姉の代わりにVTuber 102
「――まさか、あれだけ嫌がっていたバスケに参加する事になるとは……。
穂高も運がねぇよなぁ~~」
球技祭の種目に不満がありげな穂高に、武志は他人事のように、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、言葉を発した。
「でも、そんなに気を落とす事無いだろ? 天ケ瀬……。
俺は天ケ瀬とバスケ一緒にできて嬉しいぞ! 楠木だって、きっとそう思ってる!!」
穂高の状況を笑う武志とは違い、瀬川は、穂高がバスケに参加する事を、前向きに捉えていた。
「いや、俺だって普通にバスケする分には、別に構わないよ……。
ただ、雰囲気が嫌なんだよ、この優勝するぞって雰囲気が……」
「えぇ~~、良いじゃないか~。
みんなそれほど本気だって事だし!!」
「一部だろ? 一部ッ!
それに、クラス総合優勝を目指す為に頑張る奴も一部……」
穂高は瀬川の言葉には納得できず、瀬川の言葉に含まれない、球技祭でそこまでの熱量を持っていなさそうな、クラスメートに視線を向ける。
「別に、頑張れって強要する事も悪いとは思わないけどさぁ……。
凄い理不尽じゃね? とゆうか、プレッシャーかけてくるのもしんどい……」
「ま、まぁ、その気持ちも分からんでもないけども……」
ハッキリとは言えない、モヤモヤとした不満を穂高は抱え、穂高のそうした何とも言えない不満を、瀬川も感じていたが、穂高と同じように、直接本人たちに、口に出せる勇気は無かった。
そして、そんな会話をしていた穂高達に、不意に女性の声が降りかかる。
「――えぇッ!? 天ケ瀬君達、結構そうゆうの気にしたりするタイプなのッ!?」
不意に掛けられた声に、穂高達は少し驚き、声のした方へと視線を向けると、そこには、声を掛けてくるのが珍しい、四条 瑠衣と杉崎 春奈の姿がそこにあった。
声の主は瑠衣であり、瑠衣は不思議そうな表情で、穂高達を見つめていた。
「あ、四条さん……、それに杉崎さんも……」
急な来訪者に穂高はたどたどしく返事を返し、瀬川も急な事で呆然とし、武志に至っては、口をパクパクとさせ、焦っている様子が見て取れた。
「なに急に……、みんな大人しくなっちゃって……。
天ケ瀬君も、もっと砕けた感じで話して良いよ~~!
ハルと話してる時は、フレンドリーみたいじゃん!?」
「あ、いや……、流石に、ここは周りの目があるんで…………」
瑠衣の言葉に、穂高は教室を見渡し、自分たちが、瑠衣達に話しかけられた事で、少し注目を浴びてしまっている事を確認した。
「えぇ~~? 同い年でクラスメートなのに……。
休日に遊びに行った仲なのに……。
――――あ、それとも? 私達ももっと親しく話した方が良い?? その方が砕けやすい? 穂高君」
「わ、分かったッ! 分かったから勘弁してくれッ……」
穂高達の会話を気にしている外野の存在が、穂高は気になっていた為、瑠衣の言葉に渋々といった様子で返事を返し、砕けた口調で話す事を了承した。
「――もう……、瑠衣……。
穂高君達も困るだろうから、だからやめよって言ったのに…………」
「え?」
「ん?」
瑠衣は勿論、穂高も、春奈が瑠衣を諫めていた話より、春奈の発した名前呼びが気になり、思わず声を上げ、疑問を提唱するように、春奈に視線を向けた。
「え? な、何急に……、二人で私の顔を見て……」
「いや~~? 私は冗談で天ケ瀬君の事を、穂高君って呼んでたけど、ハルのさっきのそれはどんな意味があるのかなぁ~~?って」
穂高と瑠衣に困惑する春奈に対して、瑠衣はニヤリと悪い笑みを浮かべながら、春奈をおちょくる様に、先程の言動に付いて追及し始めた。
「――え? あ……、い、いやッ! わ、私も瑠衣と同じ意味合いで……。
と、とゆうか、瑠衣に釣られちゃったのッ!! ホント、咄嗟に出ちゃったというかなんというか……」
「へぇ~~~? ふ~~~ん? 咄嗟にねぇ~~~??
咄嗟という割には呼び慣れてたような?? 自然な感じがしたけどね~~」
「ち、ちがッ!
――あ、天ケ瀬君! ホントに違うからねッ!?」
穂高の前でからかわれた事で、春奈の羞恥心はいつも以上に高く、悪ふざけの瑠衣を止めるよりも、穂高に弁明をする事に春奈は力を注いだ。
そして、そんなやり取りを見つめていた穂高は、ため息を一息つくと、落ち着いた様子で二人に声を掛ける。
「――で、何しに来たんだ? 杉崎達は……」
穂高は武志達と話す態度では、悪目立ちをするとも考えたが、再び話し方を、先程の丁寧な口調に戻し、瑠衣に指摘され、余計な時間を取る事を恐れ、本題に入らせとっとと立ち去って貰おうと考えていた。
「え? 普通に雑談しに来ただけだけど?
友達だし……、ねぇ? ハル?」
「――は? そんなわけないだろ……。
杉崎??」
瑠衣は穂高の問いかけに、飄々とした口ぶりで答え、瑠衣の返答が、しらを切るようにも思えた穂高は、瑠衣の言葉を否定しつつ、春奈へ視線を向け、問いかけた。
「――――え、えっと……、ごめんね? 天ケ瀬君……。
これと言って何か目的があるわけじゃないんだ……」
「ま、マジか……」
穂高は前回、遊びに行けなかった時の埋め合わせや、何か頼みごとがあるのだろうと、決めつけていたところがあった為、ただ目的も無く、春奈達が話しかけてきた事に、ただただ呆然とし、驚いていた。
「えぇ~~、何か嫌そうな反応だなぁ~~。
――まぁ、良いじゃん普通に友達なんだしさッ!
とゆうか、話題なら沢山あるじゃん!? 直近なら、球技祭とかね~~!
瀬川君は、バスケだっけ??」
穂高の思考が追い付かない状況で、瑠衣は自然な形で、簡単に穂高達の会話の輪の中へと入り、瀬川の困惑しながらも瑠衣の返答に答え、我に返った武志は、終始楽し気に瑠衣や春奈へ話しかけていた。
そして、会話が進んでいく中で、瀬川、武志、瑠衣で会話が盛り上がっているところで、穂高は隙を見て春奈へと小声で話しかける。
「――――なぁ、俺らはまぁ。武志を除き、良くはないけど……、そっちはいいのかよ……」
「え? 何が……?」
穂高の質問はあまりにも抽象的で春奈には伝わらず、言葉を濁して伝える事を諦めた穂高は、更に声のボリュームを注意し、春奈に再度問いかける。
「い、いや、ほらッ! いつもの仲良しグループだよ!
大貫とか、若月とか……、菊池と一緒だろ? いつも昼休みは」
「あ、うん、そうだけど……、今日は俊也も智和も違う人達とお昼食べてるし、梨沙も今日は違うグループでお昼してるから……」
春奈の言葉を聞き、穂高は再度、教室を見渡すと、春奈の言う通り、教室に大貫達の姿は見受けられなかった。
「そういえば、確かにいねぇな……。
――なら、いいのか……??」
穂高は春奈達と話す事で、また大貫達に因縁を付けられる事を危惧しており、原因である大貫達が、教室に居ないのであれば、春奈と会話しても問題ない様に一瞬考えた。
そして、穂高のそんな反応から春奈も、穂高の危惧している事を何となく察し、その事に付いて春奈から触れ始める。
「――も、もしかして、あの噂の事……?」
春奈は未だ、穂高がある噂に付いて、知っているのか分からなかった為、恐る恐るといった様子で、穂高に問いかけた。




