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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
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姉の代わりにVTuber 117


 ◇ ◇ ◇ ◇


甲高かんだかい笛の音が、コート上へ鳴り響き、球技祭の競技である、バスケを行っていた体育館は、大きな歓声に包まれた。


「――はぁ……、はぁ……、勝った……??」


球技祭、バスケ決勝戦。


額から、滝のように流れ出る汗を拭いながら、笛の音で動きを止めた穂高ほだかは、満身創痍の中、そう呟いた。


大きな歓声の中、穂高がスコアボードへと向けると、スコアは30-36の数字が表示されており、そこでようやく自分たちのチームが勝利した事を確認した。


「穂高ッ!!」


試合の疲労感から、両ひざに手を付いて、呆然した様子の穂高に、チームメイトであるあきらが駆け寄り、元気で嬉しそうな声を挙げながら、穂高に手を差し伸べた。


「――何とか、勝てたなッ!!」


駆け寄ったきた彰の満面の笑みを見て、穂高もようやく息を付き、嬉しそうに返事を返した後、差し伸べられた手にハイタッチを決めた。


「彰ぁぁぁぁああッ!! 天ケあまがせぇぇぇぇえええッ!!」


気分よく勝利の余韻に浸っていた二人だったが、彰達よりも大きなリアクションで、勝利を喜んでいる大貫おおぬきが、こちらに抱きつくように、両手を広げ駆け寄ってきた。


「うおぉッ!? や、やめろッ! 俺には抱きつくなよッ!!」


いち早く、危険を察知した穂高は、すぐにハグを拒否し、彰も大貫のハグを拒否する為、身構えていた。


「な、なんだよぉぉぉお! いいだろ!? こん時ぐらいはさぁああ」


「こんな状況だからだよッ! お互い汗びっしょりだろうがッ!!」


拒否する旨を伝えても、なお喜びを分かち合おうとハグを強要する大貫に、穂高はそれを頑なに拒否する。


そんな、やりとりをしていた穂高達だったが、穂高達と同じように勝利を喜ぶ、試合を見ていた3-B組のクラスメート達が、一気に穂高達を取り囲んだ。


「やったなッ! 彰ッ!!」

「大貫君! 凄いカッコよかったよ!!」

「感動したぞッ!!」

「天ケ瀬も凄い良かったぞ!!」


大貫と彰の近くにいた穂高は、クラスメートの集団に飲み込まれ、いつもならば、人気のある大貫や彰に、沢山の声援が投げかけられていたが、穂高も近くにいた為か、穂高を称賛する声もちらほらと上がった。


慣れないクラスメートからの称賛に、穂高は不器用に答えながら、しばらくその集団に付き合う事になった。


「――――ふぅ~~、やっと解放された……」


彰と大貫と共に、クラスの英雄の様な、そんな扱いを受けた穂高は、途中で隙を付き、集団から抜け出し、体育館の人気のない所で腰を降ろした。


「本物の人気者達は、まだまだ勝利者インタビューか……?

人気者は人気者で大変そうだ……」


穂高は疲れているからか、未だに優勝した高揚感からなのか、心の声が自然と口から零れ、未だにクラスメートに囲まれる彰達を、遠巻きに見つめていた。


体育館の壁へと寄りかかり、他のチームメイト達にも穂高は目を向ける。


瀬川せがわ糀谷こうじやも、囲まれてるわ……、可哀想に…………。

若月わかつきは……、ん? なんか、凄いヘバッタ様子で、集団から抜けてってる……)


瀬川達の方にも視線を向けると、一人、若月の行動が穂高には気にかかった。


(――まぁ、確かに最後の決勝戦、一番走らされてた印象有るからなぁ~~、若月……。

元々、クールな奴ではあるけど、たちっぱでクラスメートの相手をするのが、しんどかったんだろうな……)


穂高は若月が一人になった事で、良い機会だと思い、重い腰を上げ、若月の方へと向かっていった。


「――お疲れ」


「ん? あぁ……、お前か…………」


穂高は気さくに若月に声を掛けたが、若月は穂高を見るなり、テンションが大きく下がり、興味無さそうにポツリと返事を返した。


決勝戦前の若月であれば、穂高も苛立ちを感じたでだろう返答だったが、今はそんな若月の態度に怒りを感じる事は無く、続けて話しかける。


「ありがとな? 決勝戦、俺の忠告聞いてくれて……」


穂高は、忠告通りにプレーしてくれた事を、素直に若月に感謝した。


「――――別に……、戦犯になりたくなかっただけだし」


若月は照れたりだとかでは無く、心底興味の無さそうに、冷たく穂高に言葉を返し、態度が変わる、仲が良くなるだといった事は無かった。


しかし、そんな若月であっても、決勝戦は、嫌いであろう穂高の忠告に従い、今まで試合以上に穂高と連携を取り、二人で取ったポイントもかなり多くあった。


(若月とはこれ以上何か、関係が進展したりなんて事は、万が一にも無いんだろうけど……、それでも、こいつには助けられた場面もあったしな…………)


穂高は感慨深く、試合の内容を思い返していると、未だに立ち去らない穂高が気になったのか、今度は若月から声を掛け始める。


「――で? なに?? 話はそれだけ??」


「おい……、ここまで一緒に戦ったチームメイトに、そんな言い方は無いだろ。

――そんなに俺の事が嫌いか??」


「嫌いだね」


ヘラヘラと笑みを浮かべ話す穂高に、若月はこれ以上に無くきっぱりと答え、付け入る隙はまるで無かった。


「――はいはい、そうですか……。

まぁ、言いたい事はこれだけ。

――――じゃあな?」


穂高の方も、特に若月と仲良くなるつもりも無かった為、伝えたい事も伝えられ、満足した様子で、簡単に別れを告げその場から離れようとした。


そして、穂高が若月から離れようと、若月に背を向けたその時、若月から引き留めるように声が掛かる。


「――――なぁ? あの話……、信用して良いんだろうな?」


「あの話??」


呼び止められた事を不思議に思いつつ、穂高は再び若月へ振り返り、質問の内容を聞き返す。


「――杉崎すぎさきの話以外無いだろ??

ホントに好きでも何でもないんだな??」


「あぁ、その話…………」


若月に問いかけられ、穂高は若月との関係が悪化する、要因ともなった事を思い出した。


そして自然と、穂高の脳裏に、春奈はるなの顔が思い浮かぶ。


「――――俺なんかが好きになっていい相手でもないだろ? おこがましい……」


穂高は、軽く微笑んだ表情で若月にそう告げると、今度こそ、その場から離れていった。


「好きかどうかを聞いてるんだぞ……。天ケ瀬…………」


最後に見せた、穂高の少し寂し気にも見える笑顔と、穂高の返答に、若月は少し違和感を感じつつ、敵意を感じる声色で、ポツリと呟いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


同刻 体育館。


3-B組の決勝戦のバスケの観戦を終え、春奈は試合観戦の興奮も相まって、少しだけ体温が上がっていた。


穂高や彰達は、試合が終わり、優勝が確定すると、すぐにクラスメートに囲まれ、春奈はそんな風景を、少し離れたところから見ていた。


「ハ~~ルッ!」


穂高の事を見つめていた春奈だったが、急に後ろから声を掛けられ、それと同時に背中を軽く春奈は叩かれた。


「――うわッ!? 瑠衣るい??

もう……、脅かさないでよぉ…………」


春奈は後ろから話しかけてきた人物が、瑠衣だと気付くと、ため息交じりに声を発した。


「へへへッ~~~! ごめんごめん!

何、熱烈に見てたの? 天ケ瀬君??」


「やッ、ち、違うよッ!」


ニヤニヤと笑みを浮かべ話す瑠衣に、春奈は図星だったところもあり、一気に顔を赤く染めながら、否定した。


「ハイハイ、もう分かってるから~~。

――試合、凄く良かったねぇ~~! 春奈の一押しの天ケ瀬君も活躍してたじゃん!!」


「い、一押しって……。

でも、そうだね……、試合凄かった…………」


春奈はバスケ部でもある為、経験者からの視点で、試合を見る事にはなっていたが、経験者から見ても素晴らしい試合だったと、手放しに褒められる程に、白熱した試合になっていた。


未だ、興奮が冷め止まらず、春奈の視線は自然とクラスメートと話す穂高へ再び戻る。


穂高は慣れない人気者の扱いに、若干苦労している様子だったが、そんな穂高の姿さえも、春奈には興味深く映り、視線を外す事は出来なかった。


(天ケ瀬君……、困ってそうだなぁ……。

あんまり、中心になったり、目立つの得意じゃ無さそうだもんね? 天ケ瀬君……)


終始困り繭で、不器用な笑みを浮かべる穂高を見て、春奈はそんな穂高を愛おしく想い、そして、少しだけ胸が苦しく感じる。


「――――瑠衣……、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど…………」


「ん~~??」


春奈の動向には気づいていない瑠衣は、春奈と共に優勝を喜ぶクラスメート達を見つめ、やる気のないような返事を返した。


そして、そんな瑠衣に対して、春奈は今日、自分の中で気づいた気持ちをポツリと言葉に出した。


「私…………、天ケ瀬君の事、好きなんだと思う……」


「―――――――――へ……?」


今まで頑なに穂高に対しての好意を認めない、気付かなかった春奈の急な告白に、瑠衣の思考は完全に止まり、声をポツリと漏らす事しか、出来なかった。



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