第32話 記憶を辿って
僕らは転移魔方陣使って「古の都」に到着した。
「うーんん……気持ちいい」
マエリスが伸びをして、チコもマネをするように、うーん、と伸びている。
「空は晴れてるし、すがすがしい気分だね」
「でも、周りは崩れた建物の跡がばかりだ」
僕らは周囲を見渡した。
魔物などの気配はない。
「でも、ここは……? どこかで見たような?」
僕は、妙な既視感を感じていた。
懐かしい、そんな雰囲気。
「リィト、ここ……この前来たよ」
「えっ? なんだって?」
「ここ、ディアトリアの廃墟だ」
確かにそう言われると、崩れた建物の跡といい、道といい……見覚えがある。
生まれ故郷のディアトリアの村……の廃墟だ。
「じゃあ、僕らって、元々《グリッチ=コード》に縁があった?」
「そうなのかな? でも、リィトもこの前来てたはずなのに、すぐ分からなかった?」
「前来たところは違うような気がしたんだよな。なあ、チコ?」
チコは、辺りをキョロキョロしている。
「ねえ、リィトは……リィトの家はどこ?」
チコはついさっきまでニコニコしていたけど、今は真剣な表情になって言った。
うちの家か。
そうだな、案内しておくか。
「こっちだよ」
僕は、チコの手を引いて、ディアトリアの廃墟を歩いて行く。
家は、村の中心部に近い。
「ここだよ」
石造りの家だったけど、もうほとんど崩れてしまっている。
「そういえば、リィト、地下ってまだあるのかな?」
「地下はそのままなんじゃないかな?」
マエリスの疑問に答えた。
あの場所……マエリスと、しばらく二人で過ごした場所。
ここに来て、思いだしたのかもしれない。
僕は、崩れた家の中に入る。
砂をかき分けていくと、鉄製の蓋がみつかった。
ボロボロになっているけど、蓋としての機能はまだ果たしていた。
開けると、下に続く階段が現れる。
「降りてみよう。気をつけて。【光】」
僕らは、地下に入っていく。
十年前、この村が災厄——とてつもない爆発に襲われたとき、僕とマエリスは、たまたま、この地下に迷い込んでいた。
あの日、この地下に迷い込まなかったら、僕とマリエスは生きていなかっただろう。
この村の地下には、魔物などはいないものの、ダンジョンのようなものがあったのだ。
救助がくるまで、僕とマエリスはずっとこの地下で、うずくまっていた。
といっても、個々で何かあるわけでもなく、僕らはそのまま戻ることにした。
「じゃあ、上に戻ろうか? チコも」
「……全部……思いだしたの」
「ん? チコ?」
「あ、ううん、何でもないよ! 上がるね!」
これまでずっとニコニコしていたチコの表情が変わっている。
急に何か思いだしたような、そんな表情。
いったいどうしたのか、気になったけど彼女はまたいつもの笑顔に戻っていた。
————
地上に戻り、特に何も見つからないので転移魔方陣まで一旦戻ることにした。
したのだけど……。
誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。
誰だ?
僕らは姿を隠し、息を潜めた。
緊張が増し、三人とも自然に寄り添う。
「あ、あの人——カトレーヌさん?」
「それに、ギナ?」
「誰かに追われてるのかな? あ……」
視界に入ったのは、僕が会いたくないと思っていた人物。
黒いオーラをまとった、勇者候補——グスタフだった。