姉の代わりにVTuber 110
「――――もう、告白したと思う……?」
体育館にいた真鍋 碧を見つけてから、必然的に碧の話を春奈は、青木 楓に投げかける。
「えぇ~~~ッ? それ、アタシに聞く~~??」
「だって、楓がこの話始めたんでしょ?
どう思うのよ? 碧ちゃんの反応を見て……」
「んん~~~、分かんないよ……。
碧の表情からじゃ……。
――でも、まだ午前中なんだし、球技祭も始まったばかりだから、まだなんじゃないの??」
青木はため息を付きながらも、春奈の質問にはきちんと答え、青木から見て、碧はまだ行動していないように見えた。
「――――天ケ瀬君……、なんて返事を返すんだろう」
「そんなのもっと分かんないでしょ~~?
ここで考えたって仕方ないよ……。
――――それに、碧一人だけとは限らないよ?」
「え…………?」
青木の言葉に、春奈は意表を突かれ、思わず声を漏らした。
驚いた表情を浮かべる春奈に、青木は少しだけ、これから話そうとしている言葉に躊躇したが、未だに上手く答えが出せていない春奈に、そう時間が無い事を、暗に伝える意図も含み、続けて話した。
「球技祭で春奈のクラスは目立ってるし、天ケ瀬も、バスケ部のアタシから見ても、悪い動きはしてないし、今日の試合を見て……とか、あるかもしれないよ?
あるいは、前々から少し良いなとか思ってて、今日の球技祭で思いが固まる……とかさ?」
青木は言葉を濁して伝えたが、春奈にはその言葉で充分であり、青木の言葉に増々、春奈の表情は暗くなる。
(はぁ~~~……、そんな悲しそうな表情するなら、とりあえず付き合ってみればいいのに……。
あとから気付きました、でももう誰かの恋人でした……じゃ、どうしようも無いのにさ……)
青木の言葉で黙ってしまった春奈を見て、青木は心の中でそんな事を考えながら、今度は穂高の方へと視線を向ける。
そして、かねてから、青木が穂高と出会ってから、何度か感じていた事を、ポツリと言葉にして零す。
「――まぁ、天ケ瀬の奴、普段から何考えてるのか、分からないしな~~~。
本当になんて、返事返すか……、想像付かないな」
「――――え……?
確かに、なんて返事を返すかは分からないけど、
そんな普段からを何考えているのか、分からないような、そんな変な人じゃないと思うけど……」
青木の言葉に疑問を感じた春奈は、不思議そうに尋ねるが、青木は自分の考えを曲げる事は無かった。
「いいや、変でしょ? 天ケ瀬は……。
二年間クラスが一緒で、それなりに話したこともあったけど、天ケ瀬よりも話した事が無い人の方が色々知ってるよ。
――まぁ、春奈の方が最近、天ケ瀬と絡みがあるから、私が間違ってるのかもしれないけど……。
でも……、それでも、やっぱり、天ケ瀬の事はよくわかんないや……」
「――そうかな…………」
青木の最後の言葉は、春奈の共感は得る事は無く、春奈は納得のいっていない様子でポツリと呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――キツイッ!! 超疲れる!!」
リーグ戦、4試合目が終わり、穂高は体育館の壁に寄りかかるようにして、勢いよくその場に座り込んだ。
「おいおい……、天ケ瀬はスタメンじゃないだろ……?
ベンチスタートの途中参加でバテて貰っちゃ困るぞ??」
「ふざけんな! 選手のお前と帰宅部の俺とじゃ、体力が違い過ぎるんだよ!
体育の授業よりもみんな本気だし、1試合16分て長すぎじゃない?? 半分でいいよ半分で……」
バテ気味の穂高に、まだまだ体力に余裕のありそうな瀬川は、呆れた様子で声を掛け、瀬川の理論に納得のいかない穂高は、強く瀬川の言葉を否定した。
瀬川と彰、糀谷のプレーはレベルが物凄く高く、そのプレーに何とかがむしゃらに、ついて行こうとする帰宅部の穂高にとっては、とても体力の使う事であり、バテるのは必然とも思える現象だった。
そして、穂高は自分と少しだけ近い境遇にある、大貫と若月に視線を向ける。
「――大貫や、若月だってへばってるじゃねぇか……。
俺がおかしいんじゃなくて、お前らバスケ部が異常なんだよ。
明らかに勝ってる試合なのに、最後まで手を抜かないって……、鬼かよ……」
「なんだ~~? 天ケ瀬……、聞こえてるぞ~~??
俺達がへばってるってぇ~~~?? まだまだ元気だが?」
穂高の声が聞こえたのか、少しだけ離れたところで項垂れていた大貫が、ヘラヘラと笑みを浮かべながら、聞き捨てならないといった様子で、穂高に返事を返した。
今までの穂高であれば、すぐに簡単に謝罪し、丁寧な口調で対応していたところであったが、試合を重ね、友好関係を築き始めた大貫には、口調を変える事は無く、瀬川や彰達に話しかけるような口調で、続けて言葉を返す。
「いや、さっきの試合……、まだ前半の途中だって言うのに、俺に交代させた事、忘れて無いからな??」
「なぁぁぁにぃ~~~ッ??
言う様になったじゃねぇか~~? ベンチで俺ら程、試合出てない奴がよぉ~~!」
穂高の言葉が癪に障ったのか、大貫はじゃれ合う様に、穂高が頭に掛けていたタオル越しに、頭をわしゃわしゃと強めに撫でまわした。
「――――おいッ! やめろよ! 疲れてんだからよ!!」
「一緒に練習してた時は、丁寧な口調だった癖に! 慣れると生意気だな! 天ケ瀬!!」
「同い年に生意気もクソもあるかッ!!」
頭を揺らされた穂高は反発しながら、大貫の手を払いのけた。
バスケ部以外のメンバーは、くたくたな状況にあったが、度重なる交流と、初戦から続く連勝で、チームの雰囲気はどんどんと良くなっていった。
穂高は、春奈との噂の件もあり、大貫とはそこまで仲良くなることは出来ないと、懸念している部分もあったが、蓋を開けてみれば、あっさりと、仲良くなるのにも、そこまで時間は必要なかった。
「智和も穂高も良くやってるよ……。
まだまだ頑張って欲しいなって思う部分は、試合中沢山あるけど」
「一々一言余計だわッ! なぁ? 天ケ瀬??」
「――彰と話してても、余計な体力使うだけだから、無視した方が良いぞ……」
穂高達の会話の輪に、ひときわ楽しそうに笑顔を浮かべ参加してくる彰に、大貫は嫌味を言われた事に反発し、同意を求められた穂高は構う事無く、自分の体力回復に努めた。
そして、穂高は少しだけ離れたところから、こちらを伺うもう一人のチームメンバーに視線を向けた。
(大貫とはあれ以来、変なわだかまりがあったからな……。
問題が解決したわけじゃ無いけど、一先ず、友好的にはなれて良かったか。
――ただ、問題は…………)
穂高の視線の先には若月の姿があり、若月とは試合数を重ねても、未だに打ち解ける事は無かった。
(大貫と若月に呼び出された時も、どっちかって言うと若月の方が敵意出してたしな……。
そう簡単に、和解できるわけ無いか……。
――――ってゆうか、俺、なんか悪いことしたか??)
穂高は冷静に分析しつつも、我に返ると自分に非があるところは見当たらず、自分の悲運を嘆いた。
そして、大きなため息を付く穂高に、彰から声が掛かる。
「お~~い! 穂高!
お前に、お客さん!!」
彰の声に導かれるように、彰の方へと視線を向けると、そこには見知らぬ、一人の女性生徒の姿がそこにあった。




