第9話 メグルと梅雨
「…」
外は今日もザァザァ振り。
ここ一週間まともに晴れた例がない。
「クゥン…」
ビーグが飽きたというように喉を鳴らし、尻尾で床を叩く。
それはみんなも同じようで、ハウンドの隣に佇むステリア以外、皆一様にぐでーっとしている。
「梅雨ですね…」
木の枠と葉っぱで作った扉のおかげで部屋の中にまで雨が入ってくることはないが、このジメジメとした空気はどうにもならない。
現在僕は煤を混ぜた黒い漆を木から削り出したお椀に塗っているところだ。
この体は漆に耐性がある様で、素手で扱っても全く手が痒くなる事がなかった。
と言っても葉一枚かませて漆に触るようにはしている。
塗るのも鹿や猪、セッタの抜け毛を使った筆を使ってだ。
あんまり触りすぎると急にアレルギーが出たりするらしいからね。
雨のおかげで水汲みにもいかなくていいし、胡椒の代わりが見つかったので保管の効く干し肉もそれなりに用意できた。
栄養化が偏るのは心配だが、もうしばらくは耐えられるだろう。
漆を塗った器は一杯になった乾燥棚に乗せていく。
正直、器を使うのは僕とマロウさんだけなのでそれほど数はいらないのだが、暇すぎて量産中なのだ。
僕は一通り漆を塗り終わると外にある甲羅の水桶から水をすくい、手を洗う。
ついでに空模様も確認してみるが、昼間なのに真っ暗。少なくとも日中に晴れる事はなさそうだった。
部屋に戻った僕は棚の上から籠に入ったお手製の毬を取り出す。
毬の中心には家の元食器を担当していた、直径20cm程の丸く硬い木の実が使われている。
イメージとしてはココナッツと言ったところか。
中に入っているのはドングリの様な、パサパサで苦い身なのが残念なところではあるが。
そんな硬すぎるココナッツもどきの中身を抜き、外周を木の皮、そのまた外側を動物の皮で包んだ物がこの毬だ。
作ったのは良いが結局遊びもしないので完全に忘れていた。
丈夫でよく転がるのでコッカ―達なら良い暇つぶしになるかもしれない。
試しにみんなの前に転がしてやると、皆の視線が一斉に毬に移った。
始めに手を出したのは、ちょうど毬が目に前に来たビーグだった。
押された毬はレトの方へ転がり始める。
レトは興味なさ気に尻尾で毬を跳ね返す。今度はコッカ―の方へ。
コッカ―はよし来た!と言わんばかりに毬に飛びつくと、毬を前足で弄り始めた。
中々毬が回ってこない事にしびれを切らしたビーグがコッカ―に絡むと、暫くのじゃれ合いの末、毬の取り合いが始まった。
お互いの体を抑え込むことなく、毬だけを奪う。
あれはあれで遊びとしてルールが成立しているようだった。
セッタは相変わらずマロウさんを独り占めにしていて、それだけで満足なようだった。
マロウさんもマロウさんでセッタを膝の上で撫でつつ、皆の様子を楽しそうに見守っている。
ハウンドはコッカ―達を見てうずうずしているようだが、凛と佇むステリアの手前、動きだせないのか、悲しそうに尻尾を揺らしている。
雨が続いているにもかかわらず、相変わらず帰ってこないシバは一体どうしているのだろう。
そんなことを考えつつ、新しい籠を編み始めた僕を見てレトは退屈そうに欠伸をした。




