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フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~  作者: 空色蜻蛉
新緑の巨人

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125/127

122 天の川はフェンリル作でした?

 オリエントからエスペランサへ、竜を避難させる作戦に、俺も協力することになってしまった。

 夜、皆が寝静まってから、俺はこっそり野営のテントから抜け出した。

 小鳥に変身して空に飛び立つ。

 星明かりの下、兄狼の待つ見晴らしの良い丘を目指した。

 

「兄たん!」

「ゼフィ!!」

 

 元の子狼の姿に戻って、クロス兄の背中の上に落ちる。

 すると無言のままウォルト兄が、俺をくわえあげて自分の背中に乗せ換えようとした。

 

「……」

 

 二頭の狼は険悪に睨みあう。

 

「けんか、めっ!」

 

 俺は兄たんズを仲裁した。

 

「仕方ない。ゼフィの可愛さに免じて休戦だな」

「……」

 

 ウォルト兄とクロス兄はそっぽを向いたまま、背中を寄せて真ん中に俺が来るようにした。

 あったかいし、ふかふかだし、幸せだなあ。

 空を見上げると沢山の星がきらめいている。

 朝になるまでは、兄たんと一緒にいよう。

 

「ゼフィ、知っているか? あの空で白く光っている天の川は、俺たちフェンリルが作ったんだぞ」

「ふえ?」

 

 三匹で身を寄せ合って就寝準備をしていると、ウォルト兄が不意に空を見上げて言った。

 

「あまのかわ……フェンリルが?」

「そうだ。昔むかし、仲の良い人間の夫婦がいてな。死んでも一緒にいたいなどと贅沢なことを願っていた。二人は寿命で死に、魂は空に昇ったのだが、空の上は強い風が吹いているので離れ離れになってしまった」

 

 いつも無言のウォルト兄に似合わず饒舌だった。

 俺は興味津々で物語に耳を傾ける。

 

「兄たん、つづき」

「ああ。遠く離れてしまった二人が、もう一度会いたいとメソメソ泣くものだから、俺たちフェンリルの遠い祖先、空を駆ける天狼星シリウスは二人を哀れに思った。氷の吐息で夜空に光る橋をかけたのだ」

「へー」

 

 ロマンチックな話だ。

 あの天の川に、そんな物語があったとは。

 つまり、二人は再会できて、めでたしめでたし、ってことだね?

 

「まあ残念なことに、人間は氷の橋を渡れなかったんだがな。今も両端でメソメソ泣いているらしい」

「え?!」

 

 再会できたんじゃないんかい!

 

「……それで空から雨が降るのか。湿っぽい話だな、ウォルト兄」

「クロス、俺はフェンリルの偉大さをゼフィに教えてやろうとだな」

 

 兄たんズは些細なきっかけで言い争いを始めた。

 せっかく和やかな雰囲気だったのに……そうだ!

 

「兄たん、そのにんげん、乗せていってあげればいいじゃないか。かたみち一回だけだよ?」

「う、うむ……そうだな。一回で済んで、雨も止んで一石二鳥か」

 

 俺の提案に、ウォルト兄は唸りながら同意した。

 きっとフェンリルの祖先だという天狼星シリウスは、兄たんと同じくらい不器用だったのだ。せっかく空に氷の橋を作ったのに、使われないなんて、もったいないなあ。

 

 

 

 

 夜明けの時刻になった。

 もそもそ起き出した俺に気付いたウォルト兄は、そっと半身をずらす。

 ウォルト兄の腹の下に、剣の柄が見えた。

 

「天牙!」

 

 それは俺の愛剣、天牙だった。

 兄たんが持ってきていたのか。

 

「お前の牙だろう。持っていくといい」

「ありがとう!」

 

 俺は人間の少年の姿に変身すると、天牙の鞘をにぎった。

 兄たんに「またエスペランサで」と声を掛けて、元のテントの方向に歩いていく。

 しかし途中には、早朝起き出して剣術の稽古をしているパリスがいた。

 

「朝から熱心だなあ」

 

 パリスは上半身裸で剣を振っている。

 汗が蒸気になって体から立ち上っていた。

 うーん、下手にこそこそテントに戻るのは、不自然に思われる気がする。

 ここは思い切って。

 

「おはよーございます!」

 

 元気に挨拶してみた。

 

「……おはよう。おや、天牙を持って……君もその辺で稽古をしていたのか」

 

 脳筋のパリスは、俺が夜通し剣術の稽古をしていたと誤解したらしい。

 前世で戦時中だった時じゃあるまいし、徹夜で稽古なんてしないって。

 だけど、この誤解はちょうど良いな。

 

「はい。パリスさまも熱心ですね」

「使わなければ筋肉がにぶるからな。どうだ、筋肉も温まってきたことだし、立ち会いでもするか」

 

 パリスは浮き浮きした表情で、俺に実戦式の簡易試合を申し込んできた。

 朝から筋肉のことしか考えてないのね。

 

「……だが断る」

「何?!」

「いえ、パリスさまと剣を合わせられるのは光栄ですが、俺は朝ご飯の準備があるので、失礼します」

 

 俺は有無を言わせない笑顔で立ち合いを断り、早足でテントの方角へ向かった。

 朝ご飯、何にしようかな。

 背後でパリスが「飯が理由で決闘を断られたことが、以前にもあったような……」と釈然としない様子だったが、気にしないでおく。ご飯より優先するものは、この世にないのだ。



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