姉の代わりにVTuber 115
「杉崎の言う様に、告白の呼び出しだったよ……」
「――そ、そう…………。
それで!? あ、天ケ瀬君はなんて……?」
春奈は、自分の予想通りの返答が、返ってきた事で、少しだけ暗い表情を浮かべたが、すぐに元の調子を取り戻すと、続けて穂高に質問を投げかけた。
「――断ったよ…………」
「そ……、そうなんだ…………」
キッパリと答えた穂高に、春奈は不謹慎にも少しだけホッとしてしまい、返した声にも安堵の様子が見て取れた。
しかし、春奈はすぐに、後輩が振られて、安堵している自分を下卑し、浅ましくすら感じた事で、我に返り、続けて疑問に感じた事を尋ねる。
「――で、でもッ! なんで、天ケ瀬君は断ったの?
碧ちゃんは、凄い可愛いし……、何度も告白された事があるって、噂になるぐらいモテるのに……」
「真鍋さんの事は、今日初めて話した関係だし……、よくは知らないけど……。
でも、普通に考えて俺とあんな可愛い子じゃ、釣り合わないだろ?」
穂高の答えに、春奈は驚いた表情を浮かべた。
「そ、そんな事、付き合ってみないと分からないんじゃッ……」
「分かるよ」
春奈の恐る恐るといったような問いかけに、穂高は春奈の言葉を遮るように、今までに無い程、ハッキリとした口調で、眉も動かさず真剣な表情のまま答えた。
釘を刺されて様な、牽制をされたかのような穂高の口ぶりに、春奈の追及は止まり、穂高は続けて話し始める。
「――第一、杉崎も言ったように、真鍋さんはモテるんだし、彼氏なんて選びたい放題だろ?
今日、少し話しただけでも、良い子だって分かるくらい、丁寧に話す子だったし……。
良い人に巡り合えるだろ」
「そ、そうかもしれないけど、好きな人とじゃないと……。
いくら告白されたからって、自分が好きじゃないと意味が無いよ」
いつも堂々と、的を得たような発言の多い穂高を知る春奈は、穂高の答えに言葉に出来ない、大きな違和感を感じた。
(碧ちゃんの事……、好きになれない何かがあったとかなの?
釣り合ってないとか、碧ちゃんがモテるから、すぐに良い人は見つかるだとか……。
天ケ瀬君は、理由を話しているように見えて、本音を話してない……)
何か本質からズレる、逃げるような穂高の言い分は、どこか他人事のようにも春奈には聞こえ、段々と穂高の考えが読めなくなる。
「――あ、天ケ瀬君は誰かと付き合う時……、自分の好きな気持ちだとか、そうゆうのは考えず、釣り合っているか、釣り合っていないかで考えるの……?」
春奈の言葉に、穂高はすぐに返答を返す事は無く、黙ったまま、返答に困った様子で考え込んだ。
そして、春奈が筆問を穂高に投げかけたところで、昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響く。
「――悪い……、昼飯食わないと、体力も持たないから、話はまた後でな?」
「え? あっ……、う、うん…………」
チャイムの音を聞いた穂高は、半ば強引に話を切り上げ、困惑する春奈をそのままに、その場から離れた。
春奈の姿が見えなくなり、人気のない通路。
「――俺に……恋愛は…………。
向いてないよな」
穂高は誰もいない通路で立ち止まると、苦笑いし、吐き捨てるように呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
球技祭 終盤。
穂高達、3-B組はリーグ戦を一位通過で抜け出し、トーナメントも順調に駒を進め、いよいよ決勝戦というところまで、穂高達は来ていた。
「――まさか、ここまで順調に決勝戦まで来れるなんてな?」
試合開始前、決勝戦の準備を係りの生徒達が進める中、待機中であった瀬川が考え深そうに呟いた。
瀬川の呟きは、同じように待機していた3-B組のチーム全員へ聞こえ、瀬川の言葉に、真っ先にお調子者気質が少しある大貫が反応する。
「来て当然だろ!? これだけのスター選手が揃ってるんだからな?
――勿論、俺を含めて……」
これでもかという程の、自信満々のドヤ顔に、穂高は少しだけ癇に障り、思わずそんな大貫に返事を返す。
「スター選手は、瀬川、彰、糀谷達だろ?
――前半後半で変わられる、俺や大貫は違う」
「んん~~~?? なにかなぁ~~? ベンチスタートの天ケ瀬君~~??
俺もちゃんと活躍してただろ!!」
「どう思うよ? 糀谷??」
穂高に指摘されたのが気に食わなかったのか、表情は笑顔だったが、どこか強張った表情を浮かべて抗議する大貫に、穂高は他の人を巻き込み、意見を聞いた。
「えぇ~~、俺に聞くなよぉ~~。
――まぁ、しいて言うなら天ケ瀬の方が、俺的には好印象だな?
良いアシストくれるし、ディフェンスも上手い」
「――ベンチだけど、チームメイトの印象は良いな? 大貫よ??」
球技祭の盛り上がるテンションに影響されてか、いつもよりも穂高は機嫌がよく、楠木に褒められた事で、なお態度がデカくなり、大貫に負けじと、ドヤ顔で大貫に意見を伺う様に言葉を発した。
「はぁぁぁあああッ!?1? お、俺の方が試合出てるし、得点も天ケ瀬よりも取ってますぅ~~~ッ!!
――天ケ瀬は、やってる事地味だし、目立ってないだろ!」
「バスケは目立つ事が、=(イコール)で良い事ってわけじゃないだろ?
大体、点を取る事だけがバスケじゃないし…………。
取らせない事も大いに重要だと思うけどな??」
「――ま、まぁまぁ、二人とも……、その辺にしとけって……。
智和にも、穂高にもみんな感謝してるから」
大貫との言い合いが段々と、楽しくなっていた穂高だったが、互いにある程度言い合った所で、苦笑いの表情を浮かべた彰に仲裁された。
大貫も穂高との言い合いに、悪いイメージはそこまで持ってなく、仲が打ち解けたからこそ、こういった軽口の叩き合いも、出来るようになっていた。
「ちょお~~、彰と瀬川はどう思うよ~~!?」
彰の仲裁で我に返った穂高は、穂高と大貫、どちらがチームに貢献しているかの議論に興味が失せ、対して大貫は、未だ納得がいかないのか、今度は彰と瀬川に意見を求め始めた。
そんな大貫を穂高はこれ以上気にすることは無く、これから決勝戦を迎える上で、懸念するべき点となりうる、もう一人のチームメイトに視線を移した。
「――若月…………」
大貫とは予想だにしない程、打ち解ける事が出来た穂高だったが、若月とは結局、球技祭の決勝戦を迎えても、打ち解ける事が出来ずにいた。
(決勝戦……。
ここまでは彰達が上手すぎる事もあって、騙し騙しにやれてたけど、決勝はそうもいかないかもしれないしな……。
――俺と若月だけ、致命的に連携が取れてない……。
試合が始まる前に何とかしないとな…………)
穂高自身もここまで来れば、優勝以外求めておらず、決勝戦を勝つ為に、余計な不安材料は、全て取り除きたかった。
「――――行くか」
穂高は小さく呟き、気合を入れると若月の前へと向かった。
「――なに?」
穂高が若月の前に立つと、穂高に明らかな敵意を持った様子で、冷たく言い放った。
嫌われている相手に、自分から話しかけ、既に歓迎モードじゃない現状に、穂高は一瞬心が折れかかったが、優勝の為、引き下がる事はしなかった。
「――優勝したいだろ? お前も……。
何となく、俺の事を気に入らない理由はピンと来るけど、決勝が始まる前に、お前と話したいことがある」
穂高は、いつもの敬語の口調を捨て去り、堂々とした振る舞いで、若月に会話を持ち掛けた。




