第57話 メグルと惨状
僕は燃え盛る村に向かって地面を蹴った。
それと同時に靴の裏に描いた爆発の魔導回路を活性化させる。
そうする事で地面を蹴る力が何倍にもなった僕は、足の痛みを堪えつつ、人間とは思えない速度で跳躍した。
空中では両腕のグローブに描かれた、気体を操る魔導回路で風を起こす。
掌の向きを変える事で、風の向きを変え、何とか倒れないように体勢を維持した。
余裕のある時は掌を背に向けて、さらに加速して行く。
爆発の威力、風の向き、それぞれの発動タイミング。
様々なものに気を配らなければならないので、神経が削られる。
しかし、一分もかからずに村の近くまで来れたのだから、その恩恵は大きいだろう。
…まぁ、目の前に広がる赤の海を見れば、その恩恵にどれだけ意味があったのかについては疑問が残るが…。
「なんだ…これ」
僕はそれが何かわかりながらも、そんな事を呟く。
人の焼ける嫌な臭い。
鼻をつく鉄臭さが吐き気を助長する。
暗くてあまり辺りが見えないことが幸いした。
そうでなければ僕はこの場で吐き戻してしまっていただろう。
「誰がこんな事を…」
この場所には魔力の痕跡がある。加えて、燃料になるものがない。
村からも離れている為、村人が燃やされた炎は魔術的なもので間違いないだろう。
どこか見覚えのある魔力だったが、思い出せない。
僕は魔力の痕跡を慎重に追う。
この量の魔力を垂れ流すという事は、相当な実力者に違いない。
もし、戦闘になった際、同じ技では撃ち負けるだろう。
しかし、相手は魔力の痕跡を隠蔽していない。
その余裕に漬け込むか、或いは魔力の扱いが拙い事を願って足を進める。
「あ…れ?」
暫く進むと人影が見えた。
如何やら子どもらしい。
あのシルエット…やっぱり見覚えがある。
暗くて良く見えないけど、この魔力の色と、僕と交流がある子ども…。
村の子どもは皆明るい色と、甘い香りをさせていた。
対して、この魔力は黒に近い様な青。
そして悲し気な香りをしていた。
こんな魔力を漂わせていたのは…。
あ、あぁ…。分かった。カーネさんだ。
しかし、何故こんな事を?
それに彼女はこれほどの魔力を所有していなかったはずだ。
何かがおかしい。
そんな事を思っていると、彼女の視線がこちらに向いた。
バレてしまったらしい。
僕は屈めていた体を起こし両手を上げる。
戦う意思がない事を伝える為だ。
しかし、彼女はお構いなく、付きだした掌に魔力を集めて行く。
交渉の余地はないようだ。
瞬く間に彼女の掌の上に、拳大の火球が生み出された。
僕は少しでも彼女との距離を縮める為、地面を蹴る。
動く的には当てにくいだろうし、なにより、彼女の魔力量では持久戦になった場合、僕が大敗する。
せめて、手の届く距離まで!
僕は拳を握った。




