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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第九章 夏休み
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姉の代わりにVTuber 132


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なぁ? ホントにこんなに必要だったのか??」


両手いっぱいに、膨らませた浮き輪を持ちながら歩く穂高ほだかは、あきら瀬川せがわに対して、不満そうにした様子で尋ねた。


既に膨らませている途中でも、感じていた疑問ではあったが、持って歩くと、不満が出る程に面倒に感じ、今まで口には出さなかった疑問も、自然とこぼれた。


「一応、みんなから受け取った分は膨らませないと……。

必要かどうかは、俺も疑問だけども」


「全部じゃなくても良かっただろ??

せめて今持ってる分の半分でいいよ……。

とゆうか、仮に必要だったとしても、膨らませ係三人はすくねぇよ……。

後二人は欲しかった」


大量の浮き輪を膨らませた事で時間がかかり、海の家に常設してあった、空気入れの機材も、それなりにお客さんが並んで使用していた為、順番待ちでも時間を食っていた。


「まぁまぁ、落ち着けよ天ケあまがせ……。

こうして喋りながら、歩くのも楽しいじゃ無いか」


渋々手伝った穂高や、善意から行動した彰とは違い、瀬川の口調から、別の何か意図がある様な、そんな雰囲気を穂高達は感じた。


「瀬川は海に居る時間を少しでも削りたいだけだろ??

こんな雑用を押し付けられて……、そんなに嫌か?」


「嫌だな」


穂高の質問に瀬川は、全くの間をおかず、即答で答え、そんな会話をしながら歩く三人は、待ち合わせにしていた場所へとたどり着く。


「――ん? あれ??」


先程別れた時には、女性陣の着替えを待っていた、男子生徒達が、その待ち合わせの場所に多くいたが、穂高達が戻ると、そこには、誰一人として知り合いの姿が見えなかった。


「置いてかれたか? これは……」


不思議そうに声を上げた彰に、穂高も周りの風景を見て、状況を察し、ポツリと呟いた。


「う~~ん、この場から離れるとき、俊也しゅんやに一言告げてきたんだけど……」


大貫に事情を話してきた彰は、置いてかれたとは容易に想像付かず、続けて知り合いを捜索していると、見知った女子生徒が目に入った。


「あッ! 楠木くすのき君ッ!!」


「お疲れ様~~、みんなッ!」


彰が女子生徒を見付けると、相手も彰を認識し、すぐに彰に、続けて穂高達に声を掛けてきた。


彰が見つけた女子生徒は、三人であり、穂高もその女子生徒については、最近絡む事も多くなってきていた為、よく知っていた。


最初は二人が勢いよく、彰や瀬川に駆け寄り、最後に一人、同じように彰達の帰りを待っていた女子生徒、愛葉あいば 聖奈せなが、穂高の元へと寄ってきた。


「――お、お疲れ、穂高君……。

こんなに沢山……、大変だったでしょ?」


愛葉は、少し気まずそうに、落ち着きないような様子で、穂高に話しかけ、穂高はその事に、疑問を感じてはいたが、特に大きく気になる様な事でもない為、触れる事は無かった。


「彰に全部膨らませてくれって、頼まれたからね?

大変だったけど、何とかここまで持ってこれて良かったよ」


穂高は、未だに愛葉に対して、崩した、慣れた口調では接しておらず、丁寧な口調で愛葉に答えた。


「少し持つよ」


「ありがと」


穂高が持ってきた浮き輪を、愛葉は数個受け取り、穂高の礼を聞くと、頬が自然と緩んだ。


彰や瀬川も、愛葉と共にその場で彰達を待っていた女子生徒に、それぞれ浮き輪を持ってもらい、大貫達の行方へを知る愛葉達に、大貫達の元へと案内してもらった。


自然と、男女一組の形になり、穂高の隣には、浮き輪を持ってもらっている愛葉が、隣を歩いた。


「ほ、穂高君ってさ……、彰達と話す時と、私とかと話す時とで少し印象が変わるよね?」


隣を歩く愛葉は、おもむろに穂高に会話を投げかけた。


「あぁ、確かにそうだね……、彰達は慣れてるし、昔からの知り合いだから」


「そ、そうなんだ。

わ、私にも、そんな砕けた感じで話しかけて来てもいいよ!?

な、何か、そっちの方が親しみやすいし……、穂高君には変に気を使わせちゃってる、そんな気がしちゃってさッ」


恥ずかしさから、愛葉は最後の方は早口で捲し立てるように話していたが、穂高には、それがきちんと聞き取れ、愛葉の提案に、どう返答するか少しだけ悩んだ。


「う~~~ん、俺は全然いいんだけど、昔から自分は、口が悪いって思ってたし、

この丁寧な話し方の方が、変に誤解もされないから、良いかなって思ってたんだけど……」


「だ、大丈夫ッ、大丈夫ッ!!

私も口悪いしさ?

砕けた方の話し方の方が、仲良くなれそうな感じがするし……」


「そうか?

――――まぁ、愛葉がそういうなら彰達と同じように、愛葉にも接するよ」


愛葉の提案を穂高が受け入れると、愛葉は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


そして、少しの間、嬉しそうに笑顔を浮かべていた愛葉だったが、何かを思い出したかのように、ハッと我に返り、笑みを浮かべていた表情は、通常の真顔へと変わった。


「ほ、穂高君のその喋りだけどさ?

ほ、他の子とかにもしてたりする?? そのぉ~~、杉崎すぎさきさん……とか…………」


愛葉の口から、杉崎の名前が出た事に、穂高は再び疑問を感じたが、それについては追及しなかった。


「杉崎には……、してるな……普通に。

後、クラスで言えば四条しじょうとかか? 話す機会も何かとあって、気付いたら口調も崩れてた。

慣れとかもあるんだろうな」


「そ、そっか~~~、そうなのかーーーー…………」


穂高の答えを聞き、今度は遠くを見つめるような目で、言葉に破棄も無く、魂の抜けたような声で愛葉は声を上げていた。


(まぁ、傍から見たら変だよな?

俺と、桜木高校では天下の人望、人気を誇る杉崎と四条に、絡む事があるって事態が……。

『チューンコネクト』の件が無ければ、関わる可能性の無い人たちだし……)


愛葉の反応を見て、穂高は、自分が春奈達と話す機会が多くある事が、傍から見てそれ程異質に見えているのだと、思い込み、愛葉の思いとは裏腹に、そんな事を考えていた。


そして、愛葉の反応を見て、何故かこの状況を気まずく感じ、穂高は、話題を変えようと、今度は自ら愛葉に話を掛けた


「あ、愛葉さんは、このイベントで、なんかしたい事とかある?」


気の抜けた声と共に、黙り込んでしまった愛葉に、穂高が話しかけると、愛葉は少し不満げな表情を浮かべた。


(うわッ! なんか、変な事聞いたか??)


穂高は、クラスの中でも上位の権力者である愛葉に、変に目を付けられたくは無いと、常々考えていた為、始めて向けられる、不満げに満ちた表情を見て、一瞬怯んだ。


「――――せな……」


「え……?」


愛葉の機嫌だけに注意がいっていた穂高は、愛葉の言葉を聞き洩らし、再度愛葉に、何を言ったのか尋ねる。


「せなッ! 愛葉 聖奈!!

私だけ、名前呼びは不公平でしょッ!?

――ほ、穂高君も名前で呼んでよ……」


「はぁ??」


身構えていた穂高に対して、思わぬ言葉が愛葉の口から放たれ、それを聞いた穂高は、思わず間抜けな声を上げてしまった。


「だから! 名前で呼んでってッ」


愛葉は顔を真っ赤にしながら穂高に再度、名前呼びを要求し、いつまでも間抜けに呆けていられない穂高は、腹を括り、観念した様子で愛葉の要求に従う。


「――わ、分かった……。

せ、聖奈ちゃん……は、ちょっとアレだな。

聖奈さん」


穂高は結局『さん』を付け、聖奈を呼んだが、口に出していて、『さん』付けもあまりしっくりは来ていなかった。


「さんも気持ち悪いからいいよ付けなくて……。

聖奈……、だけでいい」


「分かったよ……、せ、聖奈……」


「お、オッケー……、それでよしッ……」


強引に名前呼びを強要され、妙な雰囲気になってきた事もあって、穂高は変な緊張を感じつつも、聖奈の名前を呼び、聖奈は名前を呼ばれると、一瞬ピクリと体を跳ねらせ、耳まで真っ赤にし、俯き、表情を穂高に見せないようにしながら、返事を返した。


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