第08話 勇者様は自分でしてください —— sideマエリス
勇者パーティに残った、リィトの幼馴染みマエリス視点のお話です。
私、マエリスには想像上の友達がいた。
恥ずかしくて、幼馴染みのリィトにも話したことがない。
その少女の姿は、勇者パーティでの戦闘時に頻繁に見られた。
戦いの場に佇んでいる。
五、六歳くらいの女の子。
人形サイズでは無く、等身大なので結構大きい。
とても可愛らしく、髪の毛の色はリィトにそっくりだ。
私だけに見える。
だから、想像上の友達。
どういうわけか、その少女がいるとスキルや魔法の発動がしやすいようだった。
私は、視野の端で少女が遊び回る様子を楽しむこともあった。
そんなある日のこと——。
「聖女マエリス、ここにいたか。実はな——」
私たちが所属するパーティのリーダであるグスタフが、唐突に言った。
「リィトがいなくなった。多分、自分の実力不足を恥じてパーティを出ていったのだろう」
リィト。いつも一緒にいた、幼馴染みの優しい男の子。
ずっと一緒にいられると思っていたのは、油断だったのかもしれない。
「でも、……挨拶もしてくれないのはおかしいと思います。いなくなるなんて反対です! リィトと話をさせてください。彼を探してもよいでしょうか?」
「ダメだ」
しかし、私のささやかな願いをグスタフは却下した。
勇者パーティに参加してから私は聖女候補だと浮かれていたのだ。
聖女になりさえすれば、しょうもない大人の話など聞かずに、リィトとうまくやっていけると信じていた。
それなのに。
「まあ、リィトがいなくて寂しいかも知れないが、その時は俺に甘えてくれれば——」
グスタフが私の体をジロジロ見て言う。
背筋がゾクッとする。
去り際、グスタフの舌打ちが聞こえた。
「チッ。まあ、時間はたくさんあるさ……」
私たちのパーティはリィトを欠いたメンバーで近くの小さな街に向かった。
途中、人ほどの大きさほどがある大蜂に遭遇。
普段なら何ともないこの敵に、私たちは妙に手こずった。
グスタスのスキルの切れが悪い。
「クソッ。どうした? 今日は? イチチチチ……!」
グスタスは、剣聖スキルの発動に失敗して、蜂の反撃を食らっていた。
起動失敗グセでもついているかもしれない。
怪我した責任を負えとでも言うように、グスタフが私に、腫れた足を見せてきた。
「マエリス、怪我したので聖女の治癒の呪文を——ここに触れて……」
「勇者様は自分で治癒の呪文が使えますよね」
「うっっ」
シャキッとしないパーティの戦闘は、ようやく終わったのだった。
それから近くの街に戻り、 一人部屋を取ってごろんと横に転がる。
すると、例の少女が私の顔をじっと見てくる。
何かを伝えてくれそうで、そうでもなくて。
じっと彼女を見ていると
「リィトに会いたい?」
って口を動かしたような気がした。
私は、うん! と頷くと……急激に目の前が暗くなり、闇の底に落ちていく。
目を開けると、今までいたのと別の部屋にいた。
ふと自分の体を見ると、何も身に付けておらず素っ裸で、少し透けている。
え゛っ。
幽体離脱?
さらに、なんと目の前のベッドの上には、なんとリィトが眠っている!
今の私の状況を思うと、起きて欲しいような……欲しくないような。
やっぱり起きないでっ。
しばらく彼の寝顔を見る。
パーティで野宿をするときは、私はいつもリィトの隣にいた。
私の方がだいたい先に寝て、後から起きるので、こんなにぐっすりと眠っているリィトを見るのは久しぶりだった。
じっとリィトの姿を見ていると、次第に落ち着いくる。
大胆になった私は、我慢できず恐る恐る彼に近づいた。
「リィト。話を聞いたわ。私はあなたがパーティからいなくなると聞いて反対したけど、受け入れられなかった。でも、私はリィトが強くなることを知っている——」
謝罪と希望の言葉。
私はそれが当たり前のように、彼の額に唇で触れる——。
パリンッ!
リィトに触れた瞬間、私の頭の中に何かが割れるような音と閃光が煌めいた。
そして、私の体からすっと抜けていくものがある。
感じたのだ。
想像上の友達を喪失してしまったことを。
とてつもない喪失感を抱きながら、私の意識は暗闇の底に沈んでいったのだった——。
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