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Grow 〜異世界群像成長譚〜  作者: おっさん
むかえに来たよ。
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第81話 メグルと別れ

「はぁっ!」

 まず僕は土の板壁を母さんの前に配置した。


 母さんは驚く事もなく、左腕を振り下ろし、それを破壊する。

 どうやら母さんは僕が魔法を使う事を知っていたようだった。


 本当に、母さんは僕の事なら何でも知ってる。

 …その目を、ちょっと、シバにも向けてくれたらよかったのにな。


 きっと、いくら壁を作った所で破壊されるか、回り道をされてしまう。

 母さんを囲えれば一番良いのだが、残念ながら、僕の魔力量と、操作技術では難しい。

 土壁の出現が遅すぎて逃げられるか、壁の一部が(もろ)すぎて突破されるかの二択だろう。


 それならばと、僕は先ほどより分厚い土壁を出現させる。

 当然、母さんはもう一度、腕を振り下ろすが、腕や爪の当たった部分は泥の様に崩れ落ち、瞬時に元の壁に戻った。


 接触を魔力で感知し、強い衝撃だけを泥状にして逃しているのだ。

 難しい操作なので、広範囲で行えないのが傷だが、姉さんの牙さえも跳ね返した特性の魔法だ。

 母さんとて、そう簡単には破れまい。


 母さんは一、二度腕を振るうと、諦めたのか、回り道をしてくる。

 思ったよりも、母さんが冷静で時間が稼げなかった。


 僕は焦りつつも、分厚い土の壁を母さんの方向に向かって流し溶かす。

 これには母さんも驚いたようで、一瞬のうちに泥に飲み込まれてしまった。


 僕は母さんが泥から顔を出したのを見計らい、土を固める。


「よしっ!」

 流石の母さんでも、身動きが取れなくなればこっちのもの…。

 と、思っていたのだが、母さんは力んでいる様子もないのに、辺りの土が盛り上がって行く。


 僕は急いで、母さんの周りの土に込められるだけの魔力を込める。

 これが、今僕が土で出せる最大硬度だ。


「だ…。駄目か…」

 土の中から難なく()い出した母さんは、またしてもこちらに向かってくる。


 しかし、母さんは魔力を扱えない。

 そうなればどこまで行ってもここは僕のフィールドだ。


 僕は母さんの足元を緩くして行く。

 未だ僕の魔力が残っている土たちは、すんなりという事を聞き、母さんの体を再び飲み込んで行った。


 手をかけて上がろうにも、泥の様に崩れ落ちる。

 かと言って進もうとすれば、壁の様に固くなり、進行を阻害(そがい)する。

 変化する土を前に、母さんの進行は止まった。


 いつの間にやら僕は、母さんより強くなっていたらしい。

 そう考えると、自然と口角が上がった。


「もう諦めたら?母さん」

 気分の良くなった僕は挑発気味に言葉を投げかける。

 しかし、その余裕の表情は、母さんの鋭い視線によって崩された。


 あんな目で見られたのは初めてだった。

 怒ってる?怒ってるの?

 嫌われちゃった?


「そ、そんな目をしたって怖くないからね!僕は母さんより強いんだ!絶対に逃がさない!」

 そうだ。そうだよ。

 僕は母さんより強いんだ。

 母さんが僕を捨てようとしても、逃がさなければ良い。

 強ければ何でも手に入るんだ!


「そうよ…」

 彼女が耳元で(ささや)く。


「力があれば、何だって思い通り。あの女も手に入るし、シバだって生き返る。世界の嫌なところ、全部壊して従わせられる」

 彼女は、「ほら」というと、健康体になったシバを見せつけて来た。


「でもね。こういうのは今回だけよ?」

 彼女は続ける。


「これは私の力。貴方は貴方の力で貴方のしたい事をすれば良い」

 そうだ。確かにこれは僕の力じゃない。

 でも、僕に力があればできる事だ。


 もし、母さんたちが死んでしまったらどうしよう。

 次は彼女の助けが借りられない。


「簡単よ。貴方も私と同じだけの力を手に入れれば良い」

 彼女の言う通りだった。

 でも、どうやってそんな力を…。


「一緒に来ない?」

 彼女が僕に手を差し伸べる。

 きっと、母さんたちは連れて行けないだろう。


 僕は今一度、母さんを見つめる。


「ダメよ!メグル!」

 母さんは必死な表情をして、叫ぶ。

 心の底から、僕を心配してくれているようだ。


 …なぁ~んだ。僕、嫌われてなかったんだ。

 僕は安堵の息をつくと、少女の目を見る。


 いつの間にか、彼女には顔ができていた。

 何故、今の今まで僕は気が付かなかったのだろう。


 そんな事を思いながらも、僕は彼女の手を取る。

 彼女はその手を満足そうに握ると、笑顔を返してくれた。


「母さん。皆。行ってくるね」

 背後の森に向かって別れを告げる。


 長くなってしまうかもしれないが、それでも皆でずっと楽しく暮らすためだ。

 彼女に手を引かれると、僕は涙を堪えて、笑顔で森を後にした。

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