第37話 エピローグ 願いの破棄
何らかの呪文が発動したのを感じた。
チコの唱えた呪文……?
しかし、目を凝らしてもチコの姿が見えない。
消えてしまった。
いや、そもそも、チコはそこにいたのだろうか?
いやいや、目の前にいたはずだ。
僕は混乱する。
「……チコ? あれ? どこいった——」
チコがいなくなった。探さないといけない。
ディアトリアの廃墟の外側は荒野が広がっている。
砂と朽ちた建物ばかりのところで、一人で生きていけるはずがない。
どこかに迷い込んだのなら、急いで探さないといけない。
でも、どこに行ったのか?
手がかりがない。
でも、とにかく探さなくては……!
「……。あれ? 探すって……誰を? 女の子……?」
「リィト、さっき誰かそこにいたよね?」
マエリスが泣きそうな声を上げる。
そうだ。誰かがいた。
えっと、名前は……何だっけ?
チ——。
急激に、頭の中の記憶が揺れているような感覚がある。
でも揺れているのは頭の中だけで、目の前に広がる廃墟は全く変わりがない。
まるで、さっきまで近くにいた少女だけが消えてしまったようだ。
「【*****】?」
さっき、聞いたこともない呪文を聞いた。
きっと、それが原因なのだ。
僕は何か大切なものを失おうとしている。
とてつもない喪失感を抱く予感がした。
ぽっかりと胸に穴が開くような感覚。
でも、それすらぼやけてくる。
ダメだ。
このままでは、何か失おうとしていたことすら……全て忘れてしまう。
どうしたらいいのか?
ふと、僕の右手の指にはめられている、マエリスとお揃いの指輪のことが気になった。
これは……。
『
鑑定結果
名前:マエリスとお揃いの指輪
材質:不明。
効果:一度失敗したことを、なかったことにできる。
残り使用回数:1回
』
頭に響いていた声を思い出す。
そうだ、今まで頭の中に響いていた声があったはずだ。
僕の指輪の力は使えない。
急ごう。
マエリスの手を取る。
彼女の指輪の力なら……!
「マエリス、ごめん、ちょっと指輪を貸して」
「えっ? うん!」
僕はマエリスから借りた指輪を【識別】の魔法を使って鑑定する。
『
鑑定結果
名前:リィトとお揃いの指輪
材質:不明。
効果:発動済みのスキルや魔法を、発動前に戻す。
残り使用回数:1回
』
頭に響く声は、僕自身の声だった。
ん?
最初から、僕の声しか聞こえなかった……?
いや、違う!
マエリスには悪いけど、今やらないと絶対後悔する。
僕はその指輪を天に掲げ、その力を解放する。
「指輪よ! その効果を発動せよ!! たった今、発動した魔法を——破棄せよ!」
指輪から光が発せられ、世界がぐにゃりと歪んだ——。
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