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第12話 メグルと姉さん式、ジェットコースター

 現在、僕たちは川のほとりで休憩中。

 と、言っても月明りもない真夜中、濁流が流れる傍での出来事なので、あまりのほほんとした構図ではないし、僕の息も切れ切れだ。


 終盤しゅうばんにはかなりの速度が出ていた為、1時間もする頃には僕が狼に襲われていた針葉樹の森にまで辿り着いていた。


 途中、垂直な崖を駆け上ったり、風になる勢いで疾走しっそうした為、背中にしがみついていただけのはずの僕はへとへとだった。


 それに比べて自力でついてきた兄弟が息一つ切らさずに辺りを見回しているのは少しくやしかった。

 頭でも力でも体力でも負けているとなると、もはや器用さぐらいしか勝てるものがないように思える。

 …兄弟もマロウさんと一緒か。


 皆が優しいので忘れてしまいがちだが、僕はこの過酷な環境下で生きるにはかなり異質な存在だ。


 マロウさん達に見放されたら最後、人里でも暮らせず、森でも暮らせず、すぐに死んでしまうだろう。


 いや、マロウさん達に見捨てられた時点でもう生きる気力がなくなってしまってそれどころではないが。


 どんな形であれ、この家族は僕の命綱いのちづなだ。見限みかぎられるようなことがあってはならない。

 これは訓練の一種なのかもしれないと思うと、僕は気を引きめなおして息を整えた。


 姉さんは一瞬、僕の顔を見るが、笑顔で大丈夫アピールをすると、前を向き、再び速度を上げていく。


 受ける風圧を最小限にするべく、姉さんのモフモフに体をうずめると、下を向いて鼻で息を吸って口で吐き出す。

 こうしないとあまりの速度に息ができないのだ。

 獣臭いのは…我慢しよう。


 姉さんは僕がえられていると分かったのか、先ほどとは比べ物にならない速さで駆け抜ける。

 姉さんの荒い息遣いから感じ取るに、これが持久式の最高速度なのだろう。


 辺りを見回すことはできない。

 しがみ付き呼吸をすることで精一杯だった。


 どれほどそうしていたのだろうか。

 僕の中では数十分ほどに感じたが、案外、数分だったのかもしれない。

 姉さんは少しづつ減速すると、やがて息を切らして歩き始めた。


 僕は足りなくなった酸素を吸い込むように顔を上げ、辺りを見回した。


 …皆がいない。


 まぁこれほど巨大な姉さんが本気を出して走ったのだから、皆が付いてこれるわけがない。


 姉さんは息が整うと、ぬかるんでいない木の根元に腰を下ろし、僕を地面におろしてくれた。


 目の前に広がるのは向こうきしが見えない程、大きな湖。

 後ろには針葉樹の森が広がっているので、森を抜けた、という事だろう。


 ただ、山を下った感覚はなかったので、ここがあの森からさらに高い位置にあることは分かる。

 広葉樹の森であっても人里からかなり離れ、それなりの高度があったはずだ。

 一体ここはどれほどの高度なのだろう。


 今すぐ辺りを散策したい興奮もあったが、薄い空気のせいで中々息が整わない。

 僕は大人しく姉さんの隣に腰を下ろすと、兄弟たちの到着を待つことにした。


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