第38話 メグルとドキドキ
た、助かった…。
僕は小さな女の子に守られて九死に一生を得た。
始めはカーネさんから順調に情報を引き出していたように思う。
しかし相手の姿勢がどんどんと食い気味になってきた為、切り上げようとした所、追撃をするようにコランさんが会話に加わってきたのだ。
獲物を追っていたら、いつの間にやら相手の縄張りに引き込まれてしまった時の気分だった。
あの時は姉さんにきついお仕置を受けたので記憶に染み付いていると思ったのだが…。
何かに夢中になっていると周りが見えなくなるのは僕の悪い癖らしい。
僕は女の子に「ありがとう」と言うと、彼女は幸せそうな顔で僕の頭を撫でて来た。
どことなく母さんに似ている挙動に少し安心する。
「僕は周です。貴方のお名前は?」
僕は幸せそうな表情をする女の子に声を掛けた。
「私はリリー。宜しくね」
思った通り、相手はカーネさんの妹であるリリーであった。
…しかしイメージとかなり違う。引っ込み思案で重度の人見知りと聞いていたのだが…。
ただ、この子がいつもと違う行動をとっているであろう事は、彼女の後ろで驚いたように固まっている二人を見て分かった。
…しかし原因が分からない。
僕は首を捻りながらも、こちらの方が接しやすくていいか。と切り替える。
「改めてありがとう。もう少しで手が出ちゃうところだったよ…」
僕はそう言いながらお礼代わりになりそうなものを懐のポーチから探る。
確かこの辺に…あった。
「お礼にこれあげる」
僕が彼女に手渡したのは姉さんが遠吠えをしている姿を模したブローチだった。
「黒い…狩人?」
リリーがブローチを見ながら呟く。
そう、このブローチは黒いのだ。姉さんを模して作ったにもかかわらず黒。
つまりハウンドに見えてしまうわけだ。
ハウンドを模した装飾品…。
身に着けているだけで不幸になりそうだ。
と言う訳で持て余していたのである。
しかし何も知らない彼女であればカッコいい装飾品どまりだろう。
その方がこの作品も救われるというものだ。
「あぁ、この森に棲む夜の隠れた王さ。白の女王は力で有名だけどこいつは頭で狩りをするから僕にとって知恵と勇気の象徴なんだ」
今まで微塵も感じた事のない様な話の内容をぺらぺらと喋る。
正直自分でも何を言っているか分からなかったが、何とか意味のある話として紡ぎ切った。
リリーは「そうなんですか…」と言うと興味深そうにブローチを観察し始めた。
金属加工はかなり高価ではあるが、この世界でも行われている。
…不審な点はないはずだ。
「そうだ。これもつけてあげる」
僕は姉さんの夏毛で編んだ糸をブローチに通す。
「この糸は白の女王の毛だからね。これで森の王者二人の加護が受けられるんじゃないかな」
そう言ってリリーの首にネックレスになったブローチをかけると…。
ん~…やっぱり女の子にモノクロは似合わなかったかな…。
リリーはお礼を言ってネックレスを受け取った後もそれが気になるのかずっと手で弄って観察していた。
…気に入らないアピールじゃないよね?
同年代とあまり接したことのない僕は内心、焦る。
しかし、姉さん達といるだけでは味わえないこの感情に僕は終始ドキドキしていた。




