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第42話 協議

 俺達は会議用に使われていた家の中に居た。

 人間側は俺、フロラ、ヒルスさん、リッターさん、シュヴァリエさんの五人。

 鬼側もドラコス、ラルヴァ、オグル、オグレス、ビアンカさんの五人。

 合わせて十人が入っても窮屈にならないほど、家の中は広かった。


「では、人喰い鬼の殲滅を目的として、今から互いに協力しようと思うのだが、異論のある者は」


 鬼達と向かい合って座ってから、ヒルスさんが言った。それに答えたのはリッターさんだ。


「問題ありませんよ、ヒルス村長。こいつらが手を加えようとした時点で、僕とシュヴァリエが斬りますから」


「それはニンゲン、貴様らにとっても同じだぞ」


「勿論、分かっているよ」


 ラルヴァに睨みつけられても怯まず、リッターさんはあくまでも冷静に応じる。

 そんな中で、俺は場違いにも手を挙げてしまった。このタイミングで言うのは間違っている、と自分でも分かっているのだが、どうしてもすぐに言いたかった。


「あ、あの……」


 皆の視線____特に鬼側の視線が俺に集中する。俺が鬼達を見て手を挙げたのだから当然だが。


「ドラコス、ラルヴァ、オグル、オグレス、ビアンカさん。性別を偽ってお前達を騙していたこと、本当に申し訳なかった」


 俺は五人を順番に見つめて、それから深々と頭を下げた。


「ちょ、レノン! こいつらは鬼なんだから謝らなくて良いよ!」


 俺の右横に座ったフロラが慌てるが、それでも俺は頭を下げたまま言う。


「でも、今から俺達と協力関係を築く相手だ。それに騙していたのは本当に悪いことだし」


「だ、だからって……」


 フロラはまだ何か言いたそうだったが、ドラコスの軽快な拍手の音がそれを止めさせた。


「いやー、見事な変装だった。妾も見抜けなかったからなぁ」


「王、感心している場合ではありませんよ」


 満足げに手を叩くドラコスを見下ろし、ラルヴァが一生懸命に言う。


「良いじゃないか、これから共に戦う仲間なんだ」


「な、仲間ですか……。仰ることはごもっともですが……」


 ラルヴァはそう言って、俺達が仲間になるということを認めてくれた。


 ドラコスの言葉を聞いて、俺も改めて考えさせられた。

 今まで直接争ったことはないものの、鬼と人間は敵対関係にあった。それを解消して仲間として共同作戦に挑もうとしているのだから、戸惑いはあって当然だ。

 それでもお互いを認めなければ、共通の敵を倒すまで踏み出せないだろう。


「レノン、貴様が俺達の屋敷に変装してまで潜入したのは何故だ。やはり生贄の解放か」


 ラルヴァは冷酷な瞳で俺を射抜く。けど、俺がその視線に威圧感を覚えることはなかった。屋敷で散々怖い思いをした分、少し耐性がついたのかもしれない。


「ああ。確かにお前達の屋敷での暮らしは悪くなかった。でも、いつ何をされるか分からない恐怖が、常に付きまとっていたのは事実だ」


「喰われるとでも思っていたのか」


「まぁ、噛み砕けばそんな感じだ」


 俺の返答を聞いたラルヴァは、呆れたようにため息をついた。


「今回のことで分かっただろう。俺達とデイルは同じ鬼でも別の種族だ。分かりやすく言うなら、ニンゲンを喰う種族と喰わない種族で対立関係にあった」


「じゃあ、何で俺達の村から年頃の女の子達を連れ去っていたんだ。デイルはここだけって言ってたけど、実際、あの屋敷には他の村の出身者も居たぞ」


 デイルに『生贄制度を導入しているのはうちの村だけだ』と告げられた時、その理不尽さに怒りを抑えることが出来なかった。

 他にも村はたくさんあるのに、どうして俺達の村が生贄の対象に選ばれてしまったのか、と。


 だが鬼の屋敷に潜入して脱出計画を練る中で、俺とウィンディーとあと数名以外は他の村から生贄として捧げられた少女達だったことが判明した。

 そこで疑問を抱いたのは、おそらく俺だけではないだろう。何せ、デイルにはずっと前から『この村だけが理不尽な目に遭っている』と教えられてきたのだから。


 だが、同時に俺達の村が理不尽な目に遭っているわけではなかったと知り、俺は少し安堵した。それをラルヴァはさも当然と腕を組んだ。


「当たり前だ。デイルが居る村のニンゲンだけを救っていたら、間違いなく奴等に勘づかれるだろう」


「救う……? どういうことだ」


 横ばいに進んでいく俺とラルヴァの会話。

 それに水を差すようでなかなか話し出せなかったのか、フロラが少し緊張気味に言った。


「も、もしかして、人喰い鬼が本性を現すことが分かってたから、ずっと昔からあたし達を……自分達の屋敷に連れていってたってこと? 『自ら苦難の道を歩もうとする』って、そういうことよね。ラルヴァ」


 俺がラルヴァの部屋に侵入して屋敷の鍵を盗もうとした時、背後から俺を殴ってきたラルヴァが放った言葉と同じだった。俺を屋敷から助けてくれる中で、フロラもラルヴァにそんな言葉をかけられていたのか。


「好きに解釈してもらって構わん」


 俺やフロラにとっては結構重要な言葉だったのだが、ラルヴァにとってはさほどのことではないらしい。特に気にする素振りも見せずに平然としている。


 すると、ラルヴァの隣に座っていたオグルがニヤリと笑って言った。


「ラルヴァさんは優しいんだぜ? おれ達ともよく遊んでくれるしな」


「……き、筋肉……ムキムキ、だし」


 顔を真っ赤にして俯き、ボソボソと蚊の鳴くような声で言うのはオグレスだ。


 やっぱり、オグレスってラルヴァのことが好きなのか……?


 そんなことを考えていると、ラルヴァが口を開いた。


「俺が鍛えているのは己を強くするためだ。それより、今はそんなくだらん話をしている場合ではないだろう」


 ラルヴァの言葉がきっかけで、脱線していた話題に戻ることになる。


 ヒルスさんが頷いて、


「デイル達が、いつこの村を襲ってくるかは分からない。だから突然の戦闘になることも念頭に置いておいてくれ」


「ああ、勿論。妾達は一応、お前達の村の入り口付近で滞在するからな。もしもデイル達がこの村を抜けて他の村のニンゲンを喰いに行こうとしても、見逃さずに倒せるぞ」


 えっへんと胸を張り、得意げに話すドラコスに向かって、ヒルスさんが頭を下げた。


「それは助かる。よろしく頼む」


「妾個人はニンゲンが好きだし、妾達はニンゲンを裏切らない。だから安心して任せてくれ」


「はい! はい! おれもニンゲン大好きだぜー! な、レノン!」


 ドラコスに便乗するように一生懸命に挙手し、なおかつ俺に同意を求めてくるオグル。


「あ、あぁ、そうやって言ってくれてたな」


「わ、わたしも……」


「うん、オグレスもありがとう」


 俺が言うと、オグレスはポッと顔を赤らめた。


「一応最終確認を」


 礼儀正しい挙手をして声をあげたのは、リッターさんだった。


「互いに生活環境には過度に干渉しない。何か不審なものがあればすぐにヒルス村長、もしくは鬼王ドラコスに報告する。万が一戦闘になった場合は、互いに協力してデイル達人喰い鬼の殲滅に当たる」


 リッターさんは鬼達にいつになく厳しい視線を向けて続けた。


「互いに、裏切りのような行為は禁止とする。また、デイル達人喰い鬼を見つけた場合はこれで報せること」


「リッターさん、これは?」


 リッターさんが掲げたその器機は、掌サイズで円形のものだった。だけど見ただけではそれが何かは分からない。


 俺の質問に、リッターさんは答えてくれた。


「町から頂いた戦利品だ。人喰い鬼を刺激しないようにするための観点から、大音量のブザーなどではない。このボタンを押すと他の器機が一斉に振動する。これで人喰い鬼の発見を報せることが出来る」


「了解した。万一の時には」


 ラルヴァの了承に、リッターさんも頷く。


「では、戦闘までの流れは確認できたな。何かあれば些細なことでも報告を怠らないこと。良いな?」


 ヒルスさんの言葉に、俺、フロラ、リッターさん、シュヴァリエさんの四人は一斉に返事をする。


「「「「はい!!!!」」」」


「はーい!」


「は、はい!」


 オグルが元気よく、オグレスが遠慮がちに手を挙げ、ビアンカさんはにっこりと微笑んだ。


「これにて協議を終了する」


 声には出さなかったが、ドラコスとラルヴァも了承済みのようだ。異論を唱えなかったし、嫌な顔もせずに、首も横に振っていない。


 ヒルスさんの言葉で、人間と鬼による協議は幕を閉じた。


 協議が終わって皆が次々に家を出ていく中、俺はラルヴァの後ろ姿に声をかける。


「ラルヴァ、ちょっと良いか?」


 ラルヴァはまるで肯定するかのように、眼鏡をクイっと上げた。

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