第11話 幼馴染みと一緒に、夜を過ごす…… (1)
日が暮れた。
ここは山岳地帯の中の荒野のただ中だ。
ディアトリアの廃墟までもう少し、というところで野営をすることになった。
周囲には僕らを襲ってくるような魔物の気配はない。
ディアトリアの廃墟から現れたという魔物は、おおかた倒してしまったようだ。
僕と少女は、今の能力を確認しておくことにする。
「反則呪術一覧!」
『
自呪術強化:
(火属性)【発火】:強化レベル1
(水属性)【水生成】:強化レベル1
(無属性)【識別】:強化レベル1
(無属性)【百発百中】:強化レベル1
』
なるほどなるほど。いつの間にか無属性魔法も強化できるようになったようだ。
魔法一覧は……。
『
現在使用できる魔法は以下の通りです。
【発火】(強化可能)
【水生成】(強化可能)
【清浄化】
【伝言】
【軽修理】
【光】
【食料生成】
【百発百中】(強化可能)
【小奇跡】
【識別】(強化可能)
』
ん。そういえば川も近くに無いし……汗を流したい。
清浄化の魔法を使い、僕や少女を清める。
これは、体を清拭して綺麗にしたり、汚い場所の汚れを消し去る便利な生活魔法だ。
しゅわわわわわっ。
体が泡のようなものに包まれる。
といっても、魔法的な泡で体が濡れたりするわけじゃない。
花の良い香りがして、近くにいた傭兵の人たちとともに、体がさっぱりとしていくのを感じる。
「ねえ、リィトさん、さっきの魔法をもう一度私に使ってもらえないかしら?」
この魔法は女性に受けが良い。
レンジャーの女性が僕に話しかけてきたので使ってあげる。
泡に包まれる彼女は、なんだかうっとりしている。
「ああ……この魔法素敵ね。肌がぷるんとして……ありがとう。リィトさん、また街に戻ったら個人的にお礼を……」
「あ、はは、気にしなくて大丈夫です」
随分気に入られてしまった。
でも、そのたびに少女の笑顔に陰りが見えるような気がした。
もっとも、彼女は笑顔を崩そうとしないのだけど。
————
食事をとり、見張りを立てて寝る段階になって、傭兵の人たちが声を上げた。
グスタフの姿が見える。
どうやら、勇者パーティにこの部隊が発見され合流したようだ。
はあ、と僕は溜息をつく。
面倒くさい。
グスタフは幸い、少し離れたところにいた僕には気付かなかったようで、姿が見えなくなった。
勇者パーティでの僕への扱いを傭兵の隊長は知っていたので、上手く取り計らってくれたようだ。
ありがたい。
だけど、今後一緒に行動するのも気が引ける。
合流できたのなら、傭兵部隊は僕と一緒に行動する必要が無い。
明日からは別行動をしようか、などと考えていると……。
僕が少女と二人で寝ようとしていた簡易テントに、傭兵の隊長がやってきた。
「リィトさん、そういうことだったんですね。隅に置けませんな」
「ん? 何のこと?」
「こんな可愛らしい……っていうか聖女候補の女の子が恋人だなんて」
「こ、恋人?」
彼の後ろから、誰かが現れる。
「リィト?」
ふと、聞き覚えのある声にはっとすると……そこには。
「マエリス!」
「リィト! こんな所で会えるなんて……!」
言うのと同時に、僕に抱きついてくるマエリス。
ぎゅっと強く強く抱き締めてくる。
ふわっとした柔らかさが僕を包む。
僕らの様子を見た隊長は、音も無くテントを立ち去った。
なんか誤解しているみたいだけど、まあいいか……。
「リィト……リィト……!」
「お、おい、どうしたんだ?」
「もう……どうしたんだじゃないよ? 急にいなくなって……リィトのバカ!」
「あ、ああ。ごめんな。なんて聞いている?」
話を聞くと、やはり僕が自分勝手に抜け出したことになっていた。
僕は訂正をしつつも、細部は誤魔化しておく。
ただ、グスタフには気をつけろと、それだけを伝えた。
「ふふっ。ありがとう。大丈夫、あんな奴にどうにかなったりしないよ? 私、聖女に認められたらあんなパーティやめるんだから!」
「そ、そうか。その勇者パーティはどうなってんだ?」
「うん。最近新しい魔術師の女の人が入って——それで今は私の聖女の儀式をするためにディアトリアの廃墟に向かってるの」
「廃墟に?」
「うん。リィト、聖女の儀式って知ってる? それを行う場所が廃墟にあるんだって。私、知らなかった」
僕も初耳だ。
僕とマエリスが生まれたディアトリア村。今では廃墟になっている
子供だから、そういうことを知らなかっただけなのだろうけど。
まさか、自分の生まれた村にそんな場所があったなんて。
「今はこっそり、カトレーヌと一緒のテントから抜けてきてて……朝には帰らないとね。リィトはさすがにパーティには戻らないよね」
「うん。ちょっと……な」
「だよね。私もそんなに長く続けるつもり無いし、この儀式が終わったら正式に聖女に認められるから……そしたら、二人でパーティ組もう?」
「ああ、いいよ。でも三人かな」
「えっ? だ、誰?」
急激に顔が険しくなり、頬を膨らませるマエリス。
「実は、この子と一緒に行動してて」
僕は、既に眠っている少女をマエリスに見せた。
「えっ。この子……リィトの子供?」
「だーかーらー! 歳を考えろって!」
いつものお約束の展開。
もう慣れっこだ。
まさか僕をずっと前から知っているマエリスに言われるとは思わなかったけど。
「そっか、そうだよね。リィトと同じ髪の毛の色……だ……か……ら?」
「ん? どうした?」
マエリスは、少女の顔を見ると、目を見開き、あんぐりと開いた口を手で押さえた。
「この子……知ってる。想像上の友達……」
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