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第46話 ビアンカの気持ち③

 結局寝付けなかった……。


 私は布団の上で身を起こし、ため息をついた。寝付けなかった理由は勿論、昨夜寝る間際に自分の角について考えてしまったからだろう。

 それが気になって、ちゃんと眠ることが出来なかったのだ……と思う。


 ちょっと外の空気を吸おうかな……。


 眠っている皆様を起こさないように抜き足差し足忍び足でテントを出て、グッと伸びをする。

 やっぱり外の空気は美味しい。しかも早朝だから、余計に空気が澄んでいるのだろう。


 私がグッと伸びをして息を吐くと、急に村の方から風を切る音が聞こえてきた。ブン、ブン、ブンと定期的なテンポを踏んで聞こえてくるその音に引き寄せられるように、私は村の方へ歩いていく。


 すると、黒髪の少年が長い槍を振り回しているのが見えた。


「レノンさん……」


 歯を食いしばり、大量の汗をかきながら、四方八方に槍を振り回すレノンさん。

 その一生懸命な姿がとてもかっこよくて、私は思わず彼をじっと見つめてしまった。当然__、


「あ、あれ? ビアンカさん。おはようございます」


 レノンさんに気付かれてしまい、私は慌てて頭を下げた。


「お、お、おはようございます!」


「早いですね……って、こんな時間から素振りしてる俺が言えたことじゃないですけど」


 黒髪を掻き、アハハと笑うレノンさんに、私は首を振って言った。


「い、いえ! とんでもない! すごくかっこ良かったです!」


「……えっ?」


「あ! いや、その……一生懸命素振りをされていたのが、すごく好印象だったというか……。と、とにかく、朝早くからお疲れ様です!」


 な、何を変なことを言ってるの、私は……。レノンさんに変に思われる……。


「あ、ありがとうございます。俺ももっともっと強くならないといけないですから。今のままじゃ、デイル達からフロラを守ってあげられないですし。それに……」


 レノンさんは自分の槍に視線を落としていたけど、顔を上げて私に笑いかけてくれた。


「今日からラルヴァ達とも訓練をすることになったんですよ。その時にあいつに馬鹿にされるのは嫌なので、今必死で頑張ってました」


 ら、ラルヴァさんともうそんなに親しい間柄に……。す、すごい、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた私が、まだラルヴァさんのことを怖いって思ってるのに。


「な、なるほど……。大変ですね……。わ、私も一応武器は持ってるので、少しばかり力になれるかと!」


 背中の楯入れと腰の鞘から純白の楯と剣を抜き取り、私はレノンさんに向かって構えてみせる。こんなひ弱そうな私でも、一応戦う手段は持ち合わせているのだ。


「えっ、そうだったんですか!? すごい……カッコいい武器ですね」


 レノンさんは純粋に驚いて目を丸くすると、キラキラと青い瞳を輝かせて私の武器を見つめてきた。


「えっ!? い、いやいや……そんな……とんでもない……」


 私ではなく私の武器が褒められたのに、何故だか私の方が恥ずかしくなってしまう。視線をそらして顔を背け、顔を真っ赤にしていると、


「あっ、そうだ。昨日のハンバーグ、ビアンカさんも一緒に作ってくれたってフロラから聞きました。ありがとうございました。すごく美味しかったです」


 律儀に頭を下げてくれたレノンさんに、私は両手を振って、


「い、いえいえ……。レノンさんの分を作られたのはフロラですから、私は別に……」


「そんなの関係ないですよ。ビアンカさんが作ってくれたこと自体、俺にとってはすごく嬉しかったんです」


「レノンさん……! ラルヴァさんはお強い方ですので、くれぐれもお気を付けて!」


 笑顔で優しい言葉をかけてくれるレノンさんが嬉しくて、私はついレノンさんに肩入れするようなことを言ってしまった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 レノンさんを純粋な気持ちから応援してしまったこと、私は少し後悔していた。それでもしラルヴァさんやオグルさん、オグレスさんが負けてしまったら……と考えただけで恐ろしかった。

 でも、そんな心配は杞憂だった。


 オグルさんはレノンさんと互角、オグレスさんは序盤少し押されぎみになりながらも、何とか先手を取って勝利。

 そしてラルヴァさんは、レノンさんとの圧倒的な力の差を見せつけるかのように、レノンさんをボコボコにしてしまったのだ。


「ラルヴァさん、訓練お疲れ様です」


 ちょうど休憩時間に入ったところで、私はラルヴァさんに飲み物を持っていった。


「ああ、ありがとう」


 私の手からペットボトルを受け取り、喉を鳴らして飲み始めるラルヴァさん。この『ペットボトル』というものはフロラから貰ったもので、中に入っている飲み物は天然水らしい。

 一方、ラルヴァさんにボコボコにされたレノンさんは、フロラに慰められていた。


「そう言えば、お前は訓練に参加しなくて良かったのか?」


 ひとしきり水を飲んだ後、ラルヴァさんが尋ねてきた。私は慌てて姿勢を正し、ラルヴァさんの質問に答える。


「は、はい! 皆さんの強さを拝見して、私でも太刀打ち出来そうであれば参加しようと思っておりまして……」


 私も一応は鬼族の部類だから、戦うとしたらレノンさんやフロラを相手にしないといけない。勿論、今回戦う人喰い鬼達の強さなんて分かるはずもないけれど、出来ることならレノンさん達の強さを見てから参加するか否か判断したい。


 こんなことを言ってしまったら怒られるかな……。


「そうか。ニンゲンとの訓練は貴重な体験だからな。負けても問題ないから、お前も一度はやってみろ」


 内心ドキドキしていたのだけど、意外にもラルヴァさんは私の考えを受け入れてくださり、何と背中まで押してくださった。


「承知致しました! ありがとうございます!」


 私は深々と頭を下げた。ラルヴァさんに顔が見られないのを見計らって、顔を歪める。


 今から言うことは、出来ればラルヴァさんに優しくして頂いた後には言いたくないことだ。

 それでも私の今後に関わる重大なことだから____。それに、ラルヴァさんが今まではぐらかしてこられたのには、きっと何か理由があるはずだから。


「あ、あの……ラルヴァさん」


「ん? どうした?」


「度重なる質問をしてしまい、大変心苦しいのですが……」


「何だ? 言ってみろ」


 もう一口、ペットボトルの水を飲みつつ、ラルヴァさんは続きを促してくださった。そのお言葉に思い切り甘えるような形で、私は意を決して口を開く。


「私の角は、どうして生えてこないのでしょうか」

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