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第02話 裸の少女と一緒に寝ていたら能力が覚醒した

 僕は一人になった後街道を歩き続け、夜になる頃には小さな街に辿り着いた。

 宿屋に泊まることにする。


 食事が喉を通らず、空腹のまま眠りにつく。

 いつも一緒にいるのが当たり前だったマエリスと離れ離れ

 パーティを外された寂しさと悔しさが襲ってくる。



「勇者パーティか……」



 そうつぶやくと、次第に意識が遠のいていく——。

 まどろむ中で、僕はまだパーティにいた頃のことを思い出す。


 ————


 ダンジョン内で、大グモジャイアントスパイダーと出会った時のこと。

 皆が、敵と向きあい、それぞれの役割を果たしていく。


 戦闘の最中に、以前から僕だけに聞こえる声があった。

 雑音混じりの少女の声だ。



『スキル……剣聖……強化シマ……」


『YES!!』


『魔……法……麻痺(パラライズ)……強化シ……ス』


『YES!!』


『魔法……傷治癒(キュア)……ハツドウ支援……』


『YES!!』



 僕はYESと答え続ける。

 でも、これがどんな効果を及ぼしているのか分からない。


 なぜかマエリスだけが振り返り、ありがとうと伝えてくれていた。

 他のメンバーは気にもしてくれない。 

 この話を信じてくれたのもマエリスだけだったっけ。



 そんなことを思い出していると、次第に僕の意識は闇の底に沈んでいって……真っ暗になった。



 ——夢を見た。



 夢の中で、僕は眠っている。

 やがて、誰かが近づいてくる気配を感じる。

 足音や気配で分かった。マエリスだ。


 マエリスと言葉を交わしたい。

 そう思うのだけど、僕は体を動かせない。


 マエリスの気配がさらに近づく。



「リィト。話を聞いたわ。私はあなたがパーティからいなくなると聞いて反対したけど、受け入れられなかった。でも、私はリィトが強くなることを知っている」



 額に温かいものが触れ、わずかな吐息が感じられた。

 マエリスが僕にキスをしている?


 彼女の息づかいは遠のいていった。



 強くなりたい。

 夢の中で願った瞬間、僕の頭の中で響く声があった。



『……覚醒。私は、グリッチ=コード……』



 これまで時々聞こえていた、雑音混じりだった少女の声だ。

 今はハッキリと聞こえた。

 僕の職階級(クラス)のスキルが変化している……?



『複製体が統一されました』


『封印が解除されました』


『《グリッチ=コード》が再起動しました』


『実体化の封印が解除されました』


『実体化を行います』


『規定の経験値を確認しました。全て《グリッチ=コード》の強化に使用します』


『特定種別魔法の反則強化(グリッチ)能力を獲得しました』



 《グリッチ=コード》の再起動?

 魔法の反則強化を獲得?

 わけが分からず混乱する。

 でも決して悪いことは起きて無さそうだ。


 少女の声が収まる。

 僕の意識は再び、深い闇の中に落ちていった……。





 朝。

 目を開けると、眩しい光が飛び込んでくる。


 不思議な夢を見たな。

 マエリスと《グリッチ=コード》の声。

 一体何だったんだろう?

 それにしても、昨日の夜は気分が落ちこんでいたけど、今は不思議と前向きな気分だ。


 ん?

 布団の中に妙に温かく、柔らかなものを感じる。



「すぅ……すぅ」



 寝息が聞こえる。

 この温もりといい、寝息といい誰かいるのか? 同じ布団の中に?

 誰かと同衾している?


 恐る恐る、寝息の方向を見た。

 そこには六歳くらいの少女が僕に抱きつくようにして眠っている。

 可愛らしいその顔は穏やかで、無邪気で、幸せそうだ。


 っていうか。


 誰?


 微妙に見覚えがあるような気もするけど、知らないぞ。こんな子……。


 マエリスに似ていると言えば似ているかも。

 でも、肩くらいまである髪の毛の色は僕と同じだし。

 よくわかんないな。


 ん?

 滑らかな肌の感触が、体温が、柔らかさが、彼女から伝わってくる。

 恐る恐る、布団をめくる僕。



「は?」



 謎の少女の体を見て、そっと布団を戻す。

 なんと、彼女は何も身につけていないではないか。

 素っ裸だ。


 昨日は僕一人で眠ったはずだ。

 いつの間にかこの部屋に迷い込んできたのだろうか?

 ……裸で?

 謎だ。謎の少女だ。



 マエリスにこんなところ見られたら何を言われるのか分からないなどと、不要な心配をしたりする。



 僕は謎の少女を残し、そっとベッドから退散した。

 が、振動が伝わってしまったのか、彼女はぱちりと目を開ける。

 そして僕の顔を見ると、もごもごと口を動かした。



「リィト?」


「え? 僕の名前を知ってるの?」


「リィト」



 謎の少女はわずかに頬を染め、僕を見て微笑んだ。

 この声は、今まで頭に響いていたり、夢で聞いた少女の声と同じだ。

 もっとも、夢の中の声と比べて随分幼いけど。


 うーん。いったいこの子は一体誰なんだ……?

 外から迷い込んできたのか?

 起き上がってもニコニコと僕をみて、やたらベタベタとくっついてくるんですけど。


 取り急ぎ、服を手に入れ着せる。

 その後食堂や酒場など村の中を歩き、謎の少女の身元を調べようとしたが手がかりは無かった。

 この村は小さくて神殿も孤児院も無い。


 これからどうしよう。

 少女を見捨てる……のはさすがに気が引ける。


 幸い、勇者パーティを外れた僕には、少しの資金と多大な時間があった。

 だったら……。



「ここからそう遠くないし、一緒に僕の育った街に行ってみようか?」



 僕の問いに、少女は満面の笑みで頷いた。



「じゃあ、決まりだ」



 早速生まれ故郷に向うことにする。

 そこの孤児院——僕とマエリスがいた孤児院——に、この謎の少女のことを相談してみよう。



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