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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
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姉の代わりにVTuber 103


「噂って……、杉崎すぎさきも知ってたのか?」


春奈はるなの口ぶりから、穂高ほだかは春奈が言わんとしている事を、すぐに察した。


「やっぱり……、天ケ瀬君も知ってたんだね。

ごめん。

天ケ瀬君にはいつも迷惑かけてるよね……」


春奈は今までの穂高との出来事を思い返し、ストーカーの件や、オーディションのアドバイス等、度々穂高に協力してもらったり、負担を掛けさせている事を後ろめたく思った。


「――まぁ、別にそこまで困ってないからいい。

今回の噂も、ストーカーの件の延長線だしな」


「ご、ごめん、ありがとう」


穂高の言葉に、春奈は続けて申し訳なさそうに謝罪し、穂高は、心の中では、もう謝罪しなくても良いと、思ってはいたが、状況と春奈の性格から、素直に自分の言葉に納得するとも思えず、春奈の謝罪に何も言う事無く、素直に受け取った。


「前にも噂されて、一旦落ち着いたからもう無いと思ってたんだけどなぁ……。

武志からも変に勘繰られることも無くなったから、対処しなくても別に問題無い事だと思ってた」


「うん。 私も同じ風に思ってた。

――とゆうより、私はやっぱりあきらとかで噂される事の方が多いし……」


(――いっその事、杉崎が誰かと付き合ってるって状況の方が、変に外野に勘繰られなくても済むのかもしれないな……。

いや、彼氏持ちなのに、他の男と一緒に居る方がよくねぇか……?)


穂高は難しい表情で考え込んだが、そう簡単に良い考えが思い浮かぶはずも無く、一旦、打開策を考えるのを止め、他に気になっていた事に関して、春奈に質問を投げかけた。


「なぁ、杉崎はこの件に関して、何か実害があったりするのか??」


穂高は大貫おおぬき若月わかつきに絡まれた事象があった為、春奈の方にも何か、この噂が原因で起きたトラブルが無いか、気になった。


「――え? ううん。 特に何かあるとかは無いけど……?」


「そ、それならいい」


春奈の言葉に、穂高は一先ず安心した様子で返事を返した。


しかし、穂高のこの質問で、春奈の方が気になる点が思い浮かび、穂高に同じことを尋ね返す。


「え? あ、天ケ瀬君の方は何かあったの!?

そ、その……、私との噂のせいとかで……」


「――――いや、何も?

まぁ、ちょっと杉崎との話を聞かれたくらいだな。

よくある話。

勿論、ちゃんと否定しといたぞ?」


春奈の質問に穂高は一瞬ビクリとしたが、表面的に何か取り乱す事は無く、いたって普通に、淡々とした様子で春奈の質問に答えた。


「そ、そうなんだ……」


穂高の返答に春奈は安心した様子ではあったが、穂高には少しだけ、春奈の様子が残念そうにも見えた。


しかし、穂高はそんな違和感を追求する事は無く、気にした素振りも見せず、話を続ける。


「まぁ、俺の事はとりあえず、そんなに気にするな?

前にも同じ経験はしてるし、杉崎が気にする事じゃない。

それよりも、二次試験。

順調か??」


穂高は春奈に対して一番気になっていた話題をぶつけ、穂高の言葉に春奈は驚いた様子で目を見開いた。


「――え? 二次試験……、まだ手伝ってくれようとしてるの??」


「は? 何言ってんだ? 急に……。

当たり前だろ。

――――それとも、もしかして迷惑か…………??」


春奈の困惑した様子で話す姿に、自信を持って答えていた穂高も、途中から自信を失い、少し焦った様子で春奈に質問を投げ返した。


「え? あ、いやッ!! 全然迷惑なんかじゃッ…………。

そうじゃなくて、ほら、こんな状況だからてっきり、余計に噂が立たないように、協力もしてくれないんだと思って…………。

最近、天ケ瀬君、忙しそうにもしてたし……」


たどたどしく話す春奈に、ようやく春奈の言葉の意味を理解し、穂高は迷惑になっていない事が分かり、少しほっとした様子で、答え始めた。


「あ、あぁ、そうゆう事……。

なんで、俺がそんな噂の為に協力するのを止めなきゃなんないんだ?

杉崎が迷惑だって、ハッキリと言うのならまだしも……」


「で、でもッ、ほら! 学校で変に噂されたり、誤解されたり、迷惑なんじゃ……」


「だから、気にしてないし、気にする事無いって……。

そんな事気にしてるほど、杉崎も余裕ないだろうし、そんな事を気にして、約束を破る気は俺には無い」


穂高のきっぱりとした物言いに、春奈は数日前に言われた穂高の言葉を思い出す。


  手伝うよ。 ここまで来たら、最後まで……。

  杉崎が『チューンコネクト』のメンバーになるまで!


脳裏に、穂高の声で再生される言葉に、春奈は穂高が、自分の迷惑もかえりみずに協力してくれる、そういう人物だったと、改めて思い返した。


「――分かった。

天ケ瀬君がそう言うのなら、もう私も気にしない」


春奈は迷いが吹っ切れたかのような、そんな様子で答え、春奈の姿を見て、ようやく納得してくれたかと、穂高も胸をなでおろす。


「二次面接が受かってメンバーになれば、嫌でも色々と噂される立場になるんだ。

今からその練習だと思えば、むしろ良い環境じゃないか?」


「――ぷッ! あはははッ! なにその考え。

ポジティブ過ぎるよ」


穂高のでたらめな意見に、春奈は思わず軽く吹き出し、余計な悩み事から解放された事から、心からの清々しい笑みを浮かべていた。


「あぁ~~ッ! 天ケ瀬君とハルが、またイチャイチャしてる~~!!」


小声で話していたはずの穂高と春奈だったが、いつの間にか声の音量も大きくなり、瑠衣に二人だけで会話していた事がバレると、なし崩し的に、武志たけし瀬川せがわも含めたグループでの会話へと変わっていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ただいま~~」


穂高は学校から帰宅し家に付くと、最近は久しぶりに、再び言い始める事になった挨拶を、誰もいない家に向かって一人呟いた。


「――あ……、そういや帰ったんだ……」


穂高は美絆みきが病院に戻った事を思い出し、再び癖になりつつあった挨拶を正し、リビングへ荷物を降ろす。


「ふぅ~~~、疲れたぁ~~」


穂高は、武志達と話していた通り、放課後に球技祭の練習があり、それに参加していた為、いつもの学校よりも多く、体力を消耗していた。


(――最近は体育の授業か、あきらや瀬川に誘われる以外で、バスケをやってなかったしなぁ~~。

思う様にあんまり動けなかった……。

周りも、経験者ばっかだし……)


穂高はソファへともたれ掛かり、今日の放課後の練習試合に付いての反省を一人行った。


「――でもまぁ、後半は動きも良くなり始めたし、何とか本番は恥を描かずに済むかもな……。

だとしても、ほとんどバスケ部の連中頼みではあるけど……」


本調子を取り戻したとしても、部活として本気でやっている奴らには、足元にも及ばず、球技祭でもおんぶにだっこの状態になる事を想像し、穂高は少し苦笑いを浮かべた。


(まぁ、足を引っ張らなきゃいいだけだしな!

ボールを取られず、彰や瀬川にボールを回してたら、どうにかなるだろ……)


穂高は簡単に反省を終え、ソファから立ち上がり、今日の夜の配信の準備に取り掛かろうとした、その時だった。


穂高が立ち上がると、家のインターホンが鳴らされ、穂高はそのインターホンに呼ばれるまま、家の玄関の扉を開けた。


「あ~~い、どちら様~~?」


穂高の住むマンションには、玄関を開けずとも、来訪した人と話せる設備が完備されていたが、宅配の可能性も感じた穂高は、面倒くさがり、そのまま直で対面する為、玄関を開け放っていた。


「ちゃお~~! 久しぶりねッ! 穂高?」


気だるそうに玄関を開けた穂高に、明るく返事を返したのは女性であり、穂高は目の前に立つ少し派手めな女性に、驚きながらも、その女性に心当たりがあった。


「かあさん…………」


「ただいま~~~ッ!!」


派手な服装に、サングラスまで掛けていた穂高の母、静香しずかは、穂高に認識されると、嬉しそうに返事を返しながらサングラスを外し、満面の笑みを浮かべ、ウィンクをした。



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