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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
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姉の代わりにVTuber 107


「――なッ! ま、またその話?」


静香しずかの言葉を聞き、美絆みきは一瞬狼狽えながらも、静香を鋭い目つきで見つめながら、反抗するように言葉を返した。


「またも何も、美絆が私に言わせたようなものでしょ……?

私が日本を旅立つ前、一度完結した話題だと思うけど??」


狼狽える美絆に対し、静香は強気の体制を崩す事は無く、ハッキリとした物言いで美絆を詰める。


「完結させた覚えは無いし……、私は今でもお母さんの言った言葉には反対だから」


美絆は、静香が日本を離れる前に一度、この話題に付いて話し、口論になった時の事があった。


美絆にとっては苦い思い出であり、その時は静香に言い負かされた為、当時の事を思い出し、美絆は少しだけ弱気になった。


「そう……、まぁ、この事に関しては、たとえ家族であっても納得して貰う必要はないわ……。

私が強く言い聞かせなくとも、頭の良くて、察しの良い穂高だから、いずれ分かる事だし……。

本人にだけ伝われば、私はそれでいいと思ってる」


静香は、自分の考えを穂高が受け入れてくれる事を疑わず、美絆はそんな自信満々な静香を理解できなかった。


そして、困惑する美絆に気付く静香は、まるで心を見透かしているように、続けて話しだす。


「――今の話で、困惑しているようじゃ、一生美絆には理解できないわね……。

まぁ、才能ある者と無い者とでは、決定的な価値観の違いがあるし、仕方が無いけれど……」


「わ、私は自分が才能があるだなんて、一度も思った事はないッ!!

努力して掴んだ夢だと思ってるし、これからも努力し続けないといけないと思ってる」


「努力できる天才は無敵ね?

自分の限界を知らず、努力できる凡人も、おそらく夢を叶えられる人材よ。

ただ、穂高に限っては違う。

――――無理よ、美絆がいくら凡人ぶったって、穂高の気持ちは一生理解できない……。

それよりも、才能が無い事に気付き始めている穂高を、才能ばかりが溢れる世界に飛び込ませるなんて、酷な事をしてるとは思わないの?」


お互いの信念が一切理解されない、理解できない二人の意見は平行線を辿り、この話題を話す前から相いれないと分かり切っていた静香は、穂高が『チューンコネクト』に、代役で所属している事を指摘した。


「穂高は上手くやれてるよ……。

他のメンバーとも遜色なく……」


「へぇ~~、本職から見ても本気でそう思うの?」


春奈は穂高に感謝しており、発した言葉も嘘偽りは無かったが、静香を前にして、どうしても自信満々には言えず、そんな美絆の発言を静香は容赦なく突く。


「――まぁ、美絆の言う通り、上手くはやれてるとは思うわよ?

持ち前の器用さを最大限に使って……。

それでも、いつかはボロが出る。

何故なら穂高じゃどうしたって力不足だから……」


「親だったら信じてあげても良いんじゃないのッ!?

元々、穂高にだってやりたい事はあったし、それを目指す上で、私と同じような事をしていたんだから!

この成代わりを引き受けてくれたのだって、未練がきっとあるからッ……」


「そう思い込みたいだけでしょ?」


「どっちがッ!?」


美絆も静香も一歩も引く事は無く、何度言葉を交わしても、二人が分かりあえる事は、この議題においては無かった。


そして、ヒートアップする美絆に対して、静香は一息つくと、変わらず平然とした様子で話し始める。


「――別に、私だって穂高のやりたい事や夢を応援したい気持ちはあるわよ……。

ただ、それは穂高が自分の限界に気付かない程、がむしゃらに努力出来る場合だった時だけ。

穂高は努力する前に気付く。

自分の能力の限界に……」


「それでも頑張れば……」


「無理よ。

伸びしろが分かり切ってて、努力しても一流に届かないと、最初から分かり切っていて、それでも困難な道を歩ける?

無理だったから、穂高はラジオDJの道を諦め、配信者としての活動もしなくなったんじゃないの??

――それに、私は別に穂高に期待してないわけじゃないのよ?」


「――え?」


静香の最後の言葉に、美絆は思わず声を漏らし、静香が話した部分は、以前の口論では聞けなかった部分であった。


「穂高にクリエイターや演者のような、表立った才能は無いけれど、私と同じ、裏方の才能は大いにある。

あれだけ器用なんだもの、才能を持つ人達をどれ程アシストできることか…………。

穂高にはプロデュース能力も、マネージメント能力もきっとある。

それになにより、才能を持った人を見抜ける天賦てんぷ的な感覚がある……」


「――そ、そんなもの……」


「無いって言いたいの??

それは無理よ、美絆。

穂高には、才能がある人間が見えてる。

――それに、これも穂高自身、気付いているかどうかは分からないけど、穂高の周りには不思議と、何かに突出した才能を持った人達が集まる。

私が知る限りでも数名いるわよ?

――穂高の友人である、楠木くすのき あきら君、それに本名は知らないけれど、穂高が夢を諦める要因となった一人、88ハチハチ

そして、もう一人の要因、姉である美絆……。

まぁ、美絆に関しては姉弟だし? 何よりお父さんの子だから省いてもいいけど、簡単に上げるだけで数人上がる。

勿論まだいるし、私の知らないところには、もっといるかもしれない……」


「――偶然でしょ…………」


「人の縁は偶然だとしても、代えがたい貴重な財産よ?

誰と出会うかは、人生において何よりも重要……」


美絆はそれでも静香の考えを否定したかったが、上手く反論する事は出来ず、口ごもってしまう。


「――まぁ人生、挫折と失敗を繰り返して、成長していくものだから、穂高が今、抱いている夢や、やりたい事を邪魔する気は無いけれどね。

それでも、私は穂高を、私の後継者として、期待してる」


静香は、穂高が自分と同じ立場になる事を信じて疑っておらず、昔から、先見の明だけはずば抜けていた母の、静香の言葉に、美絆は言い返すことが出来なかった。


美絆が沈黙してしまった為に、この会話はここで途切れると、静香も美絆もそう思っていたが、静香が話し終えた数秒後に、牛乳をきちんと購入してきた穂高が、病室へと戻ってきた。


「――俺に母さん程の才能は無いよ……。

才能ある親父のアシスタントの為に、世界を飛び回る度胸も無いしな……」


「あら? 聞いてたの穂高??」


病室に入ってきた穂高に、静香は驚いた様子で尋ねてきたが、静香の様子は、穂高から見て白々しくも思えた。


「――わざと聞こえる様に言ってただろ?

俺には、コンビニで牛乳を買ってくるので精一杯だからな?

――ほれ、牛乳」


「えぇ~~~? お母さんが持つの~~~??」


先程までの真面目な雰囲気で話す静香の姿はもう無く、病院に来たばかりの頃のおちゃらけた静香へと戻り、そんな静香に穂高は買ってきた牛乳を持たせようと、静香の前に差し出していた。


強引にでも持たせようかと、穂高は一瞬思いもしたが、ブーブーと悪態を垂れる静香を見て、その考えはすぐに消え失せた。


「はぁ~~、じゃあ、俺が持つよ。

――姉貴? もう面会時間も終わりそうだから、母さん連れて俺は帰るな?」


「――え? あ、うん……。分かった」


穂高の問いかけに、美絆は反応が遅れ、返事もどこか生返事で受け答えだった。


「えぇ~~~、もう帰っちゃうの~~??

お母さんもっと色々話したいのにぃ~~」


「沢山話してたろ?

また今度、面会時間がたっぷりあるときに来いよ。

――ほらっ、行くよ!」


駄々をこねる静香に、もはやどちらが大人か分からない程、真面目な対応を穂高は見せ、静香は穂高に従う様に渋々病室を出ようとした。


「穂高ッ! 待ってッ!!」


穂高と静香が病室から出ようとしたその時、今まで呆然としていた美絆が、穂高を呼び止めた。


美絆の呼びかけに、穂高達は立ち止まり、美絆の方に視線を向けたが、美絆は呼び止めたのはいいものの、言葉が中々出てこず、モジモジとした様子で言葉に詰まっていた。


「――大丈夫だよ姉貴。

俺はその内やりたい事も見つけるし、俺が生きたいように、好きなように生きるから。

姉貴みたいにな?」


言葉に詰まる美絆を見て、何かを察した穂高は優しく微笑みながら、美絆にそう伝え、病室から出て行った。


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