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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
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姉の代わりにVTuber 116


「別に話す事なんて無いけど……」


意を決して話しかけた穂高ほだかだったが、若月わかつきはつまらなそうに、冷たく返事を返し、穂高を拒絶した。


穂高はそんな若月に苛立ちを少し感じたが、ここで引き下がるわけにもいかず、少しだけ離れたところにいる、あきら瀬川せがわが、こちらの様子を伺い始めた。


(――彰も俺をバスケに誘う時、妙だったし、俺と若月に変な溝が生れてる事は確かだ。

まぁ、おそらく杉崎すぎさき関連で、俺に対して思う事があるんだろうけど…………。

ここでハッキリと言っておくか)


穂高はゆっくりと息を吐き、呼吸を整え、集中すると、若月をしっかりと両目で捉え、話し始めた。


「――なぁ? いい加減、変な勘違いで、壁を作るのやめてくれないか??」


「は……?」


穂高はここまで関係がこじれた以上、ハッキリと若月には伝えなければ、分からないと思い、少し言葉悪く、半ば喧嘩腰にも見えるような態度で、若月に言いたい事を伝えた。


そして、当然のように、穂高の言葉が気に入らなかったのか、若月は穂高を睨んだ。


「――お、おいッ ほだッ……!」


離れた位置で様子を伺っていた彰だったが、穂高の言葉に反応し、すぐに仲裁に入ろうとしたが、同じく様子を伺っていた瀬川に、彰は動きを止められた。


楠木くすのき……、やめとこう」


「――い、いやッ、そんな事言っても……」


納得のいかない様子の彰に、瀬川は首を横に振り、再度、仲裁に入ることを否定した。


そして、頑なに停める瀬川に、彰はようやく観念し、不安そうに穂高達へと視線を戻す。


「――俺の事が気に入らないのは、分かる……、だけど、その私情をチームにまで持ち込むなよ」


「持ち込んでない」


「いいやッ、持ち込んでるな。

若月と俺が同時に試合出た時、圧倒的に俺へのパスの選択肢が無さ過ぎる」


穂高は試合中に何度も感じた、若月へのプレーへの指摘をした。


「攻撃の成功する確率が低いから、お前に出してないだけ。

――別に嫌いとか、そうゆうわけじゃッ……」


「本当にそう思ってるのか??」


若月の言い分に、穂高は納得する事は出来ず、言葉を遮り、若月に質問をする。


穂高の問いかけに、若月はずぐに返事を返す事は出来ず、そんな若月を見て、穂高は続けて言葉を発した。


「彰達が上手いから、別に俺に出さなくとも、あいつ等だけでやっていける場面は多いけど、わざわざそこにリスクを取る理由がどこにある??

俺に出せばパスのルートも絞られずらいし、かく乱することもできる。

――まぁ、確かに、俺もそこまで自分の事を上手いとも思ってない。

けど、下手でもようは、使い方だろ??

頻繁に彰達に回して、余計に体力を使わせる理由がない!」


穂高の言葉に、若月も今までの流れで、その事については分かり切っていたのか、返す言葉も無く、黙り込んでいた。


(――ここまで言っても、自分の考えを曲げる事は出来ないか??

はぁ~~~、どんだけ、俺は嫌われてるんだか…………)


穂高はまだ、若月が考えを改めた事を確信できず、心の中で自分の人望の無さに、大きくため息を付いた後、それならばと、穂高にパスを出す、理由を作り出そうと考えた。


「――もしかして、ここまで言っても、俺の言ってる事が、理解できない程に頭が悪いのか??」


「なにッ…………?」


穂高の言葉に若月は食いつき、睨みつけるように自分を見る若月に、穂高はもう一押しと、ダメ押しで若月に言葉を掛ける。


「言っとくけど、このチームの負ける要因はほとんどない。

勝てる確率、優勝できる確率が高いこのチームで、唯一大きいとも言える、欠点を事前に言ってやったんだ。

――もし、負けたとしたら……、それは、俺とお前のせいになるんだからな??」


「――ちッ!!」


穂高の言葉に、若月は舌打ちだけで反応を返し、言葉で協力する事を約束できなかった事に、穂高は少し不安を感じたが、これ以上若月を詰める事も出来ず、言いたい事を全て若月に伝え、後は天に任せる思いでいた。


穂高は、若月に背を向けその場から離れようと、踏み出した時、一つだけ若月に伝え忘れた事を思い出した。


「――言い忘れてたけど、本当に杉崎とは友達なだけで、何も無いんだぞ?

別に俺から変な気を起こす事も無いから…………」


若月の方は向かず、背を向けたまま穂高はポツリと、春奈の事を話し、今度こそ若月から離れていった。


「おい! 穂高!

試合前に険悪になるような事……、やめてくれよなぁ~」


穂高が彰達の方へ戻ると、彰は気が気じゃなかった様子で、穂高に声を掛けた。


穂高はそんな彰を見て、色々と思う事があったが、今、その全てを伝える気はなかった。


「――言った方がチームの為にもなるだろ?

決勝戦は、今までみたいに一筋縄じゃいかないだろうし……」


穂高はそう呟き、自分たちを同じように試合の準備を待つ、相手チームへ視線を向けた。


「俺たちと同じように、優勝候補。

二年生相手だけど、チームの中にはバスケ部5人が含まれてる。

こっちと違って、レギュラー選出されてる生徒は2人だけだけど、それでもどっちが有利かって言われたら微妙なラインだろ??」


対戦相手の二年生のチームを改めて穂高は確認し、彰に伝えると、彰も同じことを考えていたのか、難しい表情を浮かべた。


「――――確かに……。

でも、良かったよ、大事にならなくて……。

――せっかく、穏便に事が進んでたのに」


穂高が若月に向けた会話が、不安で仕方がなかった彰は、ホッと肩をなでおろし、最後の一言はぼそりと小さく呟いた。


そんな、彰が最後に呟いた言葉も、穂高は聞き逃すことなく、彰が球技祭が始まる前の、準備期間の段階から危惧していた事が何か、察する。


「――彰……、俺が言うのもなんだけど、いつまでもそんな危うい人間関係に振り回されて、疲れないか?」


「え…………?」


穂高の唐突な言葉に、彰の思考は追い付かず、思わず声を漏らすように聞き返した。


「まぁ、俺が今更何を言っても、そう簡単に解決する問題でも無いんだろうけど……。

――ため込むと、ろくな事にならないからな?」


穂高は彰にそう伝え、トイレに向かう為、体育館から出て行った。


「――――今更過ぎるだろ? 穂高……」


体育館から出て行く穂高の後姿を見ながら、途中で穂高が何を言わんとするのか気付いた彰は、ため息交じりに小さく呟いた。


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