姉の代わりにVTuber 139
◇ ◇ ◇ ◇
穂高の提案した作戦は上手くいき、彰の労量はかなりのものになっていたが、希望通り、大貫や春奈等を外した、大多数の生徒他を巻き込み、大所帯で行動する事が出来ていた。
お昼から数時間が経ち、ビーチバレーや海で泳いだり等と、体力も使った事から、小休憩を穂高達は挟んでいた。
(結局、大貫と若月、杉崎と四条はここからは上手く外されたな……。
四条が途中、杉崎連れて、こっちに入り込もうと提案した時はヒヤっとしたけど……)
穂高は、自分の提案した案が一先ず、現状は上手くいっている事を再認識し、大貫達を孤立させようとしていた時の事を、思い返した。
(結局、8割の生徒は連れてるのか……?
彰の方は何の問題も無く、俺の方も、思った以上に取りこぼしは無かったしな……。
まぁ、一部、釣れなかった生徒はいたりするけど、大貫と若月、杉崎、四条のグループにする事には成功した。
――――あとは、若月が上手く四条と孤立するかだけど…………、まぁ、元々仲の良いグループではあるし、そこも問題は無いだろ)
考えうる限りの、失敗しような要因は見当たらず、自分の役割を果たせた事で、ホッと息を吐いた。
「――穂高君? どう、おいし??」
今は姿の見えない大貫達の事を考えていた穂高に、現実へ引き戻すかのように、隣に居た愛葉 聖奈が、穂高の様子を伺いながら、声を掛けてきた。
「え……? あ、あぁ……、うまい」
「そッ? 良かった~~。
難しい表情してたから、おいしくないのかと…………」
大貫達の方は一先ず、手の尽くせるところまでは協力した穂高だったが、次の更なる問題が、穂高には降りかかっていた。
現実逃避に近い形で、大貫達の事を考えていた穂高に、聖奈は楽しそうに、笑みを浮かべており、穂高は、自分にとって奇妙な、そんな状況に、未だに慣れずにいた。
「――でも、意外なチョイスだよね? それ……」
3-B組の生徒が拠点としている場所で、ビニールシートに腰を降ろす聖奈は、隣に座る、穂高のかき氷を指さし、穂高に話を振り始めた。
「意外? なんで?」
「えぇ~、だってマンゴーってイメージが、あんまり穂高君に無いし……。
マンゴーはほら……、シロップだけじゃなくてフルーツもトッピングされてるし…………」
聖奈は興味深そうに話しており、穂高は、そんな聖奈の言葉を聞き、不意に当たりを見渡した。
聖奈の言う通り、マンゴー選んでいる生徒は少なく、男子に至っては、穂高ただ一人だった。
「へ、変か??」
「い、いやッ、変じゃないよ?
ただ、男の子でそのチョイスは珍しいなぁ~~って……。
女の子が選びそうなかき氷ではある」
「そ、そうか……」
穂高は何故か少しショックを受けたが、そのショックも、自らの選んだかき氷を口に含むと、すぐに消え失せた。
聖奈と穂高は、他愛のない話をしながら、しばらくかき氷を楽しんでいたが、そんなかき氷も食べ終えた頃、聖奈は少しだけ思いつめた様に、話題を切り出す。
「――ね、ねぇ、ほ、穂高君ってさぁ……、好きな人とかいたりするの??」
「好きな人? いないかなぁ~~」
顔を赤らめながら尋ねる聖奈に対して、穂高は海を眺めながら、気の抜けたような声で返事を返した。
「な、何そのテキトーな返事は……。
――で、でも、そっか、いないのかぁ~~……、へぇ~~? ほ~~~ん??
――――あッ……、でも、ちょっと複雑…………」
穂高の態度に、納得のいっていない聖奈だったが、答えた内容は、聖奈にとってそこまで悪い返事では無く、自然と笑みを零していた。
そして、何か思い出したように声を上げると、最後にぼそりと、聖奈は言葉を零し、意図的に聖奈が小声で呟いた為、穂高の耳には届かなかった。
「あッ、そ、そういえばッ! 天ケ瀬君ッ!
この水着! どうッ!?」
穂高に質問をしていた聖奈は、以前テンション高く、違う話題を振る。
「え? 水着??」
聖奈から話を触れ、穂高は改めて、きちんと聖奈の水着姿を見た。
今までは、ジロジロと見つめ、嫌がられるのも嫌だった為、積極的に水着に視線を向ける事は無かった。
聖奈の水着は、色鮮やかであり、オレンジ色を基調とした水着ではあったが、オレンジ色の水着と呼称するよりかは、カラフルな水着に見えた。
柄はランダムドット調であり、ポップな印象を持つビキニだった。
「似合ってると思うけど……?」
穂高は改めて水着を見て、聖奈にどんな答えを求められているかは、ピンと来ておらず、無難な返事を一先ず返した。
穂高の答えに、勿論聖奈は納得せず、怪訝そうな表情を浮かべ追及する。
「な、なに~~? その微妙な反応……。
っていうか、なんで疑問形??」
「い、いや……、他意は無いぞ? ホントに心からそう思うし…………。
というか、もう既に周りから結構チヤホヤされてるだろ? 今更、俺に感想なんて求めなくても……」
「ま、周りは別に関係ないでしょッ!?
か、可愛い……とか、そういう感想は無いの?」
聖奈は、春奈や瑠衣並にモテる、美人であり、水着が似合い、周りから褒められるのは当然であった為、穂高は聖奈の質問に、何か裏を読むような思考をしてしまっていた。
水着に何か異変、あるいは聖奈自身が、何か気に入っていない所があるのではないかと、変な深読みをしてしまった穂高に対し、聖奈は穂高の言葉を指摘し、顔を赤らめながら、再度追及する。
「そ、そりゃ、可愛いよ……。
言うまでも無く」
詰められた穂高は、少し困った様子で、本心を素直に伝えた。
「か、可愛い……。
も、もうッ……、そう思ってんなら早く言ってよッ!!」
言わせた感が出ている穂高の言葉だったが、聖奈はそれでも嬉しく、自分で言わせておいて、恥ずかしながら、照れ隠しをするように穂高の背中をバシバシと叩いた。
そこまで痛くは無いにしろ、それなりの衝撃を、穂高は受けながら、不意に聖奈から視線を外し、辺りをくるりと見渡した。
穂高と聖奈と同じように、小さなグループがいくつも出来ており、それぞれが談笑をしている中で、穂高はある人物が目に留まった。
「――――は……? なんでアイツ等……??」
何気なしに辺りを見渡した穂高だったが、気になる存在が目に留まり、穂高が知る限り、その人物たちは、ここに居るはずの無い人物たちだった。
穂高が見つけたその人物は、大貫と若月であり、穂高達が休む、3-Bの団体からは少し離れた位置にまだいたが、こちらに近づいているのは明白だった。
(アイツ等も遊んできて、ちょっと小休憩って感じか??
――まだ、誰も大貫達の存在には気づいてないな…………。
でも、万が一にも気づかれたりしたら、もう杉崎達と孤立させるなんて事は無理だぞ……?)
穂高はすぐに結論を出すと、何かを言いかけていた聖奈に一言伝え、立ち上がる。
「――悪い、聖奈。
ちょっと用事。
すぐ戻るから待ってて」
「え? は? 用事?? こんな時に?」
急に立ち上がった穂高に困惑する聖奈だったが、聖奈のそんな言葉に穂高は返事を返すことなく、いち早く、大貫達の元へと向かった。




