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Grow 〜異世界群像成長譚〜  作者: おっさん
むかえに来たよ。
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第82話 ベルガモットと姉妹の日常

 あぁ…!寒っ!


 吐く息は白く、日が昇りかけた世界には(もや)がかかっている。

 まさに冬の朝という感じだった。


 僕は服のポケットに手を突っ込み、身を縮ませる。


「コランさん!昨日また私のベットに潜り込みましたね!(よだれ)()らすんだからやめてください!」

「えへへへぇ…。ごめん」


 外に出ると朝っぱらからリリーにコランが(しか)られていた。

 コランは(そで)(すそ)の短い服を着て、額には汗を流している。

 朝は一段と冷えると言うのに、よくあんな格好で動けるものだ。


 コランの脇には、彼女が相棒と呼んでいる薙刀がある。

 きっと、いつも通り、特訓とやらをしていたのだろう。


 リリーは「もう!」と言いながら、手に持っていた洗濯籠からタオルを取り出す。

 そして、そのタオルをコランの顔に、強引に布を押し付け、彼女の汗を拭いた。


 コランは「うわぁあああ」と、棒読みな悲鳴を上げ、なされるがままである。


「ほら!ふざけてないで、自分で拭いてください!」

 そう言われたコランは「はぁ~い」と、気の無い返事を返し、タオルを受け取る。


 まるで親子のようだった。

 どちらがどちらとは言わないが。


 (ちな)みに、リリーは家の家事全般を手伝ってくれている。

 今日は天気が良さそうなので、朝から洗濯物を洗っていたのだろう。

 …この寒い中、水仕事なんて、僕には無理だ…。


「あ!おはよ~!ベル」

 こちらに気が付いたコランが、片手をあげて振ってくる。


「おはようございます。ベルガモットさん」

 それに釣られて、こちらを向いたリリーは深々とお辞儀をしてくる。


「おはよ。二人とも」

 僕はポケットから手を出す気にはなれず、身を縮めたまま、お辞儀を返した。


「今日も寒いですね」

 手を真っ赤にしたリリーが言う。

 朝の水は身を切るほど、冷たかっただろうに。


「そう?私はこれぐらいがちょうど良いけど」

 汗を拭きながら相槌(あいづち)を打つコラン。

 そんなコランを、僕とリリーはジト目で睨む。


 それはお前だけだ。と。

 (ある)いは、黙れ、筋肉馬鹿。かも知れない。


「朝から悪いな。リリー。洗濯籠、持つよ」

 僕はポケットから手を抜き出すと、彼女の手から洗濯籠を奪った。


 了承などは得ない。

 彼女が遠慮する事を僕はこの数十日間でしっかりと学んだのだ。


 洗濯籠を奪う一瞬。彼女の冷たい指が、僕の手に触れる。

 氷のようだと、心配になってしまうほどだった。


「あっ」

 驚いたように声を上げるリリーだが、不満そうな顔をする事は無い。


 それどころか「ありがとうございます」と最高の笑みを返してくれるのだ。

 僕はそれが嬉しくなって「気にしないで」と答える。


「じゃあ、私はもうちょっと体動かしたら、食堂に行くね~」

 相手にされずに、飽きたのか、コランは相棒を担いで森の中に消えて行く。

 きっと、今日も獣を狩ってきてくれるのだろう。


「コランはすごいよな。一人で大喰らいを狩ってきちまうんだから」

 コランの消えて行った方向に目をやりながら、僕はそう呟く。


「家の馬鹿姉さまは、力だけが取り柄ですからね」

 リリーは呆れたように呟く。


 コランの前では(かたく)なに姉さんと呼ばないのに…。

 こういう所で、ポロッと零すところ、しっかりと認めてはいるんだろうな。


 僕はそう思いながらも、口には出さない。

 顔を赤くするリリーは可愛いのだが、数日間、口を利かれなくなるのは、ショックが大きいからである。


「僕も、もう行くよ。これ、いつもの場所に干しておけば良いんでしょ?」

 僕はリリーの方に顔だけを向けて聞く。


「はい、お願い致します」

 リリーは腰を折って深々と頭を下げる。

 もう慣れたので指摘はしないが、そんなにしなくても…。とは思う。


「では、私は一足先に食堂へ向かっていますね」

 そう言うとリリーは家の中へと消えて行く。


「うん!今日の料理も期待してるからね!」

 僕は手を振り、彼女を見送った。


「さて!行きますか!」

 僕は洗濯籠をしっかり持つと、歩き始める。


 これが、僕とデコボコ姉妹の新しい日常だった。

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