姉の代わりにVTuber 118
◇ ◇ ◇ ◇
「は、始めまして……、天ケ瀬 美絆の弟、天ケ瀬 穂高です……」
「こ、こちらこそッ! 始めまして……、予知見 チヨ……、橘 愛華の兄、橘 宗助です……」
『チューンコネクトプロダクション』本社の一室。
スタジオの中で、穂高と宗助はお互いに自己紹介を始めていた。
撮影の準備の為か、『チューンコネクトプロダクション』の社員の人達がけたたましく、動き回る中、穂高と宗助は、お互い向き合う様に、椅子に座らせられていた。
「穂高君? もっと打ち解けないとッ!
いくら生配信じゃないと言えど、盛り上がってない会話じゃ、編集でどうこうも出来ないんだからね!?」
「わ、分かってます……」
(―――――たくッ……、俺がリムを引き受けてるからって、俺にばっかり指示が……。
まぁ、当然っちゃ当然なんだけども…………)
少しだけ離れた位置にいる佐伯からの指示に、穂高は頷き、返事を返しながらも、内心では少しだけ不満を感じていた。
穂高は今、『チューンコネクト』六期生 堕血宮リムと、同じく六期生 予知見チヨのコラボ企画の為に、撮影を『チューンコネクトプロダクション』本社で行っていた。
(五期生一周年記念で、少しは休めるかと思ったのに、矢継ぎ早にコレだからな??
心休まる時は無いし……、ってゆうか、今更だけど、なんでこんな企画通ってんだ?
リム引き受けてる俺が、姉貴の弟として出演して、この企画が終わったら、またリムを続投って、もうわけわかんないし!!)
考えても考えてもよく分からない現状に、穂高は不満しか出てこず、これから行う撮影に対して、不安しか感じていない為か、余計な事を考えては現実逃避をしてしまう。
「――え、えっとぉ~、穂高君……。
僕もよく分からないけど、家族の為だ! 頑張ろう!」
「そ、そうですね……」
チヨの、愛華の兄である宗助にげきを飛ばされ、穂高は不安が大き過ぎる為、上手く笑えずに、ぎこちなく返事を返した。
◇ ◇ ◇ ◇
撮影から40分後。
穂高と宗助は、一旦休憩を貰い、宗助はトイレへ、穂高は飲み物を買い、佐伯と共に撮影した動画を確認する。
「――――微妙ですね……」
「確かに……」
穂高の一声は、あまり好意的なものでなく、穂高の意見に概ね賛成な佐伯も、眉を顰め、難しい表情で同意した。
「――あくまで、穂高君達は今回、素材みたいな感じに使うつもりだから、こんなもんで良いのかもしれないとも思うんだけど……。
かといって、もう少し面白くできなくも無さそうではあるんだよなぁ~~」
「姉貴とチヨが悶えるのを見たいのであれば、これでも良さそうですけど……。
宗助さんは勿論、俺も変な緊張で素人感丸出しですし……。
――もし、俺が姉貴の立場ったら、これを配信中に見せられたら、相当嫌ですけどね??
共感性羞恥というか……、身近な家族がこんな事をさせられて……、それも、全国に動画として流れるなんて…………」
穂高は今、佐伯と見ている映像が、美絆の配信で流される所を想像し、美絆が嫌がるような姿が、容易に想像できた。
そして、そんな美絆を想像できたからこそ、穂高は微妙に感じる動画も、美絆達の反応次第では、面白くできるだろうと、そう考えていた。
「元来、地獄企画って配信者側が、何か精神的な、大きな傷を負うような、そんな企画がそう呼ばれてますし……、この調子で何度か撮影を続けて、編集に任せて面白く動画を作ってもらうのが、ベストだと思いますよ?」
「う~~ん、まぁ、穂高君がいうなら一旦は、方向を変えず撮影を続けてみるか……」
穂高は、元々こういった企画物自体が成功するハードルが高い上に、こういった準備を周到に行ったうえでも、どういった反応が、視聴者から返ってくるか分からない配信は、初めてであり、正直に何が正解か分からなかった。
そして、良い案が出ない以上、佐伯も穂高の言う通りに撮影を続ける他なく、穂高達は二度目の撮影を迎えた。
「――――う~~~ん、どうなんだ……? これは……」
二度目の撮影、今度は30分も経たずして、切り上げられ、佐伯は撮ったばかりの動画を見て、増々眉間にしわを寄せ、唸りながら考え込んでは、今までの出来の成否を決めかねていた。
(――正直面白くねぇな…………。
まぁ、当然っちゃあ、当然なんだけど……。)
佐伯が悩むにつれ、穂高も自分たちの撮った動画に疑問を感じ始め、完全に行き詰っていた。
ほぼ初めまして状態の穂高と、宗助を中心に対談形式で、リムやチヨのプライベートの話を続けていく動画だが、最初は目新しくとも、何十分も見られる動画ではもちろんなく、途中気まずさで沈黙も出来てしまう事から、見ていられない部分もあった。
「姉貴とチヨの副音声入れば面白くなるのか??
――ホントに分からない……」
疑心暗鬼な声を穂高が上げ、佐伯も難しそうな顔をしていたその時、意外な所から声が掛かった。
「――さ、佐伯さん!
も、もし、動画が面白くなくて、チヨの為になりそうにないのであれば…………、僕は…………」
宗助の続けて放った言葉に、穂高と佐伯は耳を疑い、目を大きく見開き、驚いた表情を浮かべた。
「――本気……なの…………?」
「本気です!」
我に返った佐伯が、恐る恐る尋ねるも、宗助は自分の放った言葉を曲げず、真っ直ぐに佐伯を捉え、ハッキリと答えた。
そして宗助の覚悟に、穂高も触発され、今まで以上に気合が入る。
「――宗助さん、俺は宗助さんが今言った事と、同じ事は出来ないですけど、この企画、全身全霊で臨みます!!
佐伯さんッ! 今から撮影で少しだけ変えたいところがあるんで、良いですかッ!?」
今までやる気が無かったわけでは無いが、手ごたえの無い中で、少し意気消沈気味だった穂高は、一気にエンジンがかかり、今まで撮影方法を変え、違う形で動画を撮影する事を佐伯に勧めた。
そして、穂高達は地獄企画の素材となる動画を、穂高達なりの満足いく形で、完成させた。
◇ ◇ ◇ ◇
リム、チヨのコラボ配信にて。
リムのチャンネルにて、チヨは復帰配信を行い、久々の配信に少しだけ、緊張が見て取れ、リム主導の中で、配信は進行していった。
お約束の挨拶、配信での音声調節などを終え、チヨの復帰後の視聴者への挨拶も終えると、遂に企画の本題となる、穂高と宗助のVTRがリムの操作によって再生流れとなった。
リムとして再び配信する美絆も、復帰をしたチヨの中身である愛華も、大まかな内容は知っているにせよ、あまりにも抽象的な情報しか持ち合わせてはおらず、初めての視聴を、生配信で行う緊張感が二人にはあった。
そして、美絆の操作で動画は再生される。
「――――え……? えぇぇぇぇえええッ!?!?
お兄ちゃんッ!?!?」
動画が再生され、映し出された画面に、チヨは思わず素の声で大絶叫をし、予想外の出来事に、リムもすぐには反応できなかった。
そして、衝撃的な出来事から、数分、リムはやっと我に返ると、思わず吹き出したように笑い出した。
「ブブッ! ふふふッ……、あはははッ!!
チヨのお兄さん、顔出ちゃってるよッ!」
リムは、何故か画面にばっちりと、映ってしまっている宗助を見て、腹を抱えて笑うような爆笑をしながら、配信に声を乗せた。
宗助は動画に映っているのに対し、穂高の方にはしっかりとモザイク加工がされていた。




