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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
110/228

姉の代わりにVTuber 108


 ◇ ◇ ◇ ◇


球技祭。


4月から学校が始まって以降、一番と言ってもいい程の大きなイベントが、遂に開催された。


前日までの準備は滞りなく進み、主に生徒会やクラス役員による活躍で、スケジュールや当日の進行がされていた。


各クラスに存在するクラス委員は、自分のクラスの生徒に、球技開催の順番を認知させ、どの時間に、どの会場へ向かうかを、きちんと指導し、全学年が参加するという事もあり、進行はスムーズに行う必要があった。


「――毎度の事、理解してるとは思うけど、試合時間に遅れたら、強制的に失格だからねッ!!」


前日から口を酸っぱく言っていた、球技祭における最大の注意点を、3-B組のクラス委員は、当日にもクラスの生徒全員へと伝え、簡単な朝のHRを終えると、すぐさま教室内は活気づいた。


穂高ほだか~~ッ!! 遂に始まったなぁ~~、おいッ!!」


クラス内が騒めき始めると、自由時間にもなった事もあり、穂高の友人である武志たけしが、自分の席から離れ、わざわざ穂高の元へと訪れ、楽し気に声を掛けてきた。


「――――始まっちまったなぁ~~~。

楽しくない、今年の球技祭が……」


楽しみしている武志とは裏腹に、自分の望む競技へと参加できなかった穂高は、憂鬱気味に呟き、答えた。


「テンション低いなぁ~~おい……。

そんなんじゃ、バスケで活躍できないぞ?」


「――――誰も、俺の活躍は期待してねぇよ……」


穂高は武志の相手をしながら、生徒会が作成した、球技祭のしおりを開いた。


「3-B男子の種目で一番目は、サッカーか……。

――お前の醜態を見に行ってやるか」


穂高はしおりに記載されているスケジュールから、武志が出場するサッカーの試合が、自身のクラスで一番初めに開始されることを知り、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、からかう様に武志に投げかけた。


「失礼なッ!! 醜態をさらす程、サッカー下手くそじゃねぇよ!」


「ほんとかよ……、授業でも、活躍したとこ見た事ねぇぞ??

プライベートでもやってるの聞いた事ねぇし……。

遊びで俺たちとフットサルやったぐらいだろ??」


自信満々な武志に対し、穂高は武志の自信に懐疑的であり、とても活躍するようには見えなかった。


「遊びの中での話だろ!?

――今回は、俺……、本気だからよッ……」


「――――そうかい……」


どれだけ疑いの目を向けても、自信を無くすことの無い武志に、穂高はめんどくさくなり、生返事で言葉を返すと、教室内にいる、他の友人へと視線を向ける。


「――――イケメンのあきらは相変わらず……、隠れ女子人気の瀬川せがわも珍しく、今日は囲まれてんな」


穂高はいつもなら姿を現すはずの、瀬川がいない事に気付き、彼の姿を簡単に探すと、瀬川は珍しく女子生徒と、数名の男子生徒に囲われ、いつもの教室ではあまり見られない、珍しい光景がそこにあった。


瀬川は穂高達に見せるような自然な笑顔では無く、引きつったような慣れない笑顔を浮かべ、瀬川の周りを取り囲む生徒達は、目を輝かせ、明らかにテンションが高い事が、遠目から見ても感じ取れた。


「――瀬川の奴ぅ~~~……、球技祭だからって、調子好きやがってぇ~~~ッ」


穂高の言葉と視線から、武志も瀬川の現在の状況を把握し、気の毒に思う穂高とは違い、嫉妬の炎をメラメラと燃やしていた。


「瀬川だって本意じゃないだろ……?

俺には気の毒にしか見えねぇよ」


「は? どう見たって羨ましいだろ!!

試合が始まる前からスターじゃねぇか! 不本意だったとしても、許せんッ!」


「あっそ…………」


これ以上の抗議は無駄だと感じた穂高は、ほったらかす様に言い放ち、再び瀬川や彰の方を見やる。


(――やっぱ、部活動でもスタメン、レギュラーの瀬川と彰がいるから、みんな優勝目指して活気付いてるんだろうな……。

バスケ部ですらない大貫おおぬき若月わかつきですら、期待の眼差しを向けられてるし……)


彰の近くにいた大貫と若月も、他の生徒から熱い声援を送られており、穂高はその光景を見て、増々気分が重くなった。


そして、そんな憂鬱とした気分の穂高に、武志は穂高の目線から、内心を察した様子で、今度は武志がニヤニヤとした不気味な笑みを浮かべる。


「なぁ、穂高? 彰も、瀬川も、バスケ部では無い大貫や、若月ですら応援されてるのに、お前のところには誰も応援に来ないのな……?」


「――武志…………、珍しく癇に障ること言うじゃねぇか……」


揶揄うような笑みを浮かべ、嫌味を言う武志に、穂高はイラつきを感じ、武志の言葉は、今の穂高にクリティカルヒットしていた。


武志に対して上手い言い返しが出来ず、穂高が言葉に詰まっていると、そんな二人に別の方向から声が掛かる。


「――天ケあまがせ君ッ、松本まつもと君! 調子はどう??

活躍できそう?」


「できるわけッ…………って、え……?」


頭に少しだけ血が上っていた穂高は、声を掛けられた事で、条件反射気味に返事を返し、話している途中で、声を掛けてきた人物が誰なのかに気が付いた。


穂高は話しかけていた言葉を途中で止め、驚いた様子で話を掛けてきた人物を見つめた。


「――し、ししッ、四条しじょうさん!? そ、それに杉崎すぎさきさんもッ!?」


驚き、少しだけ硬直していた穂高に対し、武志は穂高以上に驚いた様子で、明らかにテンパった口調で反応した。


穂高と武志に声を掛けてきたのは、四条 瑠衣るいと杉崎 春奈はるなだった。


「天ケ瀬君はバスケで、松本君はサッカーだよね?

応援しに行けるときは応援しに行くねッ!!」


「――え、ええッ!? ほんとですかッ!!

が、頑張りますッ!!」


瑠衣の言葉に未だにテンパっている様子で武志は答え、冷静さを取り戻した穂高は、瑠衣や武志の会話には意識を向けず、この場にいる生徒以外、この会話に居ない外野へと意識を向ける。


(――周りもテンションが上がってるし、悪目立ちはしてねぇか……。

若月も大貫もこっちには気づいて無さそう……)


穂高はすぐに周りの状況を確認し、このまま春奈達と会話を続けても、後々面倒な事にはならそうだと結論付けた。


「四条さんも物好きだな……?

わざわざ、3-Bの醜態を見に行くなんて……。

サッカーは、武志がヘマして終わりですよ?」


「ばッ!! よ、余計な事をッ!?

――四条さん! 見ててください! 必ず活躍してみせますよッ!!」


穂高は先程の言葉の仕返しと言わんばかりに、冷たい笑みを浮かべながら余計な一言を瑠衣に伝え、武志は挽回を図るように、慌てて弁明を穂高の言葉の後に続けた。


「フフフッ、楽しみにしてるよ! 二人ともねッ?」


武志の行動に、瑠衣は笑みを浮かべ、そして、今度は穂高から瑠衣達に話を投げかける。


「四条さんと杉崎は種目なんだっけ?

杉崎はバスケだろ?」


「えぇ~~~ッ!? 天ケ瀬君、ハルのだけ覚えてるって酷くない~~~??」


「――ッ!? そ、そうだぞッ!! 穂高のアホッ! マヌケッ!!」


何気なしに提供した穂高の話題だったが、穂高が自分の出場する種目を知らなかったのが、ショックだった瑠衣は、残念そうに声を上げ、瑠衣の機嫌を損ねた穂高を、武志は糾弾した。


「わ、悪い……、自分の種目でいっぱい、いっぱいで……」


「瑠衣はバレーだよ、天ケ瀬君」


バツの悪そうにする穂高に、瑠衣の代わりに春奈が、苦笑いを浮かべながら、瑠衣の種目を教えた。


「そうだよッ! あまがせっち!! ちゃんと覚えてよねッ!」


「――あッ! バレーか!? 悪い悪い……。

ん? あまがせっち??」


瑠衣は頬を膨らませながら、少し怒り気味に穂高を非難し、瑠衣のさり気なく付けたあだ名を、穂高は聞き逃す事は無く、瑠衣に聞き返す様に呟いた。


しかし、穂高のそんな些細な疑問は、瑠衣に答えて貰えることは無く、その後も春奈と瑠衣と会話を続けたが、『あまがせっち』が簡単に瑠衣の中で定着してしまった。


穂高も、そこまで強い罪悪感を感じていたわけでは無かったが、出場する種目を答えられなかった負い目もあるため、強くそのあだ名を否定する事が出来なかった。



誤字報告ありがとうございます。

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