姉の代わりにVTuber 111
◇ ◇ ◇ ◇
「――え、えぇ~~と……、二年生の真鍋さんだっけ……?
俺なんかに、何の用かな?」
穂高は、初対面の女性、碧に呼ばれ、彰達の前では話せない内容との事で、人気のない体育館裏へと訪れていた。
ついさっき名乗られ、接点がありそうにも無い女性を前に、穂高は様々な思考を巡らし、少し緊張した面持ちで、相手を伺う様に改めて尋ねた。
「あ、天ケ瀬先輩に、どうしてもお話したい事があって、ご、ごめんなさい……。
今、球技祭の真っ最中で、色々とお忙しいとは思ったんですけど……」
「あ、あぁ、いやッ、別にそこは気にしなくてもいいよ?
俺は別にそこまでの主力じゃ無いしね……」
「い、いえッ! そんな事無いですッ!!
――か、カッコよかったです……」
謙遜などでなく、心から思っている事実を交え、呼び出した形になっている碧に、気を使わせないように穂高は答えたが、そんな穂高の言葉を、碧は真っ直ぐに否定した。
そして、穂高は最後にボソリと呟いた、碧の言葉を聞き逃す事は無く、心の中でその碧の言葉を疑い始める。
(――え? カッコいい??
彰や瀬川……、大貫達がいて、俺がその評価は無いだろ……。
お世辞か…………?)
穂高は目の前にいる碧を疑うが、碧の様子はどこか挙動不審に見え、嘘やお世辞を言えるような余裕が、無いようにも思えた。
(最初、俺に話しかけてきた時は驚いたけど、一体何が目的なんだ……?
――彰とか瀬川達を紹介してほしい……とか、そういう類いのものには考えられないし……。
俺に頼むとしても、この子と俺とじゃ、まず接点が無さ過ぎるしな。
初対面の奴に、いきなりそういった頼み事をするとは、考えられない)
穂高は頭の中でグルグルと、いろんな可能性について考えたが、答えが出るはずも無く、答えを知る為にも、再度、碧に質問を投げかける。
「それで? 結局、俺は何で呼び出されたのかな??」
なるべく柔らかく尋ねたつもりの穂高だったが、年下の女性の接し方などに慣れてるはずも無く、結果的に少しだけ詰めるような印象で、碧に尋ねた。
穂高の言葉に、碧は一瞬たじろぐも、覚悟を決めて来たのか、すぐに気持ちを固め、穂高をここへ誘った理由を話し始める。
「――あ、天ケ瀬先輩ッ! 好きです!!
付き合ってくださいッ!!」
碧は勢いよく頭を下げながら、頼み込む形で告白をし、突然と出来事と、予想もしていない事態に、穂高は驚いた表情のままフリーズした。
◇ ◇ ◇ ◇
3-B 教室。
球技祭も中盤へ差し掛かり、イベントの前半に行われたリーグ戦は、終盤へと差し掛かっていた。
競技の中には、試合時間、スケジュールの問題から、試合の殆どを終えている競技もあり、進行はまちまちである状況の中、丁度、試合と試合の間隔に開きがあった、彰達、バスケチームは教室へと戻ってきていた。
「――なんか、結構ウチのクラスも戻って来てるな?」
「まぁ、昼休みもそろそろだし、次の試合が、昼休み明けな競技も多いんだろ?」
教室に戻り、自分のクラスに、クラスメイトが多く戻ってきている事を、彰は確認すると、興味深そうに呟き、そんな彰の呟きに、時計を確認し瀬川が返事を返した。
そして、そんな呑気な事を言いつつ、教室の中へと入っていくと、教室へ戻ってきた彰達に気付いた、一人の生徒が声を上げた。
「おッ!! 我らがエースが戻ってきたぞッ!!」
一人の生徒の声を皮切りに、3-B組の生徒の殆どが彰達に視線を向け、アッとゆう間に、彰達はクラスメイトに取り囲まれた。
「お疲れ! 彰君!!
大活躍だったね!!」
「瀬川~~、お前の高身長を活かした、ダンクシュート!
マジでカッコよかったぞッ!!」
彰達を取り囲むクラスメイトは、彰達を英雄を見るような目で見つめ、次々と試合の感想や、彰達を労うような言葉が投げかけられた。
そんな状況が数分程続き、彰はクラスメイト達の扱いを大貫や、若月達に任せ、一足先に、瀬川と共にその集団から抜け出した。
「――はぁ~~、まだ優勝してないのに、気が早いよみんな……」
「し、試合より疲れた……」
彰は苦笑いで、ため息交じりに呟き、基本的に人付き合いが得意でない瀬川は、どっと疲れた様子で呟いた。
大貫や若月、糀谷は元々、そういった雰囲気に慣れている部分もあり、彰や瀬川が抜けた後も、楽し気にクラスメイト達と会話を続けており、そんな三人を尻目に、彰と瀬川はなるべく近くの、人気のない所へ腰を降ろした。
「一先ず、リーグを抜けるのは固そうだな?」
「――天ケ瀬や、大貫達の動きも良くなってきてるし、トーナメントの方も期待できると俺は思ってる」
「だよな!? 俺もッ!」
彰はこのイベントに不穏な空気を感じていたが、蓋を開けてみれば、チームの雰囲気は良いもので、楽しく、それに結果も現時点ではきちんと残せていた。
これから先の試合も、バスケットボール以外での不安要素はまるでなく、試合にだけ集中できる環境にあった。
(――――最初は、どうなる事かと思ったけど……、穂高も智和達も何の衝突も無く、よくやってくれてるよ……)
彰は心穏やかに、今後の試合も楽しみに心待ちにしていると、そんな彰に、彰のよく知る一人の人物から声が掛かった。
「おいおい~~、良いよなぁ~~~? クラスの人気者たちはよぉ~~~~??」
「ゲッ……」
彰よりも先に、声を掛けてきた人物に瀬川が反応し、瀬川の嫌そうな反応から、彰は顔を見る前に、誰が話しかけてきたのか、容易に想像できた。
「武志…………。
相変わらず幸薄そうだな」
彰は話しかけてきた人物が、武志だと確認すると、瀬川同様、少しだけ面倒そうに、返事を返した。
「幸せ絶頂期のお前たちには、俺が幸薄そうに見えるのか~~??
そ~~か、そ~~かッ! いいよなぁ~~? クラスを総合優勝へと導く英雄様達はよぉ~~!?」
武志は完全にヒステリックへ陥っており、こうなってしまった武志を何度か相手している為、彰も瀬川も凄く、今の武志に話を投げかけづらくなっていた。
しかし、放っておいても、ネチネチとひたすらに嫌味を言われるため、瀬川は渋々といった様子で、武志の事情を聞き始めた。
「――――はぁ~~、一体どうしたんだ? 松本……。
何かあったのか??」
「なんも無いですよぉ~~?? 無いですけどぉ~~~??
――ただ、ちょっとオウンゴール決めて、クラスメイトから大バッシング食らっただけですけどぉ~~~??」
「――――それは……、災難だったな……」
事情を聞いた瀬川だったが、武志の言葉にはフォローのしようが無く、ただ渋い表情を浮かべ、それっぽい言葉を返す事しか出来なかった。
そして、瀬川が上手くフォローを出来なかった為、このままいつも通り、武志の愚痴が続くとそう思ったその時、今度は武志では無い、透き通った女性の声が、彰達に投げかけられた。
「――彰! お疲れ!」
彰を含め、その場にいた三人が、声の方へと視線を向けると、そこには、走ってきたのか、息を少しだけ切らせた春奈の姿がそこにあった。




