姉の代わりにVTuber 106
◇ ◇ ◇ ◇
「――――穂高? なんで、連れてきちゃったの……?」
東橘総合病院、病室。
美絆は、面会時間が終わりかけになっている、夕方に病室に訪れた穂高に、怪訝そうな表情を浮かべ、穂高に言い放っていた。
「今日帰ってきたんだよ……。
姉貴が入院中なのは知ってるし、来ないわけねぇだろ??」
「――そうよッ! 愛する我が子が病院にいるのに、顔出さないわけ無いじゃないッ!!」
穂高は、自分に当たるのは勘弁してくれと言わんばかりに、美絆の質問に答え、穂高と一緒に訪れた、天ケ瀬 静香は、穂高の意見に無理やり便乗するように、続けて美絆に言葉を発した。
「もう、私が入院してから数か月経つんですけど……」
「仕事が忙しかったのよ~~! 許して?」
呆れ顔で話す美絆に、静香は全く悪びれる様子無く、ウィンクをかましながら答えた。
「母さん、二日前には日本着いてたらしいぞ?」
「あッ! こらッ!! 穂高ッ、余計な事言うんじゃありませんッ!!」
美人とは言え、自分の母がウィンクをしていた事にイラッときた穂高は、容赦なく、包み隠さず美絆に報告をし、そんな穂高に静香は焦り出した。
普通であれば、非常識に思えるであろう静香の行動だったが、美絆はそれに過剰に驚く事は無く、大きくため息を吐いた後、ポツリと呟いた。
「この人なら、平気でそうゆう事やるでしょ……?
日本に帰ってきたのが数か月前だって言われても、別に驚きはしないよ」
「ひっ、酷いッ!! 穂高もお姉ちゃんも、久しぶりの母親にそんな冷たい態度だなんてッ!!
反抗期ねッ!? 穂高はまだ高校生だから可愛げあるけど、成人してる美絆は洒落になってないわよ!」
穂高と美絆の反応に、静香は激しく抗議するが、静香の扱いに慣れている二人は、意に介さず、発言した内容で謝罪することも無かった。
傍から見れば、冷めきった家族の様にも見えたが、穂高達にとってこのやり取りは、日頃から行っている、普通のやり取りであり、このやり取りに温度は無く、穂高達にとっての日常であり、当たり前の光景だった。
「――で? 俺は連れて来る事は連れて来たけど、わざわざ今日に来た意味はなんだよ?」
穂高は静香との再開後、ほどなくして美絆の病院に訪れており、ここに来るまでに理由を聞いたが、静香は教えなかった為、目的がまるで見えてこなかった。
「穂高~~~。
普通にお姉ちゃんのお見舞いに来たとは考えられない~~?
お母さんだって、遠く離れた異国の地で、ずっと心配してたのよ??」
「――まぁ、それもあるんだろうけど、二日間ほったらかしにしてたくらいだからな。
素直に見舞いに来ただけとは思えない」
静香の話を聞いても尚、穂高は素直に見舞いに来たとは考えられず、あくまで静香を疑うスタンスは変えなかった。
「はぁ~~~~。
穂高も見ないうちに、偏屈おじさんになっちゃって…………。
お姉ちゃん、どう思う~~?」
「私も穂高の意見には概ね同意だから……。
何しに来たの? お母さん」
「重ねて酷いッ!!」
すぐに家族に会いに来なかった事で、静香の信用は地に落ち、穂高と美絆の反応に、再び大きなジャックを受けたが、すぐに立ち直り、穂高の言った通り、静香は話を切り出し始めた。
「――――はぁ~~、まぁ、お母さんが今日、急遽来た事には、お見舞い以外にも理由があるんだけども……。
二人とも……、私に何か隠してる事は無い??」
今までふざけた様子の多かった静香は、途端に真面目な雰囲気で穂高と美絆に本題を切り出し、静香の問いかけに、穂高と美絆は一瞬だけ視線を合わせた。
一瞬のアイコンタクトだったが、穂高と美絆の意見はまとまり、静香に二人できっぱりと答える。
「ない」
「ないよ?」
穂高はハッキリと、美絆はとぼける様に静香に答え、二人の答えを聞き、静香は再び大きくため息を付いた。
「まったく……、相変わらず仲が良いわね。
――嘘ついても、私には無駄だって分かるでしょうに……」
静香の反応に、穂高と美絆は内心で焦りを感じたが、そんな二人に構う事は無く、静香は話を続ける。
「美絆。 あなた、Vtuberとかいうタレント業してたでしょう?
あれは今、どうなってるの?」
「――――代役を立ててる。
私は見ての通り、入院中だから……」
問い詰めるように話す静香に、美絆もボロを出さないように努めながら、淡々とした物言いで質問に答えた。
「はぁ~~、面会時間もそんなに無いし、問答してる場合じゃ無いから単刀直入に言うわね?
穂高を使って、Vtuberを続けているでしょ??」
「つ、使ってなんてッ……!!」
美絆は、言い逃れする事よりも、静香の言葉に引っ掛かり、静香が発したある部分の言葉を否定しようと、すぐに声を上げるが、そんな美絆の言葉を静香は遮る。
「穂高ッ、お母さん、今日は夜にシチュー作るから、お店で牛乳買ってきなさい」
美絆の言葉を遮った静香は、途端に全く関係の無い話を穂高にしだし、自身の財布からお札を取り出すと、穂高に差し出した。
「――いや、なんで今なんだよ…………」
穂高は文句を垂れつつも、静香に逆らうという事はせず、席をはずせという静香の意図を汲み取り、お札を一枚取ると病室から出て行った。
「相変わらず、こうゆう時は素直に聞くのね……。
穂高のそうゆう察しの良くて、素直なところは好きよ……」
穂高が病室から出て行くのを確認すると、静香は小さく呟き、そして、美絆の方へと向き直った。
「――さて、美絆?
さっきの話へ戻るけど、一体どうゆうつもり??」
今まで見せたおちゃらけた雰囲気は、静香には無く、冷ややかで淡々とした様子で、美絆に先程の話題を再開させた。
「――どうゆうつもりも何も、私が入院して、困ってたから……。
穂高には才能もあるし、助けて貰って」
「才能…………。
そうねぇ~~、穂高は小さいころから、なんでも器用には、こなせていたものね…………」
美絆の言葉に、静香は増々冷ややかな態度へと変わり、美絆の発したある単語を境に、静香の雰囲気が変わっていた。
「――穂高には才能があるよ…………。
昔から、努力は出来るし、私が始めるよりも前に、同じような事を穂高はやってた」
美絆は、静香の雰囲気に押されていたが、自分の考えを曲げる事は無く、抗う様に静香に言葉を返し、美絆の言葉を聞いた静香は、少しだけ間を置いた後、ハッキリと答え始める。
「――穂高にクリエイターとしての才能は無いわ。
穂高は、何かを生み出す側の人間じゃない。
アナタやお父さんとは違う」
静香は今までで一番の冷ややかな声と態度で、きっぱりと言い放ち、その意思はとても強く、その意志の強さを美絆は感じていた。




