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第26話 話し合い

 町じゃなくて、村の方にばかり現れる人喰い鬼、か。そんな奴らが居たんだな。


「私達は、単純に鬼達が村人を襲いやすかったためだと推測しています」


 シュヴァリエさんが言って、リッターさんも頷く。


「町の人達は村の人達に比べて裕福な暮らしをしている。肉付きも良い。対して村の人達はあまり裕福ではない。だから肉付きも悪くて骨と皮が目立つ。鬼にとって、どちらが食べ甲斐があると思う?」


「え、えっと、町の人達、でしょうか」


「あたしもそう思います」


 リッターさんの問いかけに、俺とフロラは同じ答えを出す。


「実はね、違うんだ」


「「えっ⁉︎」」


 驚く俺達に、リッターさんは真剣な表情で続ける。


「勿論レノンくんやフロラちゃんのように考えるのが普通だ。でも、町には僕達騎士団が居る。町の人達を襲えば、すぐに僕達騎士団に見つかって殺されてしまうだろう?」


「そ、そっか、だからたとえ肉付きは悪くても、村の人達だけを襲って食べてたってわけね」


「その通りです」


 フロラの言葉にシュヴァリエさんが肯定を示し、リッターさんがもう一つの紙束を取り出した。


「この資料によれば、昔は鬼といっても二つの種類があったみたいなんだ」


「二つ、ですか?」


「ああ。人を喰う鬼と喰わない鬼。この二つだ」


 フロラの問いに、リッターさんは指を二本立てて言う。


「じゃあラルヴァ達は、その人を喰わない方の種族ってことですか?」


「まだ確証はないけど、おそらくそうだろうね。でなければ、レノンくんが捕まった時点で既に喰われているはずだ」


「た、確かに」


 俺が一人で納得していると、フロラがホッと胸をなでおろした。


「あの鬼達が人喰い鬼じゃなくて、本当に良かった……!」


 本当にそれは俺もそう思う。じゃないと鬼達を殲滅するどころか、村が襲われて最悪の事態に発展してたかもしれないしな。


 それはそうと_____。


「その人喰い鬼達は、いつ絶滅したんでしょうか」


「騎士団が村に派遣されたのが二十年前くらいになってるから、おそらくその辺りの年だね」


「で、でも、人喰い鬼が既に絶滅してるなら、お父様はどうしてあたしに言ったんですか? 『人喰い鬼に気を付けろ』って」


 リッターさんに尋ねるフロラに、俺は自分の推測を伝えた。


「ヒルス村長がこのことを知らない、とか?」


「そんなことってある? お父様はあれでも一応村のトップなのよ? まぁ、デイル長老がいらっしゃるから実質は二番目だけど」


「そのデイル長老って、どうして村長じゃないんだい?」


 リッターさんに尋ねられて、フロラは説明を始めた。


「お父様が任命された時にはデイルさん、『自分には戦闘は向いていないから、村長としての責務を全うできない』と仰っていたみたいです。かなりお年を召していますし、仕方ないのかなって」


「じゃあデイルさんは昔、村長だったってこともないんだね」


 リッターさんの言葉に頷き、フロラは続ける。


「町から逃げてきた人達を集めて、村の長を決めようって話になった時に、お父様を選んだみたいなんです」


「す、すごいな、ヒルスさん。俺達も生まれてない頃だから、結構若いよね」


 俺が言うと、フロラも頷いた。


「うん。三十代くらいだったと思う」


「若い頃から村長をされていたんだね、フロラちゃんのお父様は。どうりで肝の座った方だと思ってたよ」


「お父様とお会いになられたんですか?」


 驚くフロラに、リッターさんは頷いた。


「ああ。レノンくんの治療をするのに、この村に泊めていただく必要があったから。それを頼みにご挨拶に伺ったんだよ」


「そうなんですね。あっ、お父様、何か失礼なこと言ってませんでしたか?」


 フロラの問いに、リッターさんは驚いたように目を丸くして、


「まさか。とても優しいお方だったよ。デイル長老もね」


「それなら良かったです」


 フロラが安心したように呟いていると、不意にシュヴァリエさんが口を開いた。


「村長が戦わないといけない立場にあるだなんて、どこの誰が決めたんですか。……責任逃れですね、そのデイル長老というお方は」


「こ、こら、シュヴァリエ! 急に何を______」


 咎めようとしたリッターさんの言葉を途中で遮り、シュヴァリエさんは言う。


「本当のことではありませんか、騎士団長。本来ならば、村長は村人に守られるべき存在です。その上で村を管理したり色々と法令を決めたりする。それが村長に任命されし者の責務のはずです」


「君の言っていることはもっともだけど、もう終わったことだし仕方ないよ」


「納得できません。そんな風に責任逃れをするなんて、人としてどうなんですか」


「シュヴァリエ!」


 リッターさんの怒号に、シュヴァリエさんが口をつぐむ。


「ちょっと言い過ぎだよ。言葉を謹みなさい。お相手はこの村のトップの長老さんなんだよ」


「……失礼いたしました」


 シュヴァリエさんは、やはり無表情のまま頭を下げた。


「疲れているんじゃないか? 外に出て頭を冷やしてきなさい。少し休まないと体に毒だ」


「すみません、俺の治療をしてくれたばっかりに」


 立ち上がって俺の部屋を後にしようとするシュヴァリエさんの背中に向かって、謝罪を口にする俺。


「レノンくんのせいじゃないよ。気にしないでくれ」


 リッターさんが気を使ってか、優しく言ってくれる。


「で、でも……」


 すると、シュヴァリエさんが俺の方を振り返った。


「騎士団として、村人の治療や看病をするのも仕事の内なのです。ご心配なく、レノン」


 俺の返事も待たずにそれだけ言い残して、シュヴァリエさんは俺の部屋から出て行ってしまった。


「大丈夫かな、シュヴァリエさん……」


 俺の気持ちと同じように、フロラが声を漏らす。


「ごめんね、心配かけちゃって。話を続けようか」


 少々気が引けるけど、鬼達についての謎が多いのもまた事実。

 俺とフロラは互いに頷き合って、再び鬼達についての話に戻ることにした。


 まず改めて、俺は今浮上している謎を整理するために、状況を呟いていく。


「人喰い鬼は少なくとも二十年前には絶滅しているはず。それなのにヒルスさんが『気を付けろ』って注意喚起をした……」


「もしかしてお父様、何か知ってるのかな」


「俺達には内緒にしてること?」


「うん。村長だし、色々と秘密事項はあると思うんだけど」


 フロラの言葉に、リッターさんも口を開く。


「騎士団の方にも何も連絡はされていないから、もしも何かをご存知なら誰にも言いたくないのかもしれないね」


「そんな。言ってくれないと対処できないのに。まだ生贄の制度だって続いてるんだから」


「何とかして、それも無くさないとな。俺が向こうで全員倒せてれば良かったんだけど……!」


 フロラは絶望的な表情を無理やり明るくさせて、俺を気遣ってくれる。


「レノンが気に負うことじゃないよ。あんな奴ら、一人じゃ絶対無理だったもん」


「ああ、鬼達は相当強かった。おそらく倒すにしても、ある程度の人数で挑む必要があるだろうね」


 リッターさんが、考え込むように顎に手をやったその時だった。


「騎士団長!」


 ドアの向こうから、頭を冷やしに出たはずのシュヴァリエさんの声がした。どこか切羽詰まっているように感じるのは気のせいだろうか。


「ん? どうした? シュヴァリエ。入ってこれば良いじゃ______」


「ウィンディーが鬼に襲われました! 治療を手伝って頂けませんか⁉︎」


 リッターさんの言葉を遮って、シュヴァリエさんは必死に叫んだ。

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