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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第七章 球技祭 
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姉の代わりにVTuber 101


 ◇ ◇ ◇ ◇


久遠の一周年記念配信より、一日前。


穂高ほだか美絆みきは、予期せぬ来訪者に、呆然と立ち尽くしていた。


「今日から、隣に越してきました。

月城つきしろ つばさです。

以後、お見知りおきを……」


穂高と美絆の家を訪ねて来たのは、翼であり、翼は知り合いであるにもかかわらず、礼儀の為か、よそよそしく、固い挨拶を穂高達に行った。


「な、何で、月城さんが俺らのマンションに??

――とゆうか、隣に越して来たって……。

隣の部屋に引っ越してきたんですかッ!?」


穂高は突然の訪問と、翼の発言に、大きく動揺しながら、翼の言葉の意味を聞き返した。


「――そうです。

今日、引っ越しを終え、明日からは普通に住みます。

何か問題でも??」


「い、いや……、別に問題があるってわけじゃないですけど……」


「なら、穂高さんは黙っていてください。

美絆さんッ! 今後ともよろしくお願い致します!

本格的にお隣さんとして、お付き合いがあるのは、まだ少し先のお話になりそうですけど……」


「――えッ? あ、うん。

よろしくね? 翼ちゃん!」


「はい! お願いしますッ!!」


翼は美絆に歓迎された事を、心から嬉しく感じており、美絆も、最初は戸惑いはしたものの、翼との関係は良好の為、邪険にするような事は無かった。


そして、その後も楽し気に会話を続ける美絆と翼を、穂高だけが納得のいっていない様子で、その光景を見つめていた。


(なんで、自然に受け入れられてるんだ?

同性とは言え、もう半分ストーカー行為だぞ? これ……)


「――なんですか? 穂高さん。

まだ何か、不満でも??」


死んだ魚の目をした穂高に、翼は気づくと、翼も心底不服そうな表情を浮かべ、穂高に質問を投げかけた。


「い、いや……、何でもないです」


「何でもないようには、見えない表情なんですが?

――まぁいいです、私も退院後の美絆さんに、簡単に会えるようになりましたし、多少の不満点には目をつむりますから……」


穂高と翼では、圧倒的に翼の方が立場が上になっており、日頃から、リム関連で翼には迷惑を掛ける事もあった為、穂高は完全に翼には頭が上がらない状態になっていた。


「ふ、不満点なんですね……俺は…………」


穂高は言いたい事も言えず、グッと本音を呑み込むようにしていたが、呑み込み切れなかった不満は、思わず口から零れ、誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。


「――では、名残惜しいですが、まだ引っ越しの荷解きが終わっていませんので、今日は挨拶だけで失礼致します。

穂高さん? 先程、お渡しした手土産は、美絆さんの為に用意したものですからね??

くれぐれも手を出さないでくださいね?」


「――わ、分かってますよ……。

一応、俺も隣人なんですけどね……」


穂高にくぎを刺す様にして、穂高達の部屋から出て行こうとした翼だったが、穂高の返した言葉で、足を止め、少し悩むようにした後、再び穂高達へと振り返った。


「――そうですね、一応隣人ですし、礼儀を欠くのはあまり良くないですね……。

――では、穂高さんにはコレを」


翼は穂高にそう告げると、ポケットから何かを取り出し、穂高に手渡した。


「――あ、あのぉ~~、これは??」


「ん? 見て分からないですか??

チ〇ルチョコです。

――では、美絆さん! また…………」


受け取ったチ〇ルチョコを呆然と見つめる穂高に、翼は一誠触れる事は無く、美絆に笑顔で別れを告げると、今度こそ、穂高達の部屋から出て行った。


「――これは、もはや逆に失礼な行いなんじゃないか……?」


「貰えたんだから良いじゃない?」


「いや、むしろこんなついでの手土産なら、あげない方が良いだろ……」


穂高は嵐のように去っていった翼に、不満を感じながら、これから隣人になるという事で、今後の活動に大きな不安も感じていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


久遠の一周年記念配信を終え、数日後。


大きな仕事を終えた事で、穂高は少しだけ心に余裕のある日常を送っていた。


(はぁ~~、姉貴も無事病院に帰ってくれた事だし、五期生の一周年記念も、無事にすべてのイベントが終わって、ようやく心休まる平穏を取り戻せたなぁ……)


忙しさからの解放の為か、穂高は久しぶりに学園生活を清々しく、心地よく感じれていた。


いつもならば苦痛の授業や、学校行事も新鮮にすら感じられ、心身ともに絶好調の状態にあった。


「おい、穂高……、なんだよさっきから気持ち悪くニヤケて……」


昼食時であり、いつもと同じように、穂高とお昼を取っていた武志たけしは、気味悪そうに穂高に声を掛けた。


「気持ち悪くねぇよ。

人がせっかく、気持ちのいい日常を感じてるのに、茶々入れやがって……」


平穏を噛みしめていた穂高だったが、武志の一言により、一気に現実へ引き戻され、良い気分だった穂高は心底不満そうに言葉を返した。


「天ケあまがせ、悪いが、俺も今日の天ケ瀬は、ちょっと気持ち悪く見えたぞ?

何か時折薄ら笑いを浮かべてるし……」


「瀬川まで……。

別に気持ち悪くわねぇだろ…………」


「いいや! キモイ!!

とゆうか、変ッ!! 変キモッ!」


武志の言葉に、穂高はイラっと感じたが、二対一では分が悪く、自分でも今日は、浮足立っていたのは分かっていた為、不満を口にすることは無く、言葉を飲み込んだ。


そして、何も言い返さなかった穂高に、武志は追撃はすることなく、自然な流れで、違う話題へと移り変わる。


「そういやさ? 今日じゃね? ウチらの練習」


「あぁ、球技祭のな?

放課後、D組の奴らと練習試合することになってる」


武志の言葉で、時期的に近く、大きな学校行事である為、瀬川はすぐにピンときた様子で、武志の言葉に返事を返した。


「練習ねぇ~~。

球技祭如きに必要か??」


武志の言わんとしている事に、穂高も気付き、少し面倒そうにしながら、自分の気持ちを素直に吐き出した。


「必要だろ~~?

学校側が用意してくれた機会だぞ??

それに、普通に体育みたいで楽しいじゃん!?」


「放課後って言うのが気に食わない」


楽しみにする武志とは対照的に穂高は、球技祭の練習に好印象を持っていなかった。


桜木高校の球技祭は、球技祭の本番までに、練習期間が設けられ、たった一度の練習ではあったが、学校側が組んだスケジュールで、他クラスと練習試合をする事が出来た。


三年である穂高達は勿論そのシステムをよく知っており、いきなり本番という事にもならない為、この練習期間を称賛する生徒は数多くいた。


「はぁ~~? 一年の時も、二年の時も楽しそうに練習試合してたじゃんかよ~~。

別に運動苦手ってわけでも、嫌いってわけでもないだろうが……」


穂高と仲が良い武志は、一年二年時の穂高の球技祭の様子を知っており、今年の少し面倒そうにしている穂高に疑問を感じていた。


「――今年はちょっと違うんだよ、状況とか色々」


「勉強か?」


「あ、いや、勉強じゃない」


瀬川の質問に、穂高はキッパリと答え、その光景を見ていた武志は、何かが閃いたように話し出す。


「はは~~ん、さてはお前、ビビっているな??

結局、種目選びのジャンケンに負けて、バスケになったから……」


「――ぐッ…………」


珍しく察しの良い武志に図星を付かれ、穂高は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、すぐに反論することが出来なかった。


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