姉の代わりにVTuber 104
「――たく……、帰ってきたなら連絡寄こせよなぁ~」
穂高は、久しぶりに合う母親、静香に悪態を付きながら、母が持ち帰ったキャリーバックをリビングへと運んでいた。
「ごめんね~~? 実は二日前くらいには日本に着いてたんだけど、帰ってきたら帰ってきたで、仕事で忙しくって……」
「はぁ~~ッ!? 二日前ッ!?
今日帰って来たんじゃねぇのかよ…………」
「なにぃ~? 穂高~、寂しかったのぉ~~??
いやね~、知らず知らずの内に、マザコンになってたなんて~~」
「――アホ…………」
穂高の言葉を何故か前向きに、それでいて慕われていると静香は思い込み、嬉しそうに体をよじらせながら、穂高に答えたが、穂高にマザコンの気質は一切なく、呆れかえった様子で、ポツリと呟いた。
(――なんか、ホントこうゆうとこは姉貴そっくりだよな~~。
いや、姉貴が似たのか……)
穂高は、静香の言動と行動にデジャブを感じていた。
そして、静香の荷物を運び終えた穂高に対して、静香は、キッチンへと向かい、冷蔵庫を開け始めた。
「――よしッ! ちゃんと、コンビニ弁当とかじゃなくて自炊してるわねッ!!
感心ッ感心ッ!」
冷蔵庫と、ごみ箱等、食生活の様子がうかがえるものを、一通り確認した静香は、嬉しそうに声を上げ、穂高の方へと向き直る。
「穂高達の生活の様子も垣間見れたし……、どうする??
まだ、再会のハグしてないし、しとく??」
静香は未だ衰えを見せない、美しい美貌を持ち、体も魅惑的なものだった。
そんな静香は、当然といった様子で両腕を広げ、ハグを要求するような姿勢を取り、穂高に尋ねた。
「――ここは日本だぞ? ハグやキスの文化は無い」
「えぇ~~~ッ!? 日本だって、再会の時にハグしたりするのは当たり前でしょ~~??」
「連絡寄こさない母親には抱きつかん」
駄々をこねるような静香に対し、毅然とした態度で穂高はキッパリとハグを拒否した。
静香の申し出を拒否した穂高は、今日のリムの予定していた配信は出来ないと判断し、ソファに座りながら携帯を操作し始めた。
「えぇ~~~ッ!?!? もう携帯ッ!?
久しぶりの母親と話す事とか沢山あるでしょ!? 普通……」
「家族より仕事優先にして、帰国後家にすぐ帰らない母親には言われたくないね……」
「ひどぉ~~いッ!! 母親に向かってそんな言葉……。
反抗期ね!? 反抗期ッ!!」
ワイワイと騒ぐ静香を無視し、穂高は携帯を操作し、一先ずズイッターと、佐伯へ、本日の配信を中止する旨を伝えた。
配信を中止する為の手続きを一通り終えると、騒いでいたはずの静香は大人しくなっており、静香の事が気になった穂高は、静香が以前までいたはずの場所へと目を向けた。
「――あれ? いねぇし…………」
未だにキッチン近くで何かをしていると思い込んでいた穂高は、静香が消えている事に気づき、静香を探す為、家の中を探索し始めた。
「――――おい……、何してんだよ、息子の部屋で…………」
家の中を探し回った穂高は、自分の部屋に静香がいる事に気が付き、穂高の部屋で何やら探し物をしている様子の静香に、怪訝そうな表情を浮かべて言い放った。
「え? エロ本探し??
穂高の性癖がどんな成長が見られるか確かめないと……」
「はぁ~~~……。
久しぶりに帰ってきて、やることがそれか?」
「当たり前じゃない! 息子の成長は一瞬たりとも見逃せないからねッ!!」
穂高に見つかっても尚、エロ本探しを続ける母親に、穂高は呆れて言葉も出ず、あるはずの無いエロ本を探させたまま、静香を放置した。
◇ ◇ ◇ ◇
穂高と静香が再会する数時間前。
穂高も所属する3-B組と、3-D組の球技祭の練習試合も終わり、通常通りに、部活動をする生徒に体育館が明け渡され、そこで春奈はいつものように部活動に勤しんでいた。
そして、練習時間はいつも以上には取れなかったが、春奈達女子バスケ部は練習を終え、部室で下校する為の準備を行っていた。
「は~るなッ! 一緒に帰ろッ!!」
「うわぁッ! 楓!?」
スポーツウェアから、制服へ着替え途中だった春奈に、青木 楓は後ろから抱きつき、咄嗟の出来事に春奈は声を上げ、驚いた。
「もぉ~~、急に後ろから抱きつくのやめてって……」
「なに? ドキッとしたッ!?」
「しないから……」
揶揄うように笑う青木に、春奈はため息を付きながら、中断させられた着替えを再開する。
「――今日一緒に帰ろ~よ! 久しぶりにマッ〇とか寄ろ~~」
「えぇ~~? 今日、いつもより練習してないし、それに夕飯あるし……。
――っとゆうか、楓、着替えるの早ッ!」
他愛も無い話をしながら、春奈は結局、青木と一緒に下校する事が決まり、下校途中でマッ〇に寄る事も決まった。
「今日さ? 実は新作バーガー出るっぽいんだよね~~
食べてみたくない??」
「えぇ~? バーガーはいいよ~……。
私はポテトだけで充分」
春奈は、下校途中の買い食いの話をしながら、帰りの準備を整い終え、まだ着替えていたり、下校の準備をする生徒達に別れの挨拶をし、部室を出た。
そして、春奈達の他にも、様々な部活で下校の準備をしている生徒がいる中、青木と会話をしながら話していると、春奈はある一人の女子生徒に呼び止められる。
「――――あ、あのッ! 杉崎先輩ッ!!」
不意に名前を呼ばれた事で、春奈達は足を止め、声のする方へと視線を向けると、桜木高校の二年生と思わる女子生徒がそこに立っていた。
春奈は急な事に少しだけ驚いたが、呼び止めたのが見知った顔であり、同じ部活動の後輩だと分かると、要件を尋ね始める。
「ん? 碧ちゃん??
どしたの?」
後輩からも厚い信頼のある春奈は、いつもと同じように優しい口調で、呼び止めた後輩に返事を促した。
「――ご、ごめんなさい。
ちょっとここでは……なんですけど、す、杉崎先輩に話が……」
春奈が碧ちゃんと呼んだ後輩は、顔を真っ赤にしながら、どこか話し方もおぼつかない様子で、そんな後輩を見て、春奈はある事が思い浮かんだ。
春奈にとっては時折起こる事であり、碧の様子を見て青木も察したのか、春奈に一言「校門で待ってる」と伝え、後輩の望み通り、春奈は碧と二人きりになった。
「――それで? 私に話って?」
春奈は気を利かせ、人気の少ない場所へと碧を誘導し、周りに人がいない事を確認すると、再び碧に質問を促した。
しかし、春奈の優しい口調で放たれた言葉でも、碧は中々本題を切り出す事が出来ず、恥ずかしそうに言葉に詰まっていた。
(私、また同性に告白されちゃうんだろうか……。
断るのも辛いから苦手なんだけど…………)
碧の反応を見て、過去にも何度もあった同性からの告白を思い出し、そのたびに断り、断られた相手の反応を見る事となり、都度都度、春奈はいたたまれない気持ちにさせられていた。
「――あ、あの……、杉崎先輩もこんな事急に言われたら、こ、困ると思ったんですけど……。
や、やっぱり、何度考えても、気持ちを抑えることが出来なくって……」
「――うん……。
迷惑じゃないから、聞かせて?」
春奈は勇気を出して話している相手に対して、先回りして答えを言うような事は出来ず、あくまで聞き出す形で、碧に応える。
そして、そんな春奈に導かれるようにして、碧が一番聞きたかった事を、伝えたかった言葉を春奈にぶつけた。
「――す、杉崎先輩って……、3年の天ケ瀬先輩と、付き合っていたりするんですか!?」
「――――え……? 天ケ瀬……くん…………?
――え…………??」
予想していた事とは全く別の言葉を掛けられ、春奈はすぐに受け答えする事は出来ず、それどころか、頭が真っ白になり、思考も追いつく事は出来なかった。




