金星
【午前2時】
【天体観測】
小さな荷物を受けとるために、そっちに取りに行くよ、と連絡した。でも彼は、家まで届くほうが楽しい!と言って、時間を確認したら、このメッセージ。
ただのアホだ、と思って適当に返事をする。
【見えないものを見ようとしよう!】
ああ、更なるアホだ。
午前2時にわたしの家まで迎えにくるらしい。
一方で金星がみえるよ、といわれて、すこし期待をした。
すこしぐらいなら付き合ってもいいか。
いつもだったら適当にはぐらかして、夜中の誘いは断るのに、その日はすこし特別だった。
【待ってて】
にっこりマークとともに送られてきたメッセージが最後で、夕方17時のやりとり。
家事をすませ、寝る支度をしても、2時までたくさん時間があった。本当にくるのだろうか、来るわけがない、でも、本当に来たら困る、と悩む。
しかし結局のことろ、わたしはベットに入り込んでしまった。
どうせ2時ごろメッセージが来るだろう、その着信音で起きたらラッキー、起きなかったらアンラッキー。
それくらいの気持ちだった。
数時間後、
目が覚めたのは奇跡だった。
ふと、あわてて携帯の画面をみると、すでに2時を10分以上過ぎていた。メッセージも数件ある。
【家どれだっけ?笑】
2時前に着いていたみたいだった。
はっと目が覚めて、あわてて返事をする。
寝間着から着替えて、外に出る。アパートの共有玄関に人影を見つけ、ほんとうに居たんだ、と思って少しホッとしていた。
「金星みにいくぞ」
彼は自転車の後部座席に座るようにうながし、私は恐る恐る座り、彼の肩に手をかける。そして2人乗りの自転車は夜の住宅街を抜けて公園へと走り出した。
その時は、ほんの少しも予想していなかった。
ただ、それから数時間のことが、
決定的なうんめいの別れ道だったんだろう、といまでは思う。