姉の代わりにVTuber 112
「お、おう……、お疲れ……」
息を切らせてまで現れた春奈に、彰は少しだけ驚きつつも、まずは素直に返事を返した。
彰の返事を聞いた春奈は、彰や瀬川達の顔を見渡し、再び彰へと視線を戻すと、続けて彰に声を掛けた。
「天ケ瀬君は?」
「え? 穂高?? 穂高ならさっき……。
――――あぁ、そうゆう事か……」
春奈に尋ねられ、始めは不思議そうにしながら、春奈の質問に答えていたが、彰は何かに気付くと、意味ありげにポツリと呟いた。
そして、数分、難しそうな表情で考え込んだ後、今度は彰から春奈へ話題を投げかける。
「――――えっとさ? ここでは話しずらいし、春奈も聞きたいことがあるようだし、場所変えない??」
「え……? あ、うん……」
彰の急な提案に、春奈は一瞬驚き、困惑したが、彰の動向以上に、早急に知りたいことがあった為、頭を切り替え、彰の言葉に従った。
「――なんだぁ? なんかあったのか??」
彰と春奈が教室から出て行くのを、瀬川と武志は呆然と見つめており、事情が全く分からない武志は、瀬川に何か知っている事が無いか尋ねた。
「いや、俺も何が何だか……。
杉崎さんと楠木が一緒にいる事は、ごくごく普通ではあるけど、天ケ瀬の話をしてたしなぁ……。
天ケ瀬関連で何かあったのかも…………」
「アイツ、またなんか悪さしたのかぁ~~?」
瀬川の言葉を聞き、武志は興味を失ったのか、携帯を弄り始め、悪態をつくように呟いた。
しかし、興味を失い始めた武志に対し、瀬川は何か引っかかる様子で、何かを思い出す様に、難しい表情を浮かべていた。
「天ケ瀬関連…………。
杉崎さんと楠木……、バスケ部……、バスケ部…………。
――――あッ!!」
「――なんだ急に……。
何か思い出したのか??」
難しい表情を浮かべていた瀬川は、引っ掛かっていた何かを思い出し、急に大きな声を上げた事で、武志は少しだけ怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねた。
「――ちょっと偶々噂で聞いて事があって……。
偶々、少しだけ居残り練習をバスケ部でしてた時にな?
先に上がった、女子バスケ部の話声を聞いちゃって……。
俺らより一個下の世代、後輩だったと思うんだけど、同じ学年の友達と話してて。
――――そこで、天ケ瀬の話が出てた事があったんだ」
「穂高の~?? なんで?」
携帯を操作していた武志の興味は、完全に瀬川の話へと移り変わり、話に食いつくように、瀬川により詳細な話を尋ねた。
「――そん時は、俺も聞き間違いかと思ってたんだけど……。
話してた一人の女子生徒が、天ケ瀬の事を好きだって、言ってるところ聞いちゃって……。
――――これは、多分憶測なんだけどな? 天ケ瀬、告白されるんじゃないか??」
瀬川は話している途中で、この話題は武志に話してはいけないとも、一瞬思ったが、話し始めてしまった以上、途中で話を止める事は出来ず、最初から最後までを武志に伝えてしまった。
そして、瀬川はいつものように、武志が嫉妬に狂う事になると、緊張の面持ちで、少しだけ身構えていたが、瀬川の予想に反し、武志がそのような事になる事は無かった。
「――ふ~ん、告白ね……」
「え…………?」
肩透かしをくらったような状況に、瀬川は呆けた声を漏らし、そんな瀬川を気にする事は無く、武志は再び携帯を触り始めた。
「――――信じてない……のか?」
「――え? あ、あぁ……、信じてるよ? 半分はね……。
でも、別に騒ぐ事でもないだろ……」
「は……? ど、どうしたんだ? 頭でも打ったのか……?」
一番予想もしていなかった武志のリアクションに、瀬川は大きく困惑し、いつもの調子とは違いすぎて、武志の体調を瀬川は心配し始めた。
「失礼な……、別に頭も打ってないし、いつも通り正常だよ!」
「正常なわけあるかッ!
いつもの松本なら、絶対騒ぐだろ!!」
「はぁ~~~、瀬川は俺をなんだと思ってるんだ…………」
盛大にツッコんだ瀬川に対し、武志はため息交じりに呟いた。
そして、真面目な雰囲気のまま、瀬川に話し続けた。
「別に、初めての事じゃないしな? 穂高が告られるのなんて……。
――――それに、なにより俺は…………、いや、彰もか……、多分、穂高がなんて返事を返すのか、分かり切ってる……」
いつもよりも真剣な様子で話す武志に、瀬川は驚きつつも、淡々と話す武志の言葉の意味を、瀬川はすぐに、上手く理解する事は出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――で? 穂高の事だっけ??」
校内の人気のない場所へと訪れた彰は、春奈へと向き直ると、いきなり本題を切り出した。
「うん。
――でも、私の聞きたい事はさっきの事だけで、他にないよ?
天ケ瀬君の居場所を聞きたいというか……、なんというか……」
「なんで、いきなりしどろもどろになるんだよ……。
穂高の居場所でしょ? 知ってるっちゃぁ、知ってるよ」
「――ホントッ!?」
彰の言葉に、春奈の表情は少しだけ明るくなり。そんな春奈の表情を見て、彰は少しだけ胸の辺りに、痛みを感じたが、罪の意識を感じながらも、これから取る行動を、彰は変えるつもりはなかった。
「――穂高の居場所を教える代わりに、一つ、春奈に教えて欲しい事があるんだけど……」
「え……? う、うん……、なに??」
戸惑う様子の春奈に、彰は大きく息を吐き、気を引き締めると、真っ直ぐに春奈を見つめ、尋ね始める。
「春奈は、穂高の事が好きなの?」
「――え……? え、えぇ~~ッ!?」
真剣な面持ちで尋ねる彰に、一瞬思考が停止した様子だった春奈は、我に返ると、一気に顔を赤らめ、明らかに動揺した様子を見せた。
そして、そんな春奈を見て、彰は少しだけ表情が曇る。
「い、いやッ! 好きとか……、別に、まだそうゆうんじゃなくて……。
純粋に、仲良くなりたいなぁ~~、なんて……、そんな風にしか考えられてないんだけど……」
「そう……、仲良くなりたいだけ…………」
彰は、ここで春奈がはっきりと明言しなかった事で、少しだけホッと息を付き、そして、再び詰める様に話し始める。
「好きとか、付き合いたいとかは流石に違うか……。
――まぁ、穂高と春奈とじゃ、釣り合ってないかもしれないしね?
仲良くしてるグループも違うし、接点もあまり無いでしょ??」
「――え…………? なに……を…………?」
彰は自分で言っていて、心の中にドス黒い何かが、どんどんとうごめき、溜まっていくような、そんな感覚を感じたが、一度決めた以上、自分を嫌いになりそうだったとしても、春奈にそれらの言葉を、伝える事を止めなかった。
そして、彰の思ってもみない言葉に、春奈は呆然とした様子で、思わず声だけが漏れた。
「春奈にはもっとお似合いな人が居そうだし……。
流石に、早とちりだったかぁ~」
彰は自分でも驚くほどに、すらすらと言葉が出ていき、春奈はだたぞれを黙って受け止めた。
そして、彰は何より、揺るぎない事実を続けて春奈にぶつける。
「――――それに、穂高は誰とも付き合う事は無いよ?
俺の知ってる、穂高であれば……、絶対に…………」
彰は鋭い目つきで、冷たく言い放つように、春奈に伝え、罪悪感を少し感じつつも、後悔は彰の中に一つも無かった。




