第25話 メグルと建前
僕は目の前に倒れる少女を見て、如何したものかと首を捻った。
つい先ほどまでは兄弟みんなで森を散策していたのだが...。
今までは姉さん単独で僕の面倒を見ると事が多かった。
しかし、僕が魔法を使える事が知れ渡り、姉さんがそれを独り占めにしている事が兄弟にばれてからは、ずっと、兄弟皆が付いてくるようになった。
兄弟たちは僕が魔法を使っている姿を見ているだけなのだが、魔力の流れでも見えているのか、どんどんと制御が上手くなっていき…。
とても悔しい事に体内で魔力を使う分には、僕よりも上手くなっていた。
また、魔力の感知能力に至っては僕の十数倍で、彼女を見つけたのも兄弟達だったのだ。
因みにその時の僕はと言うと、皆が一斉に一か所を向いたためにその方向に向けて意識を集中させてみたが、全く分からなかった。
完敗である。
しかし流石にこれだけ近付けばこの辺りで魔力が使われたことが感じ取れた。
「魔導回路の代わりになったのはこれか…」
僕が未だに魔力を帯びる薙刀に手を伸ばすと、シバがそれを咥えて持ち去った。
「…え?」
一瞬の出来事に面食らい、振り向く頃にはシバの姿は無かった。
…美味しそうな魔力に耐えられなかったのだろうか?
それとも珍しい物にいてもたってもいられなくなったとか?
原因はよくわからないが、そんな事よりも、まずは目の前で眠る少女の事が最優先だろう。
どうするべきなのだろう…。
ここにこのまま置いて行くのは論外として、家に連れて帰るべきか、この先にある村に届けるべきか。
家にいったん連れて帰り、話を聞くのが安全だろうが、そろそろ村にも顔を出したいと思っていた。
なんせ家のものすべてが手作りである。
服に至っては作れていないし、ちゃんとした家具なども欲しい。
これは僕の中でちょうど良い切っ掛けだった。
少女の安否云々《あんぴうんぬん》は差し引いて、しっかりと、今、村に行く理由ができたのである。
それにもしこの子がその村の子どもであれば食料や小道具よりもずっと良い交渉材料になるだろう。
上手くいけば信頼もえられて一石二鳥だ。
そうでなかった場合は家で引き取って目を覚ましてから事情を聴けば良い。
村に行くことを軽く考えているように感じさせる僕だが、今まで足が向かわなかった時点で察してほしい。
自分が黒髪であるという事がどういうことか忘れていない。
人間が怖いものだという事は忘れていないのである。
僕は既にいくつかシミュレートしていた、安全な役回りから、現状にぴったりな物を引き出す。
そしてその皮を被ると、同時に自身でも分かるほど悪い笑みを浮かべた。
その笑みは役から来たものか、はたまた過去の自分を思い出してのものだったのか。
どちらにしろとても気持ちの良い気分で少女を担ぐと、姉さんに跨って村に向かう。
夜闇に溶けるその風貌たるや、昔話に出てくる悪魔そのものであった。




