愛月さんは理解不能!
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「おはよう。涼悟くん」
「おはよう」
朝、学校の席に着くと、横の美少女から声をかけられる。俺はその言葉をそのまま返したのだが……
「むぅ」
「……」
何故彼女は膨れっ面をしている!? 俺の今の返事はそんなにおかしかったか? 俺はどうにも彼女の考えていることが理解出来ない。
まぁ可愛いからいっか。
彼女の名前は愛月 瑠璃。彼女はいつも俺のやること言うこと全てに不服そうな顔をする。
「あの……愛月さん? 何故不服そうな顔をしているのですか?」
俺は思い切って愛月に理由を聞いてみるが……
「別に」
「そうですか」
ですよねーー!! その反応になることは分かっていましたよ! もう明日はいっそのこと「おはよう、マイエンジェル」とでも言ってみようかな。
「名前で読んで欲しいのに」
愛月は小さな声でボソッと呟くが、誰の耳にも入らなかった。
「おはよう涼悟、って何考えてんだ?」
考え事をしている最中に友人である佐々木 莉央に話しかけられる。
「なぁ莉央。おはよう」
「お、おぅ」
俺は莉央に「おはよう」の返事の最適解を見つけようと思ったが、良い反応は得られない。
「あのさ、「おはよう」って言った時に、どう返されたら一番嬉しい?」
「また突然だな」
「まぁいいからいいから」
「そうだな、俺だったら」
ゴクリと唾が自分の喉を通るのを強く感じる。
「「おはよう」じゃね? まぁ可愛い女の子に笑顔で返されたら尚のこと嬉しいな!」
「………………」
「なんだその冷たい視線は! 誰だって可愛い女の子にそんな対応されたら嬉しくて一日中ニヤニヤするぞ!」
しかし、やっぱり「おはよう」の返事の最適解は「おはよう」なのだ。 俺がおかしいのではなく、彼女がおかしいのだ。
一人で納得して、愛月の方を見ると、丁度友人に「おはよう」と言っていた。
さて、どんな返事をするのか。俺は一言も聞き逃すまいと耳を傾ける。
「おはよう。愛月さん」
やっぱり普通じゃねぇか! しかもなんだ。俺の時と違って普通の顔してるじゃねぇか。いつもの膨れっ面はどこにいった。
俺ってもしかして、嫌われてるのかな?
そんな事を考えている内に、授業が始まった。
「やばい」
授業は睡魔が襲ってくる国語の古文。寝ないようにしていても、どうしてもウトウトしてしまう。
「ぅあっ」
ウトウトする際に、自分の右肘が消しゴムに当たってしまい、床に落ちてしまう。
面倒くさいと思いながらも重い体を動かして消しゴムに触れる。しかし、その感触は消しゴムとは違い、柔らかい。
まさかと思い、顔を上げると、愛月もタイミングピッタリに顔をあげ、間近で目が合う。
「あっ、ごめ」
「ごめん! あとこれ」
「ありがと」
きちんと消しゴムの方向を見ればよかった。絶対に嫌みたいな対応取られるやつ!
急いで消しゴムを貰い、恐る恐る愛月の様子を横目で伺う。
……あれ? なんか顔真っ赤にしてね? どういうことだ? いつもの不服そうな顔は?
「じゃあ、ここ茅野答えてみろ」
「え、あっ。えっと」
やっば、授業内容1ミリも聞いてなかった。頭をフル回転させるが、答えは分かるはずもない。
周りの人に助けを求めるように視線を向けるが、皆それに気が付かない。ただ、隣の住人だけはそれに気がつく。
(教えて下さい! お願いします!)
目でそう訴えると、愛月は理解したように四択の問題の内、二つに斜線を引いた。
二択を当てろと言うことか? ③か④。
考えていると、一つの考えが思い浮かぶ。
「③番です」
どうだ。四択の問題は③の答えが一番多いのだ。我ながら天才だな。
「違う、授業はきちんと聞いておけよ。じゃあ隣の愛月」
「①番です」
「正解だ。茅野、古文が眠いのは分かるが、今日寝るのはもう勘弁してくれよ」
先生のからかいを含めた言葉にクラス中で笑いが起きる。
俺は愛月に「どういうことですか?」という視線を送るが、目が合うと俺の逆方向を向いて、クスクスと笑っていた。
「「「ありがとうございました〜」」」
「涼悟。学食いこうぜ〜」
「わりぃ。今日俺、図書館の貸し出し任されてる」
昼休みの図書館の貸し出しはいつもは専門の先生がやるにも関わらず、用事があるからと言って任せてきやがった。
特に事情があったわけでもないので断りはしなかったが。
別の人にも頼んであるとは言ってたけど、誰なんだろうか。ガラガラガラと扉を開ける。
「「えっ?」」
別の人ってまさかの愛月さん!? せめて男子にしろよ! 先生次あったら絶対ジュース奢ってもらお。
図書館で昼飯を食べる事は出来るが、利用する生徒は存在しない。更には幸か不幸かご飯を食べる事が出来る机は二つあるが、それは対面になるように設置されている。
「どうしたの? 食べないの?」
「いや、だって……」
「いいじゃん。一緒に食べよ」
愛月は机を人差し指でポンポンと叩く。
本気で言ってるの? いや、確かに美少女と対面で食べられるのは嬉しいことだけどね。
戸惑っていると、愛月はいつもの膨れっ面をしていたので、そのまま言われた通りに長月の前の机に座り、弁当を広げる。
…………………………
いや、気まず!! 会話が一切ないのですが? とにかく、話題を出さなければ。
「あの、愛月さん?」
「どうしたの?」
「「おはよう」って言って、どう返されたら一番嬉しい?」
何言ってんだ俺ーー!! 話題振るの下手くそか!
「うぅん。そうだね」
愛月は意外と真剣に考えて
「笑顔で「おはよう」って言ってくれたら嬉しいかな。尚、名前を付けると更によし!」
「そっか」
え? それって……朝の俺と何が違うの?
「あと、涼悟くん。私のことは瑠璃でいいよ」
「いや、それは」
「というか、そうんで呼んで欲しい」
「分かった。それじゃあ、俺のことも涼悟くんじゃなくて、涼悟。そう呼んで欲しい」
「うん!」
滅多に彼女の笑う姿は見ないので、嬉しく思った。それと同時にこう思う。
やはり、彼女の笑う顔は世の中のどんな人、どんな物よりも美しい。
翌朝、俺は大事な試合のように緊張していた。
瑠璃に教わった「おはよう」を瑠璃にぶつける。簡単なことだが、心のドキドキが止まらない。
教室に入ると、いつものようにクラスメイトがいて、いつものように瑠璃がいる。
一歩一歩踏みしめて自分の席にたどり着く。
「涼悟。おはよう」
「おはよう、瑠璃」
笑顔で、程よい声の大きさで、更に、名前も付けた。
どうだ! 今回こそは膨れっ面は……
「むぅ」
……どうしてだ? 本当に瑠璃のことは理解不能。
いつかは彼女を満足させられるようにと、俺と彼女のこの日常は続いていく。
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