんッ!」
「四の五の言ってんな! 助けに行くぞ!」
春奈と瑠衣は、五人の男性に囲まれており、見た目から高校生とは思えず、チャラついた風貌、遊び慣れている雰囲気から、大学生だと穂高は思った。
そして、春奈達の危機的状況に、大貫と若月はすぐに行動に移そうとする。
「あ、天ケ瀬も行くぞッ! ほら! 早くッ!!」
春奈達の元に行きかけたところで、大貫は穂高が動いていない事に気づき、自身に急ブレーキをかけ、穂高へ振り返り、力強く呼びかけた。
切羽詰まる大貫に対して、穂高は飄々としており、落ち着いた様子で、大貫の言葉に答え始める。
「はぁ~~、せっかくの見せ場だろ??
俺が行ってどうする…………。
ホントにヤバくなったら手を貸す。
ほらッ! 行ってこい!!」
ため息交じりに答える穂高に、大貫は一瞬困惑するも、穂高がここに来ても、協力してくれているのだと解釈し、それ以上穂高を呼ぶことは無かった。
穂高の態度を見て先行する大貫、そして、そんな大貫を見て若月も、後を追いかけ始めようとするが、そんな若月を穂高は呼び止めた。
「若月。
人数的に、助けに行っても分が悪いかもしれない……。
相手が引かなかったら、俺を出しに使え。
――――大貫程馬鹿じゃないお前なら、分かるだろ??」
呼び止めた若月に、穂高は一方的に、言いたい事を伝え、穂高の抽象的な指示に、若月は一瞬眉を顰めるも、穂高の意図が通じたのか、すぐに力強く頷き、大貫の後を追っていった。
「――――上手くいけばいいけど………………」
穂高は、春奈たちの元へ向かう大貫達の後姿を見ながら、ポツリと呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇねぇ、そんなこと言わずにさぁ~~、俺らと遊ぼうぜ~?
君ら高校生? 俺ら、大学だから遊び慣れてるし、せっかくの夏じゃん、楽しい思い出作ろうぜ~~??」
大貫達と海を満喫していた春奈達は、小休憩を行う予定になり、大貫達と別れ、春奈達は飲み物の調達をしていた。
飲み物の調達を終えたところで、大貫達と再会し、なぜか大貫達にお手洗いへと勧められ、遊びに出れば、中々訪れる事が出来ないという事もあり、大貫達の言葉に甘えるようにお手洗いへと向かっていた。
そして、お手洗いから出たところで、五人組の大学生に目を付けられ、執拗な勧誘に会っていた。
「い、いや……、私達、友達と来てるんで…………」
何度目かの誘い言葉に、春奈は苦笑いを浮かべながら答えた。
「友達?? いいよ~~、じゃあ、友達も呼んで一緒に遊ぼうよ~~。
女友達? 君らの友達ってことは、その友達もさぞ可愛いんだろうなぁ~~」
「お、男友達ですよ?
もうそろそろ戻ってくるんで、ご一緒はできないです」
春奈の断わりでは弱いと感じた瑠衣は、まだまだ諦める様子の無い男性陣にはっきりと伝える。
そして、瑠衣の男友達という言葉に、誘ってきた男達は一瞬眉を顰め、明らかに嫌そうな表情を浮かべた。
「そ、そうゆう事なんで、じゃあ、私達はこれで……」
眉をひそめた男性陣の表情を瑠衣は見逃さず、畳みかけるように、一言断わりを入れ、春奈と共にその場から離れようとした。
「――待った待った~~。
へぇ~~、男と来てるんだ~~~。
でも、こんなにかわいい君達をほっぽって何処かに行くなんて、そんな男達どうなの?
俺達と遊んだ方がよくね? 楽しいよ? 絶対。
高校生なんかよりも、羽振りいいぜ??」
瑠衣の作戦は一人の男性に阻まれ、まだ諦めないその男性の姿勢に、男がいるといった瑠衣達に、一瞬ひるんだ男性陣たちも、気を持ち直し始めた。
まだ執拗に絡む男性陣を前に、春奈と瑠衣は一瞬、互いに顔を見合わせ、言葉は交わさずとも、ここは強引に、強く拒否しなければ解放されないと認識し、春奈は行動に移そうとした。
キッパリ断ろうと、意を決して口を開いたその時、春奈達に聞き慣れた男性の声が掛かる。
「春奈ッ! 大丈夫か!?」
声のする方へと視線を向けると、そこには大貫と若月の姿があり、大貫は焦った様子で、心配そうに春奈達を見つめていた。
「俊也!?」
大貫の声を聞き、姿と認識すると、春奈は少しだけ状況が好転した事に安堵した。
大貫は、春奈と瑠衣の元へと駆け寄ろうと思ったが、瑠衣と春奈は大学生グループに、囲まれるようにしており、すぐそばまで近寄る事は出来なかった。
「なになに~? さっき言ってた友達??
――イケメン君達だね~~??」
大貫達の登場で、大学生達が諦めるかと春奈達は思っていたが、大貫達が来てもまるで怯む事は無く、むしろ圧を掛ける雰囲気で、大貫達へ声を掛けた。
「――――彼女達、俺達の友達なんで……。
もう解放してくれないですか?」
「解放? 人聞きの悪い……。
今、俺達もこの娘達と友達になったばっかりなんですけど~~。
――てか、ガキが邪魔しないでくんね??」
丁寧に頼んだ大貫の言葉は、大学生には通じず、むしろ大学生達に火をつけるような形になってしまう。
大学生の言葉に、大貫は眉を顰め、険しい表情を浮かべ、そんな大貫と大学生達のファーストコンタクトを見ていた若月は、このままでは埒が明かないと、すぐに結論を出した。
そして、事件解決の為、若月は思考をフル回転させる。
思考を巡らせる中で、穂高の、つい先程の別れ際の言葉が頭に過り、ある作戦を若月は思いついた。
「――――なぁ、あんまりしつこいと、俺らにも考えがあるんだけど??」
若月は少し離れたところで、状況を見ていた穂高に、一度だけ視線を向け、穂高の姿を確認すると、今度は若月の方から強気に、大学生へと言葉を投げかけた。
「はぁ?? 考えって何?
もしかして、手荒な事??
――――いいよ、お前ら生意気だし、ボコってやっても」
若月の考えを勘違いした大学生は、自分達の頭に少しだけ過っていた考えを、そのまま口に出し、暴力には自信があるのか、高圧的な態度をそのままに、若月に言い返した。
「手なんか出すわけ無いだろ?
――あそこに俺達の連れが居るの分かる??
俺らにもし何かがあったら、警察を呼ぶように待機してもらってるんだ」
若月はそう言いながら、少し離れた位置に立つ穂高を指さした。
若月の指先に導かれるまま、大学生達、春奈達は視線を向け、穂高の姿を確認し、穂高は携帯を持ってはいなかったが、電話を掛ける仕草を取っており、少し離れた位置に居た事もあり、遠目から見ている若月達には、本当に電話を掛けているように見えた。
「お、お前らッ!?」
「――これ以上絡むと、警察来るよ?
助けに来る前に、示し合わせてるから、時間で掛ける様に話してあるし……」
動揺する大学生に、若月は淡々と話し、若月自身もハッタリだという事は自覚していた為、それを悟られないように、出来るだけ堂々とした振る舞いで話した。
「――ちッ! もう行こうぜ」
若月の態度と、穂高のジャスチャーで、大学生の一人が諦めるような言葉を発し、その言葉に釣られるようにして、次々と大学生は諦め、これ以上春奈達に絡むのを止めていった。
「大丈夫? ケガとかは??」
大学生達が立ち去っていくのを確認し、大貫はすぐに春奈達の元へと駆け寄った。
「――え? あ、うん……、ケガとかは大丈夫…………」
「ホントに? よかったぁ~~~……」
大貫の質問に、春奈は正直に答え、春奈達の姿を見て、特に目立った外傷等も無い事を確認し、大貫はホッと息を付いた。
若月も歩み寄り、大貫達に心配される中、春奈はある方向が気になり、ふと、彼がいた場所へと視線を向けた。
「――――あれ……? もういない…………」
つい先程までいたはずの、少し離れた位置に居た、穂高の姿を春奈は探すも、既に穂高の姿は見当たらず、春奈は穂高の姿が見えなくなった事に、寂しさを感じていた。
誤字報告ありがとうございます。




