第18話 セッタとメグルの成長
「クワァ~」
今日も平和だ。
敵襲も来なければ、大物が出て呼ばれるようなこともない。
メグルはこの頃、泥で出来た槍と盾を愛用していた。
どちらも芯の部分には木の棒と木の板が使われているのだが、メグルが奇怪な模様を描くと、その周りに泥が付き、あのような形になっているのだ。
盾に関して言うならば泥のせいでまともに爪や歯が立たず、剥いだ泥もすぐに元通りになってしまう為、かなりの防御力があるだろう。
しかし、その重さの為か、メグルは扱いに四苦八苦しているようだった。
私が暇つぶしに相手をしてやると、すぐに疲労から集中が切れ、泥を纏わせる事すらままならなくなってしまう。
槍に関しては論外。
重いだけで殺傷力に乏しく、メグル自身も失敗作だと言っていた。
それでも装備し続けるのは訓練のようだった。
重さに耐えながら、奇妙な術を使い続ける事数十日。
その甲斐あってか、動きは幾分かましにはなっていた。
それに、泥の装備から放たれる甘美な香りが少なくなっている。
きっと必要最低限の力で操れるようになってきたのだろう。
…あ、倒れた。
久しぶりに倒れたメグルの顔を舐めるが苦しそうな表情をするだけで目覚める様子はない。
こうなってしまうと明日の夕方まで起きないだろう。
初めの内は倒れてばかりだったのだが、この頃はうまく制御できていたようなので安心しきっていた。
きっと少し無理をしてみたのだろう。
ぎりぎりのラインを保ち続けた方が何事も鍛えられるというのに…。
無茶をする子だ。
その日もメグルが倒れた以外に特に異常はなく帰路に着く。
皆はメグルが眠ってしまったと思っている。
それでもうなされる様に苦い表情をしているメグルの事が気になるのか、心配そうに様子を見ていた。
きっとメグルが急に倒れる原因は私たちの冬眠と同じ原理なのだろう。
甘美な香りの元がなんだかの力だという事は分かっている。
その力を使い果たしたが為に、意識を失い体が力の消費を抑えたのだろう。
生物ではよくある現象だ。
私は母さんにメグルを渡すと、兄弟を寝床に置いて再び朝の森に駆けだした。
日に日に成長していくあの子を見ていると体のムズムズが止まらない。
きっと明日にはもっと強くなって目覚めるだろう。
今は体力と謎の力の制御を中心に行っているが、力が安定してくればまた新しい技を発明するかもしれない。
そうなればあの子はまた数段強くなる。
その内に私なんて目じゃない強さになるだろうし、彼自身それを望んでいるようだった。
こんな気持ちは久しぶりだ。
この森で最強になった後は唯々日々を過ごす事だけに時間を使っていた。
それも良い。良いのだが、やはり張り合いがなかった。
私もメグルの甘い力に触れて、食べて、使い方を見て、なんとなく分かってきたのだ。この力が何なのか。
「ワォ~ン!」
気持ちが高ぶり、久々《ひさびさ》に遠吠えを上げてしまう。
彼もまだまだ強くなる。だとしたら私もまだまだまだ強くなれるはずだ。
もう夜の森は飽きた。
手始めに昼の女王にでもなってみるのも一興かもしれない。
そんな事を考えながら私は獲物を探して森の中を駆け回った。




