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第17話 セッタと狩りの時間

間を取ってセッタ目線で!…ちょっとわかりにくいかな?

 はぁ…また母さんは…。


 私は白い巨体を持ち上げると、メグルを抱えて離さない母さんの下に向かう。

 今は夕方。私たちが狩りに出る時間だ。


 メグルはあの日以降、自主的に狩りについて来ようとするのだが、それを嫌がる母さんが駄々《だだ》をこねる。

 心配なのは分かるが、少し過保護すぎるというものだ。


 唯一の救いはメグルが嫌がっていないというところだろうか。

 流石の私でもあそこまでしつこくされたら苛立ってしまう。


 しかし、そんなメグルも夜の時間だけはゆずれないようで、母さんを説得して脱出をこころみる。

 それでも離れないときは…私の出番だ。


 きっと昨晩、怪我をして帰ってきたのが気に入らないのだろう。

 しかし、擦り傷の一つや二つ草むらの中を走れば当然できる。

 そんなことは母さんも分かってはいるのだ、分かってはいるのに放したくない。

 もう説得ではどうにもならないだろう。


 私は母さんの首根っこを咥え、持ち上げる。


「あぁ!待ってメグル!私を置いていかないで!」


 母さんは演技掛かった様子でメグルに手を伸ばすが、本気ではない。

 きっと自分でも止めてほしかったのだろう。


 そのまま奥の部屋に母さんを引きずり込むと、口を離す。


「まってセッタ!」


 母さんがきびすを返そうとした私にしがみついた。

 私はいつものか…と思いながら顔を向ける。


「メグルの事お願いね?あの子は人間で、その上子どもだから貴方や私の何倍も弱いの。だからちゃんと守ってあげて?お願いね…」


 そんな事は分かっている。

 「ワゥ」と軽く声を上げると、丁度メグルが隣の部屋からやってきた。


 メグルは少し気まずそうな表情で笑い「行ってきます」と言う。

 母さんはそれを聞いて安心したような、それでもなお不安そうな、相反した表情で「行ってらっしゃい」と答えた。


 私は母さんの気が変わる前にメグルを咥えて背負う。

 母さんは小さな声で「あっ」と声を上げたが、それ以上何も言うことなく、笑みを浮かべた。


 今生の別れと言うわけでもない…なんて軽い事は思わない。いつだって森は死と隣り合わせだ。

 実際に死んでしまった兄弟もいる。

 そのような事実をまえての見送りなのだ。


 私達は洞窟を出ると、外で待っていた兄弟たちが後ろをついてくる。

 森を抜け、川を越えればそこは私たちの狩場。


 ハウンドがいち速く駆け抜け、夜闇の中に消えていく。

 それに合わせて反対側の草むらにステリアが消えていった。


 あの二人は獲物がいても襲いはしない。

 私たちにしか聞こえない高い音を出して標的を知らせるのだ。


 他の兄弟たちはレトを中心に固まって森の中に消えていく。

 シバは少し距離を置き気味ぎみだが、あれはあれで、遊撃ゆうげき、待ち伏せ、追撃、何でもありの有能な狩人だ。

 皆とは少しギスギスしているが…。

 狩りの時にそのような様子を見せる程皆子供ではない。


 私の仕事と言えば、皆の指示を待つだけだ。

 こんな目立つ色の巨体で歩いては獲物が逃げて行ってしまう。それに皆と距離を置けば有事の時に対応できない。

 私の仕事は敵と出くわすか、大物を仕留める時だけなのだ。


 そしてその自由時間がメグルの目的。武具に見立てた動物の骨などに奇怪きかいな模様をっていく。


 そこに骨の粉や、石の削りカス、植物や獲物を乾燥させ粉末状にしたものを詰め込むと、最後に自身の血を吸わせて、固める。何度見てもおかしな光景だ。


 メグルはそうして出来た棍棒の様な骨を握ると、死の沼に豪雨の時期にだけ打ち上げられる死体から感じる甘美な香りを漂わせ、骨を平行に振るった。


 瞬間、骨がその振りに合わせて自身も移動するように加速。

 メグルはその振りに耐えられなくなり、棍棒から手を離すと、腕を離れた棍棒は速度そのまま、少し飛行した後近くの木にぶつかり砕け散った。


 実に危ない。絶対に母さんの目の前ではできないだろう。

 もし一度でも見せようものなら今の監視が数倍、きびしくなる。


 これでも最初の手元で大爆発していた頃に比べればましになっているというのだから、母さんからしたらたまったものではないだろう。


 メグルは「あれぇ?」と頭をくと、地面に木の枝で奇怪な模様を描き始めた。

 きっと失敗した理由を探しているのだろう。


 私は砕け散ってなお、甘美な香りのする骨をかじりながら、メグルを見守った。


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