姉の代わりにVTuber 109
◇ ◇ ◇ ◇
(どうしよう……、結局当日になっちゃった…………。
さっきも、天ケ瀬君と話した時、ちょっと不自然なとこあったし……)
穂高達との雑談を終え、春奈はつい先ほどの会話に後悔を感じていた。
(――で、でも、この事は碧ちゃんと天ケ瀬君との間の問題だし……、私がどうこう言う事じゃ無いし…………。
だ、だけど…………)
「――き、気になる…………」
春奈は後輩である、真鍋 碧から告白されてから、ずっと今日起こる可能性のある事について、頭の中がいっぱいだった。
(――ほ、本当に告白するのかな……? 碧ちゃん…………)
春奈は、友人である青木 楓から、助言を貰って尚、自分の気持ちに整理を付けられず、ズルズルと結論付けられぬまま、球技祭を迎えてしまっていた。
(今日迎えるまで、天ケ瀬君と話す機会は沢山あった……。
天ケ瀬君も私の二次試験があるから、それの協力の為に、時間を割いてくれてた。
――――天ケ瀬君は優しいし、頼りにもなるし、凄い大切な存在だという事は分かってる……。
でも、好きかどうかって言われると……、瑠衣と同じように大切だし、これからも良い関係を気付きたいけど……、これって友達に向ける感情と何が違うんだろう…………)
春奈は今日まで何度も考えた議題を、頭の中で整理しようとするも、結局いつもと同じような結論へとたどり着いてしまう。
これは、春奈が今まで異性を恋愛対象として、好きになった事が無い事が起因しており、どうすればいいのかすらも、分からなくなっていた。
(と、とにかく今は、穂高君の応援をしようッ!)
頭でいくら考えても答えの出ない問題に、春奈は一度区切りをつけ、思考する事から逃げる様に、今実行すべきことを念頭に置いた。
球技祭開始から、数分後。
ゲーム時間も各種目短く、まずは学年でリーグ戦となっている為、どの学年も、同じ学年のクラスと試合を行っていた。
そして、学年リーグの中で、優秀な成績を残したクラスが、全学年対抗のトーナメントへと出場する事になっていた。
「――いや~~、初戦は危なげなくだな!」
リーグ戦第一試合を無事終えた彰は、涼し気な表情で、滴る汗をタオルで拭いながら、穂高に声を掛けた。
「ルールだから仕方無いけど、控えなしで試合してったら、優勝間違え無しだな」
「――それ、お前が試合出たくないだけじゃね??」
バスケの種目は、各クラス6~7名出場でき、穂高のクラスは6名でエントリーしていた。
そして、一応授業の一環でもあるため、サボりは許されず、公平さを保つため、控えの選手で会っても、必ず試合に出る事が義務付けられていた。
「いや、出たくねぇよ、こんなプレッシャー感じる息苦しい試合なんて……。
俺は帰宅部なんだぞ?? 部活動で大会に出てたりするお前とは違うの!」
「――緊張してんのか??
そんな事言ってる割には、リラックスしてやってるように見えたけど?」
(――た、確かに、プレッシャーは感じるけど、緊張はしてないな……。
リムでいつも配信してるからか? 度胸が付いちまったのかも……、嬉しくはねぇけど……)
穂高は彰に言われ、自分があまり緊張していない事に気づき、穂高自身も当日は緊張すると考えていた為、自分でも意外に感じていた。
「――ま、まぁ、緊張してるかどうかは問題じゃないッ!!
ヘマするか、しないかが問題なんだよ!
俺が出るまで、アホほどリード付けとけよ?? ホント、頼むからッ!」
「――な、なっさけねぇな……」
比較的堂々としている穂高の姿は見る影も無く、本気で頼み込む穂高を見て、彰は若干引き気味、呟くように答えた。
「――――天ケ瀬~~! 次の試合!
一応ミーティングするってさ! 楠木も!」
穂高と彰が話をしていると、少し離れているところで、今回のバスケのチームメイトと話をしていた瀬川が、彰と穂高を打合せの為に呼び寄せに来た。
今回の穂高のチームは、瀬川、彰、大貫、若月、糀谷、そして穂高の六人でチームを組んでいた。
スタメンとして、穂高を抜いた五人が出場し、チームメイトの中にはバスケ部のレギュラーである、彰と瀬川、糀谷の三人がいる、超強力なチームだった。
穂高達、3-B組のバスケチームが試合後のミーティングを行う傍らで、試合の観戦をしていた春奈と青木 楓の姿がそこにあった。
試合観戦の熱冷め止まぬ様子で、青木は春奈に声を掛ける。
「いや~~~、流石は優勝候補ッ!
まだ初戦なのにギャラリーも多いし、何より絵になるイケメンが多いしね~~ッ!!」
「――うん……、そうだね…………」
「でも、一番歓声が上がってるのはやっぱ、彰かね?
彰好きな女子多いしね~~!」
「――――うん……」
楽し気に話す青木に対し、春奈は何処か上の空といった様子で、返事を返し、声にも覇気は無かった。
青木も春奈はバスケ部所属という事で、お互い、バスケのクラス代表として選ばれ、自分たちも利用する会場、体育館で試合が丁度行われていた為、自分たちの出番を待ちながら、穂高達の試合を観戦していた。
春奈は、自分のクラスが試合をしているという事もあり、3-B組を応援し、試合していたクラスが、どちらも所属ではない青木は、フラットに試合を見ていた。
「――春奈……、また暗い表情して…………。
もしかして、まだ悩んでたの??」
「え……?」
「え、じゃないよッ!!
天ケ瀬の事でしょ~~??
――まったく……、悩むくらいなら、とりあえず好きって言っちゃえばいいのに……」
「なッ! そ、そんな事出来るわけないでしょッ!!」
とんでもない言葉を発せられ、春奈は慌てふためきながら返事を返し、冗談じみた発言に見えたが、青木はいたって真面目な様子で発言しており、内容は大胆だが、本気で思っている事を口に出していた。
「――はぁ~~、じゃあ、どうするか考えなさいな……。
いつまでも、そう、難しい表情をされてると、調子狂っちゃうよ……。
――第一、試合してる時はそんな悩んでる素振り無かったじゃん? どしたの? 思い出したの??」
春奈のこうした重い雰囲気に付き合わされるのは、これで二度目である青木は、少しだけうっとおしくも感じていた。
そして、体育館で偶々出会い、つい先ほどまでは、いつもの調子で春奈は試合を観戦していた為、もう、あの日の事で悩んでいると、青木は今の今まで思ってもいなかった。
「――そう簡単に結論出せないから、こうして悩んでるんだよぉ……。
とゆうか、思い出したわけでも、忘れてたわけでも無いからッ!
――今日は球技祭だし、気持ち切り替えよう! 楽しもうって思ったんだよ!?
でも…………」
青木に言われ、今日の朝方に決意していた事を告白し、全てを伝え終えた後、春奈は青木から視線を外し、体育館のとある一角へと視線を向けた。
会話を途中で止めた春奈に、青木は違和感を感じつつ、春奈の視線を追う様にして、春奈が見つめる先へと視線を向けた。
「――――あっ……、な、なるほどね……、そうゆう事……」
春奈の視線の先には、眞鍋 碧の姿があり、碧のその表情は形容しがたいが、何かに憧れるような、そんな表情を浮かべ、ある一点を見つめていた。
「碧の視線の先は……、まぁ……、言わずもがなアイツだわな……」
事情を知っている青木は、確認するまでも無く、碧が誰を見つめているのか分かったが、一応その見つめる先を確認すると、そこにはやはり、穂高の姿があった。
(男子じゃ絶対に分かりはしないけど、同じ女子だからよく分かる……。
碧のあの顔は、完全に恋する乙女だ……)
青木は何故急に、春奈の元気がなくなったのか、すべてに納得がいき、碧の表情から、改めて穂高に好意を向けている事が確認できた。




