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第12話 下調べ

 俺、オグル、オグレスの三人は、そのまま屋敷の中を見回っていた。


 俺が重視すべきポイントは、脱出するための出口の確保だ。


 さっき見たオグルとオグレスの部屋の隣にあったベランダ。あれは確実に使える。


 それにこの二人もまだ小さそうだし、眠るまで一緒に居てやって、眠りに落ちた隙を狙ってベランダから脱出……なんてことも出来そうだ。


「ここが玄関だよ」


 オグレスがそう言って、おそらく出入りのメインとなるんだろう、大きな扉を開けてくれた。


「へぇー。それにしてもこの扉、すっごく大きいんだね」


 何かを勘繰っているとか、そんな下心なんて全く無しで、俺は自分の背の三倍くらいはありそうな扉を見上げた。


 鬼達の中じゃ当たり前なのかもしれないが、俺達人間にとっては大きすぎるほどの扉。


 そんなに大きくする必要あったのか?


 と思いながらも、村の生贄台で頭上から降ってきた声と言い、この屋敷の中にはものすごく大きな存在が居るはずだ、と思い直す。もちろん文字通りの意味だ。


「まぁな。でもラルヴァさんなら余裕で届いてるぜ」


「え⁉︎」


 オグルの言葉に、俺は思わず素で驚いてしまった。


 だって俺が首を九十度上げなきゃ全体が見えないほどの大きさの扉を、あのメガネ鬼はいとも簡単に開け閉めしてるってことだろ?


 凄すぎるじゃないか、あいつ。実は運動神経ものすごく良かったり……。


「ねぇねぇ、やっぱりラルヴァさんって運動神経良いの?」


 さりげない感じで尋ねてみると、オグルが力強く頷いて、


「ああ! ボール遊びとかも真面目に本気出してくるぜ。でも本当に上手いから、運動神経はバツグンだぜ!」


 鬼でもボール遊びとかするんだ。何か微笑ましいな。


 これだけ聞いたらの話だけど。


「ラルヴァさん、筋肉ムキムキだよ」


 オグルに続いてオグレスもメガネ鬼______ラルヴァについて教えてくれた。


「へぇー、そうなんだ。カッコいいね!」


「うん」


 頷いたきり、頬を赤らめて俯いてしまうオグレス。


 お、オグレス……。まだ幼くて純粋で可愛らしい君の口から『筋肉ムキムキ』って言葉が聞けるとは思わなかったよ。


 ちょっとびっくりだな。


 しかも顔赤くなってるし、もしかしてあのメガネ鬼のこと好きなのかな。


「ねぇ、オグレスってもしかしてさ______」


 俺が(多分ものすごくニヤニヤしながら)オグレスに質問をしようとしたその時。


「おい、お前ら。そこで何をしている」


 突然背後から聞こえた低い声に、俺はビクッと肩を縮めてしまう。オグルもオグレスも小さく悲鳴をあげる。


 ゆっくりと振り返ると、そこには噂をすれば何とやらメガネ鬼のラルヴァが居た。


 長い銀髪に高身長の彼は、メガネをくいっと上げながら、


「玄関の鍵は俺が持っているから、出ようと思っても出れんぞ」


 俺はラルヴァを見上げて慌てて弁解をした。


「ち、違います。別にここから出ようだなんて思ってませんよ。こいつら……この二人に案内を頼んでたんです」


 弁解っていうより、ちゃんとした理由だよなこれ。俺が目的を持ってるだけで、状況そのものにおかしなところは無いはずだ。


 気を遣ってくれたオグルとオグレスも、コクコクと相槌を打ってくれる。


「______そうか」


 暫く俺をじっと見つめた後、長く続いた沈黙を打ち破るようにラルヴァは一言。


 それから何事もなかったかのように、俺達の脇を通って行った。


 ______と思ったのだが、俺とすれ違う直後。


「見くびるなよ」


 俺の耳元で、小さく、オグルやオグレスには聞こえないくらいの声で、ラルヴァの口が動いた。


 わざわざ、俺よりも身長の高いあいつが、身を屈めて俺の耳元の位置に自分の口が来るようにしてから、だ。


 ゾッと背筋が凍った。思わずヒッと悲鳴をあげてしまうところだった。


 でも、予想外の言葉を投げかけられた恐怖と驚きで声が出なかったのが幸いした。


 もし悲鳴を聞かれていたら、ラルヴァだけじゃなくてオグルやオグレスにも怪しまれるかもしれないからな。


 本当に良かった。不幸中の幸いと言ったところか。


 コツコツと靴音を立てながら、ラルヴァはもう一言。


「もうすぐ昼飯だ。部屋に戻れ」


 今度は、オグルやオグレスにも聞こえるような普通のボリュームで言った。


「は、はい! ご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした!」


「「ごめんなさい!!」」


 俺に倣って、二人も頭を下げて謝罪する。


 ラルヴァに目立った動きはなく、俺は床を見つめたまま遠ざかる靴音を聞いていた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「はああぁぁぁぁ」


 部屋に戻って皆で昼ごはんを食べ始めた頃。


 俺は思わず、『普通に生活してたらそんなため息は出ないだろ』と明らかに思われてしまうような大きなため息をついた。


 だってあのラルヴァの言葉。本当に怖すぎるよ。


 咄嗟の言い訳も、それがたとえ本当のことだったとしても、あいつには全部全部分かっちゃうんだ。


 下手な芝居は通用しない。愛想笑いも見透かされる。


 となると、もう次の手段は正面突破しかなくなるぞ。


 正面突破、か。俺だけならまだしもウィンディーや他の女の子達まで痛い目に遭うのは避けたい。


 でもラルヴァに対して『嘘』が通用しないなら、思い切って『本当』の行動をしないといけなくなる。


「______ちゃん。レノンちゃん?」


 ハッとして左横を見た時には、ウィンディーが不思議そうと言うよりも心配そうな顔で俺を見ていた。


「あ、えっと……何? ウィンディーちゃん」


「大丈夫? ボーッとしちゃって。何かあったの?」


 ウィンディーは俺の耳元で、右手を添えながら小声で尋ねてくれた。


 さっき耳元で聞いた言葉よりもずっと聴き心地が良いよ。


 そんな心地好さも相まって、俺は彼女に向けて笑顔を浮かべると、


「大丈夫だよ。お昼ご飯が美味しすぎて固まっちゃっただけ。あはははは」


 後頭部に手を当てながら笑ってみた。


 すると、意外にも『そう? 良かった』と返事が返ってきた。


 ウィンディーには本当のことを話しているから、てっきりもっと言及してくるかと思ったんだけど。


 それに俺も、自分の気持ちが顔とか仕草に出ないように気を付けないといけないな。


 ウィンディーに心配をかけるわけにはいかない。


 彼女達の為とは言え、俺が一方的に巻き込もうとしていることだ。


 ボロを出さないように、心配をかけないように……。


 そう言えば、玄関の鍵はラルヴァが持ってるんだったよな。


 いざとなればあの小鬼達の部屋の隣にあるベランダから脱出すれば良いけど、生贄の数も少ない訳じゃない。


 メインの出口から出た方が効率も良くなるんだけど……。


 どうするか考えつつ、あと一日下調べを続けるしかないな。


 ラルヴァに怪しまれないように、慎重に______。

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