表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Grow 〜異世界群像成長譚〜  作者: おっさん
ダメ!それは私の!
53/130

第52話 ミランと親心

「あの馬鹿…!」

 またしても一人、森の奥に入って行ったという娘。


 その呆れ果てるような行動に私は悪態(あくたい)()く。

 一体何度心配をかければ気が済むのか。


「しかし今回は彼もいる。心配はないだろう」

 娘の事を教えてくれたカクタスさんが、(なぐさ)めるように私の肩を叩く。


「それはそうですけど…。そう言う問題ではありません!」

 帰ってきたら尻たたきの(けい)ね!

 そう言って平手打ちの練習をし始める私。


 カクタスさんはそんな私の様子を見て笑う。

 カーネちゃんの事があってか、どこか深刻(しんこく)そうな顔を続けていた(ため)、私はほっとした。


「まぁ程々にしてやってくれ。私の監督不行(かんとくふゆ)き届きが原因でもあるからな。…それにコランがそんなに怒られてしまうと、同じことをしたリリーまで(しか)らなければならなくなる…」

 後半、声が(しり)すぼみになるカクタスさん。


 緊急事態(きんきゅうじたい)には怒号(どごう)を飛ばし、皆をまとめ。前線は体を張ってみなを守る。

 そんな(おに)の衛兵長も娘の事となると、たじたじになってしまう様だった。


 それでもカクタスさんはカーネを叩いた。

 嫌われても良い。絶対に間違ったことはさせない。

 そんな愛情が強く感じさせられる場面だった。


 しかし、人に近づこうと努力しているリリーちゃんを叱って、(ふさ)()まれるのはやはり怖いらしい。


 リリーちゃんはカーネちゃん程強くは無いのだから。

 そう思っているに違いない。

 …まぁ、女から言わせれば恋する少女は無敵なのだけれどね。


「難しいですね」

 そんな私の言葉にカクタスさんは驚いたような反応をする。


「あ、あぁ。すまない。コランも私に同じ言葉をかけたものでな」

 その言葉に、今度は私が驚く(ばん)だった。


「あの子がそんな事を…。成長しているってことなんですかね?」

 カクタスさんは私の言葉に肯定(こうてい)()(あらわ)した後、カーネにも見習ってほしいものだ。とわざとらしく頭を抱えていた。


「まぁこれほど皆に心配と迷惑をかけているようではまだまだですけどね」

 同感(どうかん)だ。と(うなず)くカクタスさん。


 しかし、私も食糧難(しょくりょうなん)の時に一人森に向かっていたら皆に心配をかけていた事に変わりはない。

 カクタスさんにしても、娘を叩いたことで珍しく落ち込んでした。


 その様子を見た私が心配になったのだから、誰かに心配をかけないなんて言う事は到底無理(とうていむり)な話なのだろう。


 だから私達にとって、いつまでも彼女たちは子どもなのだ。

 歳をとっても。立派になっても。


 何故かって?そんな事は決まっている。私たちは親で、あの子たちはその子どもだからだ。

 いつまで()ってもどれだけ成長しても心配しない日など無いだろう。


「その内、お父さん臭いから嫌い。とか言われたりして…」

 私がそんな意地悪(いじわる)を言うと、カクタスさんはあからさまに肩を落としてげんなりとした。

 カクタスさんの素直な反応を見て、私は無邪気(むじゃき)に笑う。


 私達だって誰かの子どもだ。子どもたちが思うほど大人じゃない。

 それでも、私達には教え(みちび)義務(ぎむ)がある。


 子どもたちが成長していくために。

 (いと)おしい()が子が幸せを掴み取れるように。


 ふと、軽い雰囲気を(まと)っていたカクタスさんが姿勢を正した。


 私も、元とは言え、死線(しせん)(くぐ)()けて来た冒険者。

 その気配(けはい)に気づくと、携帯(けいたい)していた剣に手をかける。


 コランがいなくなった日、以来(いらい)、何があっても良い様に、何があっても彼女を(まも)れるように武器を携帯していたのだ。


 今回この場所にコランはいないが、私達が死んでしまったら(だれ)もコラン達を守れなくなる。

 こんな場所で無責任(むせきにん)に死ぬわけにはいかないのだ。


「…子どもたちにも苦難(くなん)用意(ようい)してやらねばならないのだろうが…。私達が用意する苦難はもう少し(やさ)しい物にしてやりたいな」

 この状況に対して皮肉(ひにく)めいた事を言いながら、カクタスさんが笑う。


「同感です。これはちょっと(きび)しすぎますよね。せめてもう少し心の休憩(きゅうけい)時間が欲しいと言うものです」

 そう言って私も剣を(かま)える。

 これは守るための戦いだ。

 私達を。ひいては子どもたちの未来を。


「死ぬ事も自由にできないとは。親とは難儀(なんぎ)なものだ」

 (さと)ったように(つぶ)くカクタスさんに私はカチン!ときた。


「男が何を言ってるんですか!私なんて料理に洗濯、掃除にお世話!自分の時間なんてこれっぽっちも無いんですからね!」


「わ、分かった!悪かったから剣先をこちらに向けるな!」

 慌てて両手を頭の位置に上げるカタクスさん。


「分かればよろしいのです。…さて、行きますよ!」

「あぁ!」


 私達は気配のする方向に向かって()ける。

 明日の献立(のんだて)を考えながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ