第06話 雑魚魔術師と言われて
孤児院で、コードも含め子供たちが楽しく遊ぶ様子を眺める和やかな時間が過ぎていく。
そこにアリナがやってきた。
「おはようー! リィトも来てたんだね。おはよ!」
「うん、おはよう」
「あれ? その子……いつの間にかみんなと仲良くなってるんだ。こうしてみるとホントに親子みたいね」
はいはい、と僕はアリナの言葉を軽く流す。
「それで、リィト——それでね、あなたの力を見込んでお願いがあるんだけど」
「ん? どうした?」
「実はね……あの……」
いつもずけずけと話すアリナが言い淀んでいる。
「どうした? 昨日の大狼と何か関係あるのか?」
「うん。あいつら、ね……ディアトリアの廃墟の方からきてるんだ。王国軍の兵士も来てるみたい」
「ディアトリア——」
ディアトリアの廃墟。
元々、僕とマエリスはその村の出身だ。
しかし——十年前、村は破壊し尽くされ、今は廃墟になっている。
「できれば、魔物の発生する原因が分かればって思ってる。このままだと昨日みたいなことがまた起きそうだし」
アリナが僕の手を取った。
興味本位ではなく、街の意向としてどうするべきか、考えるためにということだった。
ここは辺境過ぎて冒険者の数も少ないという事情もあるようだ。
「おやおや、女連れで見せつけてくれるねぇ。だが、お前のようなひ弱なヤツが首を突っ込む話じゃない」
数人の屈強な男たちが孤児院に入ってきた。
身なりは冒険者というより傭兵だろうか?
剣をぶら下げ軽装ながら革製の鎧のようなものを身につけている。
見るからに柄が悪いし、この街の住人でも無さそうだ。
「みんな、奥の部屋へ」
もしかして昨日アリナたちが言いかけていたのはコイツらのことだろうか。
アリナが立ち上がり、子供たちを逃がしている。
「そんなわけで、今日こそ相手をして貰うぜ。シスター」
「だから、私は忙しいので——キャッ」
傭兵の一人が、嫌らしい笑みを浮かべてクリスタの腕を掴む。
「お前らガキは街で大人しくしてればいいんだよ。大人は大人で楽しもうぜ」
「クリスタから離れろ!」
僕はいてもたってもいられず、傭兵たちとクリスタの間に割って入った。
強引に男の手を振りほどく。
「なあ、邪魔するなよ。俺たちとやるつもりか?」」
「リィト、私は大丈夫よ。だからあなたも、奥の部屋にその子を連れて行って」
乱暴に掴まれたクリスタの手首に跡が付いている。
僕に笑顔を向けつつも、クリスタの足が震えているのが見て取れた。
明らかに嫌そうな顔をしているクリスタを見過ごすなんてできない。
「コイツ……昨日、大狼を十数頭まとめて倒したヤツじゃ無いですか?」
「何? とんでもない大魔法を使ったっていうヤツか?」
傭兵達は、警戒し僕と距離を取った。
接近戦になるとこっちに勝ち目がないのでありがたい。
しかし。
「おいお前ら、相手が魔術師なら距離を取ったらダメだ。一気に迫り距離を詰めろ!」
リーダーらしき男が指示を出す。
「こんなガキが、大魔法など使えるわけないだろう? コイツのこと知ってるぜ? 勇者パーティから追放された雑魚魔術師だ」
「そうか、あの生活魔法しか使えないってやつか」
どうしてそのことを傭兵たちが知っている?
警戒を解き、勝ったとばかりに剣を抜き僕に向ける傭兵たち。
傭兵たちは、すぐにクリスタの方を見て舌なめずりをする。
「まあ、お楽しみの前にちょうどいいなぁ。おい」
この隙に僕は呪文を唱えはじめる。
傭兵たちが馬鹿にした生活魔法がどんなものか、知ってもらうために。
「【発……】」
僕は唱えかけてやめた。
ここで【発火】の反則強化を使い、大爆発なんか起こしたら……この孤児院が壊れて燃えてしまう。
じゃあ……どうすれば——。
「リィト! あたしも、頭にきたのです。水属性の魔法を!」
僕が後退し始めた時、コードの声が聞こえた。
水属性の魔法で僕が使えるのは、いつでもどこでもコップ数杯の飲み水を生み出す【水生成】だけ。
攻撃に使えるとは思えないけど、彼女を信じよう。
意を決し、魔法を唱える。
「【水生成】!」
今までと比べて反則呪術の発動がやけに早い。
『【水生成】の魔法解析……終了。反則強化を行いますか?』