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第16話 幸せな夜と聖女の儀式 ——side マエリス

 その日も、グスタフさんの調子は絶不調だった。

 もっとも、私もカトレーヌさんも絶好調とはいいがたい。



 私たち勇者パーティ一同は、リィトの生活魔法に頼り切っていたことを思い知る。



 【水生成】【食料生成】の魔法。

 生み出される水やパン。

 今では、街で買い込んだ保存食を背負って運んでいる兵士さんがいる。


 【清浄化】の魔法は、とても重宝した。

 カトレーヌさんなんか、おかわりを要求していたくらいだ。


 それに、体臭がもともとキツかったのか、【清浄化】を使えない状況で、グスタフさんの周囲からみんなが離れていく。



「なんかね、酸っぱい匂いが……」



 カトレーヌさんも呆れていた。

 私たちも、ああならないように早めに水浴びをしたい。



 王国軍兵士たちもイライラし始める。



「グスタフさん、話が違いますね。姫殿下は、リィトさんが色々と生活魔法を使って下さると聞いていたのですよ?」


「そ、それは……彼が勝手にパーティを抜けて……」


「本当ですかね? あなたが追い出したという噂がありますよ。それに、パーティメンバーの管理はあなたの役目だったはずでしょう!?」


「ひっ。ひぃぃぃぃぃ。申し訳ありません」



 カトレーヌさんの責めには、もう少し反抗していたようだけど、王国軍の兵士が相手となるとそうはいかないようだ。



「勇者の称号は、まだまだ早そうですな」



 王国軍兵士たちのそんな言葉に、グスタフさんは冷や汗をかいているようだった。


 そんな私たちに転機が訪れる。



「おい、あそこ!」


「おいあいつら、火をたいて夜営してやがる……あれ、はぐれた傭兵部隊じゃないか? 無事だったのか?」


「オーガ・ジャイアントは? この辺りに現れたはずだが……大狼やオーガの群も見えんな……?」



 兵士たちが歓声を上げている。

 そうか、はぐれた傭兵部隊と合流できたんだ。


 傭兵の人たちはグスタフとよく一緒にいた。

 よく分からないけど、彼らには、まるでグスタフの悪乗りが伝染していたようにも見えた。


 合流することで面倒なことにならないと良いけど……。

 少し憂鬱になる。



 夜になったけど、周囲にはすっかり魔物の気配がなくなったので、安心してテントを張り夜営ができる。

 私とカトレーヌさんは二人で準備をするとテントに籠もることにした。



「ねえマエリス。ちょっと傭兵さんたちが話してるのを盗み聞いたのだけど」


「は、はぁ」



 カトレーヌさんは暗殺者職(ローグ)だ。

 さすがの諜報活動能力……かな?



「傭兵部隊の中に、リィト君がいるかもしれない」


「えええっ?」


「良い食いつきするねぇ。なんだか、前と傭兵の人たちの雰囲気が違ってて気になって調べてたんだけど」


「ふむふむっ」


「傭兵部隊の人たちとリィト君で魔物の群を倒していたみたいで。なんと、あのオーガ・ジャイアントも彼らが倒したらしい」



 私たちが倒せなかった敵を、傭兵部隊とリィトが……?



「もう、ベタ褒めしててさ。彼は英雄になるとか何とか——」


「リリリ、リィトは、どどどどこにいるんですか? はぁはぁ」


「落ち着いて、マエリス。深呼吸!」


「ふぅ……ふぅ」



 私は胸に手を当てて自分を落ち着かせる。



「傭兵の隊長さんいたでしょ。彼に聞いてみたらいいと思う」


「わかりました!」


「ちょっ、待って。好きな人に会いに行くのなら、身だしなみをしっかりしなきゃ。さっと汗も流して——」



 私はカトレーヌさんから指示を一つ受けた。

 胸をずっと押しつけろという指示だ。

 こんなの意味があるのかな。


 私は隊長さんを探し、見つけた。



「あの、隊長さん。リィトはどこにいますか?」


「おや、久しぶりだねぇ……。聖女候補のマエリスちゃんだっけ?」


「はい、お久しぶりです」


「それで、()()()()()のこと……どこで知りました?」



 あれ?

 こんな年上のおじさんが、リィトを丁寧に呼んでいる?



「ああ、えっと……こちらにいると聞きまして」


「誰だ? まったく……。まあ、マエリスちゃんなら大丈夫か。付いてきてくれ」



 私は、隊長さんについて歩いて行く。

 くれぐれも、内緒に、と口止めされて。



「それで、リィトさんと聖女候補サマはどういうご関係で?」



 興味深そうに隊長さんが私の顔をのぞき込む。



「幼——」


「ははぁ、恋人ですね?」


「えっ?」


「さっきから、花の香りですかね? とても良い匂いがして……可愛らしくおめかしして……ははー。あの人も隅に置けませんなぁ」


「え。えーっと……」


「うちの奥さんも、マエリスちゃんみたいに、とても清楚で可愛らしかったのに……今では尻に敷かれちゃって……ううっ」



 この人……こんなに気さくな人だったっけ? と思いつつ、付いていくと、ひとつのテントに通された。



「お姫様、少々お待ちを——」


「もう。隊長さんっ」



 そして通されたテントの中には——。



「リィト!」



 離れていたのは短いはずなのに、随分懐かしく感じるリィトがいた。

 わたしは、たまらず駆け寄り、ぎゅっと抱きついてしまった。

 


 私は何かとリィトにくっつくように意識した。

 カトレーヌさんに特に胸をくっつけろと言われたけど、案外難しい。

 そんなにおっきくないからなのかっ?


 遠慮してると無理なので、もう全力でくっついた。


 そうすると、リィトが赤い顔をしていたのが印象に残っている。

 リィトの驚いたような、照れるような、嬉しいようなそんな顔、初めて見たような気がした。


 でも、私のことを大切にしてくれているのも伝わってきて。

 とても嬉しかったし幸せだった。



 私は、彼に笑顔でいて欲しい。

 その手伝いが出来るのなら、何でもできる。



 私はチコに会い、リィトと一晩を過ごした。

 といっても、隣でくっついて眠っただけなんだけど。


 朝になり、カトリーヌさんが待つテントに戻った——。


 すると、散々カトリーヌさんに朝帰りしたことをからかわれてしまった。



「もう、マエリス。ずーっと口元がニヤけてるんだから」



 何度もそう言われてしまうほど、私の口の締まりは悪くなってしまったようだ。

 うぅー。

 どうしても昨日の夜のこと——リィトの優しさを思い出して、思い出し笑いしてしまう。

 私のことで必死になったり、かわいいところも見れた。



 ————



 準備をして野営地を出発。

 昼前には、目的地に到着した。



「では、これよりディアトリアの廃墟に入る。各員、警戒を怠らないように!」



 兵士の一人が、そう宣言して私たちは、私の生まれた村の跡に入っていく。

 やっぱり、生まれた村だけあって、そこここに見覚えがある建物がある。

 カトレーヌさんは初めて来るみたいで、周囲をきょろきょろしつつ、時々、建物跡を見つめている。



「景色は、昔の記憶と同じなんだなって気がするなぁ」


「マエリス、そうなの?」


「うん。建物が崩れても、ずっと面影は残るんだね」



 廃墟はこうやって、以前の形を残しながら朽ちていくものかもしれない。

 あれ? そういえばリィトには会わなかったけど、どこかにいるのかな……?





「一旦停止、各自周囲を警戒しつつ、待機!」



 兵士の人が、そう号令をかけた。

 そして、別の兵士の人が、私の元に近づいてくる。



「聖女候補のマエリス様、こちらへ。儀式の会場へご案内いたします」


「あ、はい」


「ちょっと、マエリスだけを連れていくの? アタシはついていっても?」


「ダメだ。マエリス様のみ来ていただく」


「そ、そう……でも、どうして軍が……グスタフは姿が見えないし」



 カトレーヌさんが問答している。

 首をかしげつつも、渋々受け入れたみたいだ。



「じゃあ、いってくるね」


「うん……マエリス、気をつけて」





少し歩くと、部隊から見えない位置に転移魔方陣があった。

 その横に、ニヤついたグスタフさんがいる。



「マエリス、この転移魔方陣で、儀式の間に移動する」



 表情は余裕そうだけど、実際にはグスタフさんは、すっかり兵士の人に使われているように見える。

 それだけ今は立場が悪いのかな。



 私は期待を胸に、気持ちを切り換えて転移魔方陣に乗った。


 いよいよだ。

 この儀式が終わって聖女の地位に就けたら、私はリィトやチコとパーティを組んで色んなところに行くと約束した。



 あと少し、頑張ろう。




次話よりリィト視点に戻ります。



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