姉の代わりにVTuber 100
「ちょ、ちょっと、みんなッ!?」
六期生の登場に、久遠は驚きを隠せず声を上げた。
「――久遠先輩、ごめんねぇ~~?
でも、本来チヨが出る予定だったこの枠で、どうしても言いたくって……」
「久遠先輩もチヨに何か言う……?
久遠先輩も何か言いたかったでしょ?」
慌てる久遠に、最初から腹を括って、配信に乱入したサクラとエルフィオは、堂々とした様子で受け答えをする。
「そ、そりぁあるけど……」
「チヨ~~ッ!! あんまり休むと家に突撃するぞぉ~~ッ!!」
「サクラ……、チヨは配信したくても今は休止中……。
凸るのは、休止が空けても出てこなかった時…………」
困惑する久遠をスルーし、サクラとエルフィオは今までの、沈黙期間中の鬱憤を晴らす様に、チヨの話題を続けた。
「あ~~あ、もうめちゃくちゃ……」
配信を見ていた穂高は呟き、苦笑いを浮かべる事しか出来ず、サクラとエルフィオの乱入は数分間続き、最後についでと言わんばかりに、一言、久遠にお祝いの言葉だけを残し、嵐のように去っていった。
「ねぇねぇ、アタシ主役だよね~~??
エルちゃんも、サクラちゃんも、凄いテキトーに、ついで感満載で、お祝いしてったんだけど……」
「ハハハッ…………、ごめんね? 久遠先輩……」
泣きべそをかくように呟く久遠に、流石のリムも罪悪感を感じたのか、乾いた笑みを浮かべた後、素直に謝罪をした。
「もういいよ。
――じゃあ、最後に正真正銘に、締めの一言お願いね?」
急なサプライズに久遠は驚いていたが、それらを咎める事は無く、簡単に六期生を許した。
そして、そんな久遠に、リムはずっと用意していた言葉を久遠に投げかける。
「久遠先輩、急にこんな事ホントにごめんね?
でも、久遠先輩は優しいからどうしても、甘えちゃうんだ……。
一周年、本当におめでとうッ!!
色々言ったけど、来年、私達がライブに参加するようになったら、ダンス、教えてね?」
「――ちょ、急に何しおらしく……。
可愛い後輩の為なんだから、当たり前に教えるよッ!!」
結局てぇてぇなんかいッ!!
流石、お節介焼きをしてた久遠w 後輩に甘々やな
様々なトラブルはありつつも、久遠の一周年記念、そして美絆のコラボ配信は無事に終わりを告げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっとッ!? 美絆!
何あの配信はッ! 聞いてないんだけどッ1?」
久遠のコラボ配信を終えると真っ先に、美絆携帯に佐伯からの着信が届いていた。
美絆が電話に出ると、穂高の予想通り佐伯は、焦っているような、怒っているような様子で、美絆に言葉を投げかけた。
「みんなで迂闊にチヨの話題は出さないって事になったでしょう?
穂高君だってせっかく、今まで上手く触れないで配信をしてきたのに……」
「だって、そんなアンタッチャブルみたいな扱い、チヨが可哀想じゃないですか……。
まるでいない人みたいに……」
「そ、それは……。
でも、ほとぼりが完全に冷めて、チヨが復帰してから我慢する方が良いでしょう……?」
美絆はわざと穂高にも聞こえる様に、電話はスピーカー設定にしており、穂高は二人の言い分、両方に共感できる部分が、理解できる部分があった。
(――まぁ、佐伯さんの言ってる事の方が、大人な意見だよな……。
姉貴の言ってる事も分からんでもないけど……)
「活動できない時期の不安は、私にも分かる。
チヨは私が倒れて、リムが二週間の休止になった時に、自分の配信で私の話題を出してくれてた」
「リムとチヨの休止じゃ、状況が違うでしょうに……。
チヨの方は問題がデリケートなんだから、もっと慎重に行動しないと……。
チヨの今の精神状況も考慮しないと、無理に帰って来いって、言ったって重荷になるかもしれないのに……」
佐伯と美絆の会話を聞いていた穂高は、お互いに信念がある以上、これ以上の議論は平行線になると、そう考えた。
「――まぁまぁ、佐伯さん、もうやっちゃった事は取り返しがつかないんで、後は成り行きに任せましょうよ。
今回の行動をどう取るかは、ファンにゆだねましょう?
チヨの炎上もボヤ騒動程度まで落ち着いてるし、そんな大きな二次災害も起きないですよ、多分」
穂高が仲裁役に入ることで、佐伯は言葉を飲み、それ以上この話題に付いて話す事は無かった。
そして、佐伯は美絆と穂高に業務連絡をし、電話を切った。
「――はぁ~~、ありがと穂高。
何とかなったよ~~」
「まぁ、佐伯さんもあぁは言ってたけど、姉貴達が取った行動の意味が、分からないってわけじゃなさそうだし。
そんな大事にもならないでしょ。
――――ってか、それより、配信見てたけど、久遠先輩に言ってなかったのか??
六期生がチヨに一言、言いに来る事を……」
穂高は呆れた様子で、つい先ほどの配信の事を振り返りながら、美絆に問いただした。
「え? あ、あぁ~~、結構ギリギリだったからぁ~、思いついたの……。
ちょっと言い忘れちゃった……」
「久遠先輩可哀想だったぞ?
急に配信乗っ取られたみたいになってたからな!?」
穂高は他にも、今回のコラボで美絆には言いたい事があり、ハッキリと、美絆に配信の感想を伝えていった。
◇ ◇ ◇ ◇
日本 上空。
成田空港へと向かう一つの飛行機の中、一人の女性がリムの配信を見ていた。
「ふ~~ん、最近、確認しては無かったけど、こんなことになってたとは……。
何してんのかしらあの子達は……」
周りを見渡しても少し派手めなファッションをしていた女は、リムの配信を見ながら呟いた。
(お姉ちゃんが入院したって言うのは、穂高から聞いていたけど、まさか、穂高が美絆の代わりをしていたなんて……。
そんな事、一言も聞いてないわよ? 全く……)
リムの配信を見ていたのは、穂高と美絆の母親である、天ケ瀬 静香であり、静香は仕事の事情で、日本に残してきた我が子を心配していた。
そして、配信画面が移る携帯から、静香は機内の窓から見える、母国を見下ろす。
「――勝手な事をしてる二人には、少しお灸を据えないといけないかしら……」
静香は久しぶりに合う、自分の子供の顔を思い浮かべながら、淡々とした様子で、誰にも聞こえない程の音量で、ポツリと呟いた。
次章 第七章 地獄企画 球技祭 etc.(予定)




