第一村人発見
あらすじ
謎の魔物を倒し、謎の石を手に入れた
「あ、あれはっ!」
足が棒のようになり、そろそろ限界かと思われた道中に終止符が打たれた。小さい村のような場所を発見したのである。思わず涙が滲んでくるが、ぐっとこらえて心の波を鎮める。
むしろここからが難題である。もしもここの人間に怪しまれ、問答無用で処刑なんてことになったら笑えない。
「俺の恰好変かな?何か着るものないかな」
天使報酬を発動させ、目ぼしいものがないかチェックしていく。価格が安い順に並び替えると、一番上に表記された商品が目に留まった。
《安っぽいローブ》と書かれたそれは先ほど魔物を倒して得た2GP丁度の値段。かなり水ぼらしいローブだが、旅人っぽい雰囲気を出すには最適かもしれない。
「注文確定……と」
すると、手元に注文したローブが召喚された。見た感じサイズも丁度良さそうだ。全て俺用に調整されているのかもしれない。パジャマを脱ぎ、ローブに着替える。パジャマは持っていると何か怪しまれるかもしれないので置いていくことにする。少々名残惜しいが致し方ない。
これでよし、無一文なことに関しては野党に財布を投げつけて逃走したことにでもすればいい。
「ずいぶんこじんまりとした場所だなぁ。お、あれは……人間か?」
村は木でできたボロボロの塀に囲まれており、塀から侵入するのも無礼なので門のような場所を探すと人影が見えた。第一村人ならぬ、第一異世界人発見。
「すいませーん旅の者ですが」
なるべく驚かせないように優しい雰囲気で声をかける。少しビクッとし、こちらを振り返ると顔立ちからして女の子だった。短めに切り揃えられた髪は金髪で真面目な印象を受ける。小さめな体と真ん丸で大きな可愛らしい碧眼が月明かりに照らされ、神秘的な妖精を思わせる。杖を両手で持ち、ローブを纏いブーツを履いている。
「あなたは……結界に掛からないということは魔物ではないですね?」
少し幼いが丁寧な声色で訪ねてくる少女はこちらをジッと見つめる。見た目と発言からして魔法使いというやつだろうか。
「ああ人間だよ(今はな)。道に迷ってしまってね、この村に泊めてほしいんだけど……駄目かな?もちろん、恩は返すよ。無一文だけど」
「私はこの村の人間ではないので……村長さんに頼んでみてはどうですか?村長さんの家ならあそこです。」
少女が指をさす方向を見ると、他の家よりも少し大きい家が建っていた。今の時間がわからない以上、もう寝てしまうかもしれないので、さっさと交渉しに行ったほうが良さそうだ。
「ありがとう、そうするよ。えぇっと……」
「セーレです。旅人さん」
「ありがとう、セーレ。俺はジルヴィム。ジルでいいから」
それだけ言うと、村長の家へ向かう。村の中を観察していると、人っ子一人出歩いていなかった。畑が幾つもあり、その中の幾つかが荒らされていた。どうやら泥棒被害にあっているらしい。
村長の家に到着し、扉をノックする。
「はいはい、どなたかな?」
「すいません、旅の者ですが」
出てきたのは神様よりも老け込んでいるおじいさんだった。あまり食べていないのか、痩せ細ってはいるが腰も曲がっていないし元気そうに見える。
「おぉ、こんな遅くにこんな辺境の地までわざわざ……ですがよく森を超えられましたな。今はゴブリン共が住み着いているので危険ですぞ」
「あぁ、緑色の人型の魔物ですか?一匹出くわしてしまいました」
「一匹でまだ良かったです。あやつらは群れると手に負えませんからなぁ。この村に宿屋はありませんで……この家に泊まればよろしいですよ」
「本当ですか!?」
「ささ、お疲れでしょうお入り下さい」
お言葉に甘え、中へ入ると完全木造の家だけあって木のいい香りがするのでリラックスできる。やっとまともに体を休めることができそうだ。名前を告げると、村長も名乗り返すが名前で呼ぶのも馴れ馴れしいので村長と呼ぶことにする。
「野菜のスープと黒パンしかございませんが……」
「いいんですか……?いただきまぁすっ!!」
人生最高の頂きますを放ち、料理を胃にぶち込んでいく。本日初めてのまともなご飯は美味しかった。カチカチのパンに塩があまり効いていない野菜スープだが、今の俺には十分美味しい。
「いい食べっぷりですな」
なにやら村長はニコニコと微笑みながらこちらを見守っている。そういえば……とローブの玄関の方へ向かい、置いておいた芋、キノコ、石を持ってきてテーブルに載せる。
「道中で拾ったものですが価値のあるものはありますか?お礼に差し上げますよ」
「この芋はダム芋ですな。森に自生する芋で味も良くて珍しい芋です。このキノコは……ははは、毒キノコですな。食べられませんが、ペースト状にし、矢の先端や剣先に塗ると狩りに役立ちます。ん?この石は……」
魔物から出てきた石を観察すると、俺に返却してくる。
「これは魔石ですな。魔物を倒すと稀に手に入るもので、我々は詳しく知りませんが……村に入るとき女の子がいませんでしたかな?」
「ああ、あの金髪の」
「あの子は魔法使いの冒険者でして、最近村を荒らすゴブリンをどうにかして貰おうとつい先日呼んだのです。あの方なら冒険者なのでご存知かと思いますよ」
なるほど、と納得し明日にでも聞いてみることにする。
「ところで、あなたはどこから?」
「実は何も覚えてなくて……気づいたら森の中だったんです。名前は覚えているのですが……」
「ええっ、記憶喪失……ということですか?」
神妙な顔ではい……と答える。もちろん嘘っぱちであるが、まさか天界から来ましたとも言えまい。村長はというと、こんな子供が親も覚えてないいないとは……神よ!と、罪悪感が芽生えるほど悲しんでくれている。いい人だなぁ。
「何故こんな怪しい奴に優しくしてくれるんですか?」
「ははは、恥ずかしい話ですが……死んだ孫に似ておりまして」
照れくさそうに頬をかく村長。なるほど、嫌なことを聞いてしまったな。
「すいません、余計なことを」
「いや、全然いいのです」
そこからは毒キノコを食べようか迷った話や、ゴブリンと戦った話等で盛り上がった。
それにしても意外と人間相手でもコミュニケーションとれるじゃないか。村長が特別優しいんだろうけど、なんとかなったな。
村長の話によると、今この村はゴブリンの群れに目を付けられているらしく、夜中はあまり出歩いていないらしい。あの、セーレという女の子の冒険者が警備しているというわけだ。
もし、俺がゴブリンを倒したら村の人たちは感謝するはずだ。セーレに頼んで、ゴブリン退治に協力するというのもありかもしれない。魔法使いと言っていたので、この世界には魔法が存在するのだろう。天使の体なら炎出してり空を飛ぶのも余裕だが、今の俺は人間だ。セーレにあわよくば教えて貰おう。
明日からの方針を定めた俺は村長が敷いてくれた布団に体を滑り込ませる。今までの疲れが一気に噴き出し、食べたばかりなので眠気が一気に襲ってくる。天使の時には感じたことのない睡眠欲に抗えず、深い眠りの中へダイブした。
読んで頂きありがとうございました