第21話 コランと大人びた彼女
現在、作戦会議から一日明けて、翌日の昼間。
深夜は危ないからダメ。
早朝はみんなが起きた時にいないことがばれて騒ぎになるからダメ。
と、言う事で昼間に堂々《どうどう》と出て行って、堂々と帰ってくるという作戦になった。
因みにボツ案を上げたのは全部わたし。
あまりの居た堪れなさに泣き出しそうになっているわたしを「考えつく可能性を潰していく事で道は開けるものだよ」と慰めてくれたカーネには本当に惚れそうになった。
…まぁ何言ってるかはよくわかんなかったけどね…。
なにはともあれ、いつも通り遊びに行くような感覚で家を出て、カーネちゃんと合流した。
後は村を出るだけだが、いつもより警備が厳しい。
なんせ森から動物がたびたび村に降りてくるのだ。警戒しないわけにはいかない。
しかし警備と言ってもみんないつもは農作業などをしている村の人、正式に衛兵をしているのはカクタスさんぐらいだ。
それに警戒しているのは森の方面と食糧が中心で、既に収穫が終わった畑には警備がいない。
私たちはその畑の方を回って森に向かった。
内心ドキドキだったが、やっている事はただの散歩だ。
みんなも特に怪しむ様子はなく何人かに軽く挨拶をした程度で、あっという間に森まで辿り着いてしまった。
流石カーネちゃんの立てた作戦なだけはある。
しかもこの作戦、もしわたしたちに何かあっても遅くまで帰ってこなければ大人たちが探しに来てくれるという算段だ。
やっていることはいつもと同じ散歩なのに…。
やっぱりカーネちゃんは天才である。
森を前にして凛々《りり》しい顔を一層引き締めるカーネちゃん。
その横顔に見惚れていると、急にカーネちゃんが振り向いた為、視線が合ってしまう。
しかし、カーネちゃんは特に気にしたような様子もなく、私の羽織物についていたフードを持ち上げ、被せてくれた。
小さな手が頬に触れた瞬間、ドキッとしたが、私の赤い髪を動物たちから隠すのにフードを被ることは作戦で織り込み済みだった為、少し恥ずかしくなる。
恥ずかしさで俯いているわたしの前にカーネが手を差し伸べる。
その手を掴んでカーネを見上げてみれば同じくフードを被って微笑んでいる彼女がいた。
その表情に完全に魅入られてしまったわたしはそのまま彼女に手を引かれ、森の中へと入っていく。
まるで森の精に誘われ攫われる男の子のようだな。と思った。
…男の子。わたしも男の子に生まれたかった。そうすればカーネと…。
そんな事を考えていると、カーネがしゃがんで雨避け草を摘み始めた。
わたしはあのグニグニした感じと、雨避けの下のヒダが嫌いなのだが、食べ物が少ない今はそんなことも言っていられない。
私も落ち葉を払って木の周りを調べる。
…が、赤や茶色、はたまた白色など、どれが食べられるのか全く分からない。
手当たり次第全部拾ってみたが、悲しいかな、殆どカーネに捨てられてしまった。
やはり私には雨避け草の採取は向いていないらしい。
諦めて木の実の採取に切り替えるが、落ちている木の実はほとんど食べられていた為、木の上にもぼって取る羽目になった。
わたしのやんちゃな場面が初めて役に立った形だ。
…我ながらまったくもって誇らしくない。
初めはそんな事を思っていたが、わたしが木の実を落としてカーネが拾うという作業はとても充実した時間になった。
そうして一日目は何事もなく終了。
二人の背負い籠が一杯になったのでかなりの収穫量だろう。
背負い籠は村の外。外れも外れにあるわたしの家の納屋に隠した。
ここならば村に入るときに誰にも見つからず、安全に保管できると言う訳だ。
ここにしまってあるのは農具ばっかりで来年までは使わないしね。
わたし達は納屋で明日の予定を立てると解散した。
狭い空間で二人きり。
互いの荒い息遣いが聞こえ、何か悪い事を気がしている気がしてドキドキした。
今日だけでわたしはどれだけドキドキしているのだろう。
主にカーネのせいだけど…。
かっこよすぎるのが悪い。
見た目も良くて、頭も良くて、優しくて。
そしてそれを知っているのは子どもたちの中で私だけ。
ちょっと酔ってしまいそうになる。
高揚、覚めやらぬまま、わたしも納屋から出ようとする。
と、納屋の隅、そこにはきれいな薙刀が立てかけられていた。
今まで見たこともないが、きっと納屋の奥に布でも被せて、積まれてあったのだろう。
…これがあれば獣を狩れるだろうか?
わたしがそんなことを考えながら薙刀を握ると、途轍もない力が流れ込んできた。
今なら何でもできるかもしれない。そんな気分にさせるような力だ。
日はもう傾いていた。もう帰るべきだろう。…でも、今なら。
わたしは気づくと駆けだしていた。
景色がいつもとは比べ物にならない程早く流れていく。
わたしの身長の倍以上ある薙刀も今なら体の一部のように操れる気がした。
そうしてわたしは再び日の傾く森の中に消えていった。




