姉の代わりにVTuber 140
「お、おいッ! お前ら! 何やってる? こんなとこでッ!?」
大貫と若月の姿を見付けた穂高は、大貫達に駆け寄るなり、慌てた様子で声を掛けた。
「お、おぉ~~……、天ケ瀬?
天ケ瀬こそこんなとこで、どうしたんだ?? 他の皆は?」
「何呑気な事聞いてんだ? 他の奴らなら、今、小休憩中だよ。
3-Bのキャンプ使ってる……、今帰ったら、出くわすぞ??」
慌てる穂高に対して、危機感のない大貫の反応に、穂高は若干苛立ちを感じつつも、状況を大貫達に伝えた。
「え? マジで??
や、やべーー……、俺らもこれから休憩する予定だったのに…………。
どうしよう」
穂高の話を一通り聞くと、大貫は、今度は若月の方へ視線を飛ばし、助けを求める様に声を上げた。
「どうするも何も、俺達の方でずらすしかないだろ?」
大貫と若月が相談を始め、その会話を聞きながら、穂高は少しずつ状況を、頭の中で整理していった。
大貫と若月の手には、焼きそばやたこ焼き等が入った、プラスチックのパックを持っており、まさにこれから3-Bの生徒達が用意した、ビニールシートの上で食べようと計画しているように見えた。
(食べる気満々だったんだな……。
――でも、幸いにも杉崎と四条の姿はまだ無い、
飲み物でも買いに行ったのかは知らないけど、まだチャンスはあるな……)
穂高は簡単に考えを纏めると、自分だけではこの状況を打開できないと考え、彰にも協力を求めようと結論出した。
「――一先ず、お前らは杉崎と四条と、いち早く合流しろ!
少しでも、時間を稼ぎつつ、3-Bのキャンプに戻れよ?
俺はその間に、彰に協力して貰ってあの団体を動かす。
既に数分休憩を取ってるし、彰が指揮すれば、すぐ動くだろ……」
穂高は口早に大貫と若月にそう伝え、大貫と若月も、それ以外の考えは思い浮かばなかった為、すぐに穂高の意見に賛成する。
「よし、じゃあ、俺達は春奈と合流。
天ケ瀬たちは引き続き、俺らと3-Bの生徒が接触しないように、頼むな?」
「ふざけんな、頼むのはこっちだ……。
俺と彰は上手くやってる。
こんだけ協力してやってんだ、変なヘマすんなよ?」
余計な仕事を増やされた事で、穂高は大貫達に不満を感じており、少しでも仕返ししようと、わざと嫌味っぽく返事を返した。
「――うっ…………、分かってるよぉ……。
気を付ける……」
「当然だ。
――あの団体を移動させたら、俺がお前たちに知らせに行く。
春奈達と合流したら連絡いれろよ?」
穂高は冷たく大貫達にそう言い放ち、その場から離れようとした、その時だった。
「――――はぁはぁ……、急に走り出したと思ったら……。
大貫達のとこに行ってたのね?」
大貫達から視線を切り、彰達の居る団体へと視線を移したその時、穂高の後を追っていた聖奈が、息を切らしながら穂高に声を掛けてきた。
穂高はそんな聖奈に一瞬、ヒヤリとしたが、聖奈以外には、大貫と若月がキャンプに戻ってきた事に、気付いてる生徒はいなかった。
(――ここで、妙に騒がれても面倒だしな…………。
少し強引でも、大貫達からは離れた方が良いな)
後を追ってきた聖奈に、穂高は驚きつつも、対処をする為、すぐに行動に移した。
「悪い、ちょっと友達と話があっただけ。
もう用事終わったから、戻ろう?」
穂高はそう言いながら、にこやかに微笑みながら、聖奈の手を取った。
「えッ!? えッ!?
ちょ、穂高君ッ!?」
穂高の突然の行動に、聖奈は驚きの声を上げる事しか出来ず、体を緊張させたまま、穂高に連れられるように、大貫達の前から立ち去った。
「――な、なぁ……。
天ケ瀬ってあんな、イケイケなイメージだっけ??
何か、女慣れしてるっていうか……、堂々としてね?」
顔を真っ赤にさせる聖奈と、まるで動じることなく、聖奈の手を引く穂高の後ろ姿を、呆然と見つめていた大貫は、ポツリと呟いた。
「た、確かに意外だな……。
そのへんのチャラ男よりも、チャラ男じゃないか??」
「――お、俺……、負けてね?
な、何かとは言わないけど……。負けてね??」
スクールカーストでは、上位の二人だったが、穂高の女性の扱い、あしらい方には、目を見張るものがあり、大貫は、春奈の事に対しては、不甲斐ない姿ばかりを見せていた為、穂高の行動に、微かに劣等感を感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇
大貫達と別れて数分後。
穂高は、予定通り彰の協力を仰ぎ、3-Bの団体の移動に成功していた。
休憩を挟んだことで、3-Bの生徒達の気力は回復し、再び、活力あふれる生徒達が多く見受けられた。
「――――どこ行った? アイツ等……」
団体の移動に成功した穂高は、大貫達に言ったように、キャンプから離れた事を、大貫達に伝えようとしていた。
大貫は、首から防水ポーチをぶら下げ、携帯を所持していたが、穂高は海の家のロッカーに、携帯を置いてきてしまった為、この事を伝えるには、海の家に一旦戻るか、直接本人に伝える他、方法が無かった。
大貫から場所を聞き、それほど探すのに手間取らないと判断した穂高だったが、中々、大貫達の姿が見えず、辺りを見渡す。
(行き違ったか??
だとしたら、俺の行動は無駄足だったわけなんだけど……)
大貫達が見当たらない為、行き違いの可能性もある為、もう少し探したら、この場所で会うのは諦めようと、そんな事を考えたその時、穂高は大貫達の姿を見つけた。
「あれか!」
思わず声を漏らした穂高だったが、すぐに大貫達の元へとは向かわず、大貫の他に、春奈達がいない事を確認する。
(杉崎は……いないな…………。
アイツ等、こんなところで、二人で何してんだ??)
春奈達がいない事に違和感を感じつつも、穂高にとっては都合がいい為、大貫達の元へと駆け寄った。
「大貫ッ!
――――やっと見つけた……。
3-Bの移動は完了したぞ? もう戻っても問題無い」
「おッ? 天ケ瀬~~~ッ!
そうか、良かった~~~。
案外早くて助かった」
大貫に駆け寄るなり、すぐに報告を入れる穂高に、大貫は安堵の表情を浮かべ、ホッと息を付きながら答えた。
「杉崎達は??
一緒じゃないのか?」
「あ、今、丁度お手洗いに行ってる。
天ケ瀬に、ちょっとでも時間稼げって言われたから、手始めに、トイレとかで時間稼ごうと…………」
「なるほどな…………」
大貫の言葉を聞き、穂高は何気なしに、お手洗いへと視線を向けた。
穂高が視線を向けると、偶然、丁度春奈達が手洗い場から姿を現した。
「やべッ」
顔を見られたら、せっかくの大貫と春奈達の少数グループを、壊しかねないと考えた穂高は、春奈と目が合う前に視線を逸らした。
(要件も伝えたし、変に杉崎と接触して、このグループにご一緒する……、なんて流れになっても困るしな……。
とっとと退散しよう……)
穂高は大貫達の邪魔をしない為、その場から立ち去ろうと決心した。
簡単に一言、大貫達に別れを告げ、その場から離れようとしたその時、若月の声が穂高の耳に入る。
「お、おい……、あれって…………」
不穏な空気を孕んだ若月の言葉は、穂高の足取りを止めるには充分な理由になり、若月の言葉に反応するように、穂高は振り返った。
若月の表情は、少しだけ険しいものになっており、大貫に伝える様に、どこかを指さし、穂高も若月の指さす方向へと、視線を向けた。
「――――な、なんか、ヤバくね……?」
若月の指さした方向を見た大貫は、少し焦った様子で呟き、穂高も状況の悪さに、少し顔をしかめた。
若月の示す場所には、春奈と瑠衣の姿があり、春奈と瑠衣は、お手洗い場を出て、数m先で、数人の成人男性へ囲まれていた。
「ナンパ…………か?」
それ以外に考えられない光景に、穂高はポツリと呟いた。




