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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
108/228

姉の代わりにVTuber 106


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――――穂高ほだか? なんで、連れてきちゃったの……?」


東橘ひがしたちばな総合病院、病室。


美絆みきは、面会時間が終わりかけになっている、夕方に病室に訪れた穂高に、怪訝そうな表情を浮かべ、穂高に言い放っていた。


「今日帰ってきたんだよ……。

姉貴が入院中なのは知ってるし、来ないわけねぇだろ??」


「――そうよッ! 愛する我が子が病院にいるのに、顔出さないわけ無いじゃないッ!!」


穂高は、自分に当たるのは勘弁してくれと言わんばかりに、美絆の質問に答え、穂高と一緒に訪れた、天ケあまがせ 静香しずかは、穂高の意見に無理やり便乗するように、続けて美絆に言葉を発した。


「もう、私が入院してから数か月経つんですけど……」


「仕事が忙しかったのよ~~! 許して?」


呆れ顔で話す美絆に、静香は全く悪びれる様子無く、ウィンクをかましながら答えた。


「母さん、二日前には日本着いてたらしいぞ?」


「あッ! こらッ!! 穂高ッ、余計な事言うんじゃありませんッ!!」


美人とは言え、自分の母がウィンクをしていた事にイラッときた穂高は、容赦なく、包み隠さず美絆に報告をし、そんな穂高に静香は焦り出した。


普通であれば、非常識に思えるであろう静香の行動だったが、美絆はそれに過剰に驚く事は無く、大きくため息を吐いた後、ポツリと呟いた。


「この人なら、平気でそうゆう事やるでしょ……?

日本に帰ってきたのが数か月前だって言われても、別に驚きはしないよ」


「ひっ、酷いッ!! 穂高もお姉ちゃんも、久しぶりの母親にそんな冷たい態度だなんてッ!!

反抗期ねッ!? 穂高はまだ高校生だから可愛げあるけど、成人してる美絆は洒落になってないわよ!」


穂高と美絆の反応に、静香は激しく抗議するが、静香の扱いに慣れている二人は、意に介さず、発言した内容で謝罪することも無かった。


傍から見れば、冷めきった家族の様にも見えたが、穂高達にとってこのやり取りは、日頃から行っている、普通のやり取りであり、このやり取りに温度は無く、穂高達にとっての日常であり、当たり前の光景だった。


「――で? 俺は連れて来る事は連れて来たけど、わざわざ今日に来た意味はなんだよ?」


穂高は静香との再開後、ほどなくして美絆の病院に訪れており、ここに来るまでに理由を聞いたが、静香は教えなかった為、目的がまるで見えてこなかった。


「穂高~~~。

普通にお姉ちゃんのお見舞いに来たとは考えられない~~?

お母さんだって、遠く離れた異国の地で、ずっと心配してたのよ??」


「――まぁ、それもあるんだろうけど、二日間ほったらかしにしてたくらいだからな。

素直に見舞いに来ただけとは思えない」


静香の話を聞いても尚、穂高は素直に見舞いに来たとは考えられず、あくまで静香を疑うスタンスは変えなかった。


「はぁ~~~~。

穂高も見ないうちに、偏屈おじさんになっちゃって…………。

お姉ちゃん、どう思う~~?」


「私も穂高の意見には概ね同意だから……。

何しに来たの? お母さん」


「重ねて酷いッ!!」


すぐに家族に会いに来なかった事で、静香の信用は地に落ち、穂高と美絆の反応に、再び大きなジャックを受けたが、すぐに立ち直り、穂高の言った通り、静香は話を切り出し始めた。


「――――はぁ~~、まぁ、お母さんが今日、急遽来た事には、お見舞い以外にも理由があるんだけども……。

二人とも……、私に何か隠してる事は無い??」


今までふざけた様子の多かった静香は、途端に真面目な雰囲気で穂高と美絆に本題を切り出し、静香の問いかけに、穂高と美絆は一瞬だけ視線を合わせた。


一瞬のアイコンタクトだったが、穂高と美絆の意見はまとまり、静香に二人できっぱりと答える。


「ない」

「ないよ?」


穂高はハッキリと、美絆はとぼける様に静香に答え、二人の答えを聞き、静香は再び大きくため息を付いた。


「まったく……、相変わらず仲が良いわね。

――嘘ついても、私には無駄だって分かるでしょうに……」


静香の反応に、穂高と美絆は内心で焦りを感じたが、そんな二人に構う事は無く、静香は話を続ける。


「美絆。 あなた、Vtuberとかいうタレント業してたでしょう?

あれは今、どうなってるの?」


「――――代役を立ててる。

私は見ての通り、入院中だから……」


問い詰めるように話す静香に、美絆もボロを出さないように努めながら、淡々とした物言いで質問に答えた。


「はぁ~~、面会時間もそんなに無いし、問答してる場合じゃ無いから単刀直入に言うわね?

穂高を使って、Vtuberを続けているでしょ??」


「つ、使ってなんてッ……!!」


美絆は、言い逃れする事よりも、静香の言葉に引っ掛かり、静香が発したある部分の言葉を否定しようと、すぐに声を上げるが、そんな美絆の言葉を静香は遮る。


「穂高ッ、お母さん、今日は夜にシチュー作るから、お店で牛乳買ってきなさい」


美絆の言葉を遮った静香は、途端に全く関係の無い話を穂高にしだし、自身の財布からお札を取り出すと、穂高に差し出した。


「――いや、なんで今なんだよ…………」


穂高は文句を垂れつつも、静香に逆らうという事はせず、席をはずせという静香の意図を汲み取り、お札を一枚取ると病室から出て行った。


「相変わらず、こうゆう時は素直に聞くのね……。

穂高のそうゆう察しの良くて、素直なところは好きよ……」


穂高が病室から出て行くのを確認すると、静香は小さく呟き、そして、美絆の方へと向き直った。


「――さて、美絆?

さっきの話へ戻るけど、一体どうゆうつもり??」


今まで見せたおちゃらけた雰囲気は、静香には無く、冷ややかで淡々とした様子で、美絆に先程の話題を再開させた。


「――どうゆうつもりも何も、私が入院して、困ってたから……。

穂高には才能もあるし、助けて貰って」


「才能…………。

そうねぇ~~、穂高は小さいころから、なんでも器用には、こなせていたものね…………」


美絆の言葉に、静香は増々冷ややかな態度へと変わり、美絆の発したある単語を境に、静香の雰囲気が変わっていた。


「――穂高には才能があるよ…………。

昔から、努力は出来るし、私が始めるよりも前に、同じような事を穂高はやってた」


美絆は、静香の雰囲気に押されていたが、自分の考えを曲げる事は無く、抗う様に静香に言葉を返し、美絆の言葉を聞いた静香は、少しだけ間を置いた後、ハッキリと答え始める。


「――穂高にクリエイターとしての才能は無いわ。

穂高は、何かを生み出す側の人間じゃない。

アナタやお父さんとは違う」


静香は今までで一番の冷ややかな声と態度で、きっぱりと言い放ち、その意思はとても強く、その意志の強さを美絆は感じていた。



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